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「疲れたら異世界キャンプ ~秘密の焚き火で心をリセット~」  作者: nekorovin2501


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第4話 湖畔の朝と、広がり始めた秘密

土曜の朝、佐藤悠真はアパートのベッドで目を覚ました。

 体が軽い。昨夜の異世界でのコーヒーの余韻が、まだ胸の奥に残っている気がした。

 「週末にキャンプに来て、疲れ果ててなくても門が開いた……」

 あの事実に、少しずつ実感が湧いてきていた。

 条件は「疲労がピークに達した時」だけじゃなかったのかもしれない。

 焚き火を囲んで、心から「ゆっくりしたい」「リセットしたい」と思った時にも、門は反応してくれる。

 それがわかっただけで、現代の生活が少しだけ楽になったような気がした。

 今日は土曜日。会社は休みだ。

 昨夜は異世界から戻った後、テントで少しだけ仮眠を取ってから自宅へ帰ってきた。

 インスタの通知をチェックすると、先週の湖畔写真のいいねがさらに増えていた。

 フォロワーは今や七百人を超えている。

 「すごいな……でも、特定されないように気をつけないと」

 朝食は簡単にトーストとコーヒー。

 窓から差し込む陽光を浴びながら、今日の予定を考える。

 もう一度、昨夜の湖畔へ行ってみよう。

 朝の異世界を見てみたい、という気持ちが自然と湧いてきた。

 午前十時。

 軽自動車にキャンプ道具を積み、再びいつもの山奥の無料キャンプ場へ向かった。

 道中、コンビニで新しいコーヒー豆とベーコンを追加購入。

 「今週は頑張ったご褒美」として、今日は少し贅沢に過ごそうと思った。

 キャンプ場に到着したのは午後一時頃。

 平日の夜とは違い、週末なので他のキャンパーが二組ほどいたが、十分に距離を取れる場所を選んで設営を開始した。

 テントを立て、焚き火台を設置。

 薪に火をつけ、炎が育つのを待つ。

 今回は疲れ果ててはいない。ただ、週末のゆったりした気持ちで焚き火を眺めている。

 「開くといいな……」

 小さく呟きながら、クッカーでお湯を沸かし、挽きたてのコーヒーを淹れる。

 香りが立ち上ると、隣のサイトのキャンパーが「いい匂いですね」と声をかけてきた。

 軽く会釈して応じつつ、俺は自分の世界に浸る。

 炎がパチパチと音を立て、煙が青空に昇っていく。

 心が穏やかになるのを感じながら、焚き火を見つめた。

 すると——

 炎の中心が、再び青白く輝き始めた。

 煙がゆっくり渦を巻き、光の門が姿を現す。

 向こう側には、昨夜と同じ湖畔の森が見えた。

 昼間の光が差し込み、木々が鮮やかに輝いている。

 「やっぱり……開いた」

 嬉しさが込み上げてきた。

 疲れ果てていなくても、週末の焚き火で「行きたい」と思っただけで十分らしい。

 これで、もっと気軽に異世界を訪れられる。

 心の負担が、また一つ軽くなった。

 小型のバックパックにコーヒーセットとクッカー、ナイフ、軽食を詰め、門をくぐった。

 異世界の昼下がり。

 柔らかい陽光が木々の葉を透かし、地面に斑な影を落としている。

 空気は澄んでいて、甘い花のような香りが微かに漂う。

 湖の水面は穏やかで、風に小さな波が立っていた。

 「ここ、昼間もすごいな……」

 湖畔まで歩き、昨日と同じ場所にシートを広げる。

 ランタンは不要なので、代わりに小さな折り畳みテーブルをセット。

 クッカーで新鮮な水を沸かし、コーヒーを丁寧にドリップする。

 異世界の水は冷たくて甘みがあり、豆の風味を驚くほど引き立ててくれた。

 一口飲むと、体の内側から温かさが広がる。

 現代のどんな高級コーヒーより、遥かに美味しく感じた。

 スマホを取り出し、慎重に撮影を始めた。

 湖面に映る青空と木々の緑。

 手前にコーヒーカップと、軽く炙ったベーコンを並べてアングルを取る。

 空の色を少し抑えめに加工し、木々の輪郭を軽くぼかす。

 キャプションを考えながら下書き保存。

 「#湖畔キャンプ #週末の贅沢 #秘境のコーヒータイム」

 「日本の山奥で見つけた絶景スポットです。詳しい場所は秘密♪」

 投稿したら、すぐに反応が来そうだ。

 バズればバズるほど嬉しい反面、特定されるリスクも増す。

 でも、今はそんな心配より、目の前の景色に浸っていたい。

 午後が深まるにつれ、湖畔の雰囲気が変わっていった。

 陽が傾き始め、木々の影が長く伸びる。

 遠くで小さな鳥のような生き物が飛び交い、時折キラキラと光を反射していた。

 魔物かもしれないが、こちらには近づいてこない。

 ソロキャンの知恵で、音を立てすぎず静かに過ごせば大丈夫そうだ。

 夕方近く、持ってきたホイル包みを焚き火代わりの小型ガスバーナーで温める。

 ベーコン、じゃがいも、異世界で昨夜拾った見慣れない香草を一緒に。

 塩とバターで味付けすると、驚くほど美味しかった。

 現代の調味料と異世界の素材が融合した、秘密のキャンプ飯。

 スマホでその様子を動画で短く撮影。

 炎の揺らめきと湯気、湖の背景を入れて「#キャンプ飯 #秘境グルメ」。

 バレないよう、生き物の気配は一切入れない。

 夜が近づき、星が一つ二つと現れ始めた頃、俺はシートに寝転がって空を眺めた。

 現代では見えないほどの星の数。

 天の川が太く輝き、星々が静かに瞬いている。

 体全体が、優しい夜風に包まれているような感覚。

 「ここに来ると、本当に心が溶けていく……」

 仕事の小さなプレッシャー、インスタのコメントで感じる微かな焦り、すべてが遠くなる。

 異世界の静けさが、俺の心を丁寧に癒してくれる。

 門はまだ開いたまま、現代側の焚き火の光を小さく見せていた。

 今回は少し長めに滞在してみよう。

 朝までここで過ごし、異世界の朝焼けを見てみたい。

 夜更け、シュラフに包まって目を閉じる。

 異世界の星空の下で眠るのは、現代のテント泊とは全く違う心地よさだった。

 体も心も、深くリラックスしていく。

 そして、夜が明けた——

 朝の湖畔は、幻想的だった。

 薄い朝靄が湖面を覆い、水鏡のように周囲の木々と空を映している。

 陽が昇り始め、オレンジとピンクの柔らかい光が靄を優しく染め上げる。

 鳥のさえずりが遠くから聞こえ、木々の葉が朝露で輝いていた。

 俺はシートから起き上がり、深呼吸した。

 冷たい朝の空気が、肺に心地よく染み込む。

 クッカーで湯を沸かし、再びコーヒーを淹れる。

 朝の光の中で飲むコーヒーは、また格別の味がした。

 スマホでその朝焼けを撮影。

 靄のかかった湖と、昇る朝陽。

 加工は最小限に。「#秘境の朝焼け #キャンプの醍醐味」

 これをアップしたら、きっとさらにバズるだろう。

 心が、完全にリセットされていた。

 月曜からの仕事も、もう少し前向きに頑張れそうな気がした。

 この秘密の場所がある限り、俺は大丈夫だ。

 朝の光が強くなってきた頃、門がゆっくりと薄れ始めた。

 自然と現代側へ引き戻される感覚。

 俺は名残惜しそうに湖畔を振り返り、光の門をくぐった。

 現代のキャンプサイトに戻ると、他のキャンパーたちが朝の準備を始めていた。

 焚き火の灰は冷たく、テントは朝露で少し湿っている。

 普通の週末の朝が、そこにあった。

 でも、俺の胸の中には、異世界の朝焼けとコーヒーの余韻がしっかり残っていた。

 「次は、もっと奥へ行ってみようかな」

 小さく呟きながら、撤収作業を始めた。

 秘密のソロキャンプは、まだ始まったばかりだ。

(第4話 終わり)

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