意地
おもちゃ屋の前で泣く息子。
「買ってぇえー!」
床に転がり駄々をこねる。
「ダメだ」
そんな息子を一喝し立たせる。
「この前も買ってやったばっかりだろう」
服に付いた汚れをはたき、ほろってやる。
「違うの、この前のやつとは違うタイプなんだって」
「ダメだ」
息子の訴えも虚しく、泣き声だけが響きわたる。
「ほら、行くぞ」
「やだ」
「ほら、早く」
手を差し出すも無視。
「じゃあいい、俺だけ帰るからな」
秘技『突き放し』効果は抜群のようだ。
「うわぁーん!」
欲しい、けどこのままでは一人ぼっちになってしまう。
そんな狭間で息子は訳がわからなくなり、再び泣き出した
。道行く人々が何事かと見つめるも、そんな事は気にしな
い。
「ありがとうございましたー」
誰かが買い物を終えて出てくる。偶然にもうちと同じ親
子のようだ。
「あっ……」
息子が声を上げる。ビニールから透けて見えるおもちゃ
が欲しいものらしい。
「フッ……」
――笑われた。しかも鼻で。
「コーラ、ダメだろ笑っちゃ。人それぞれ事情があるんだ
」
そういう父親は”そんなものも買えないの?”と言った
顔でこちらを流し見。上から目線だ。
「かわいそうだね」
去りぎわに子どもが言った。
「……」
無言で佇む親子。なんだろうこのムカムカは、悔しい、
そうか、悔しいのか俺は。
「おい……お前が欲しいのはどこにあるんだ」
息子の顔がパッと明るくなる。
「こっち!」
店内へ走って行く息子を追って駆け出した。