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「疲れたら異世界キャンプ ~秘密の焚き火で心をリセット~」  作者: 新米オッさん兵士


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第26話 霧影兎と、心のささやき

金曜の夕方、佐藤悠真は軽自動車を走らせながら、胸の奥に静かな期待を抱いていた。

 今週はプロジェクトの締め切りで少し疲れたが、異世界の森が恋しくて仕方なかった。

 特に、先週出会った霧影兎きりかげうさぎのふわふわした姿が、頭から離れなかった。

 キャンプ場に着くと、いつもの手順でテントを設営し、焚き火台に火を起こした。

 炎が育つと、心の中で強く願った。

 「今夜は、ゆっくりしたい……

 あの子が、待っていてくれたらいいな」

 炎が青白く輝き、光の門が開いた。

 悠真はバックパックに星白米、銀葉草、星蜜果、現代の粗塩と蜂蜜を詰め、門をくぐった。

 異世界の湖畔に着いた瞬間、甘い草の香りと湖風が体を包んだ。

 焚き火を大きく起こし、タープを張って簡易キャンプを設営していると——

 茂みの影から、ふわふわした灰白色の影がそっと顔を出した。

 長い耳をぴくぴくさせ、淡く光る目。

 霧影兎だった。

 前回より一回り近く感じられ、悠真の焚き火の側にちょこんと座り、こちらを見つめている。

 「……来たんだ」

 悠真はゆっくりと近づき、星蜜果の欠片を差し出した。

 兎は最初は警戒したように耳を倒したが、果実の甘い香りに負けたのか、そろそろと近づいてきた。

 小さな前足で果実を抱え、かりかりと食べ始める。

 その瞬間——

 頭の中に、初めての優しい「声」が響いた。

 言葉というより、温かいイメージと感情が直接伝わってくる。

 『……あたたかい……

 ここ、きもちいい……

 おなかすいた……でも、こわくない……』

 悠真は息を飲んだ。

 森の心の囁き——新しいスキルが、静かに目覚めたのだ。

 霧影兎の純粋な感情が、心の中に直接届いてくる。

 警戒しつつも、焚き火の温かさと悠真の優しさに安心しているのが、はっきりとわかった。

 「大丈夫だよ……ゆっくり食べて」

 悠真はもう一つ星蜜果を差し出し、焚き火の側に座った。

 霧影兎は果実を食べ終えると、そろそろと近づいてきて、悠真の膝の近くに丸くなった。

 ふわふわの毛並みが、膝に軽く触れる。

 その感触に、胸がじんわりと温かくなった。

 今夜のキャンプ飯は、霧影兎と一緒に作るような気持ちで進めた。

 一品目:星白米と銀葉草の森風炊き込み飯

 クッカーに星白米を入れ、清流の水を注ぐ。

 銀葉草をたっぷり刻んで加え、森晶塩で味付け。

 火の囁きと香りの導きが働き、火加減が完璧だった。

 炊き上がると、星白米の甘い香りと銀葉草の爽やかさが湖畔に広がった。

 霧影兎は興味津々で近づき、炊き上がったご飯の香りをくんくん嗅いでいる。

 二品目:炎鱒と森守鶏のミックス串焼き

 炎鱒と森守鶏の肉を交互に串に刺し、炎芯胡椒と銀葉草を振って焚き火で焼く。

 脂が滴り落ち、香ばしい煙が立ち上る。

 霧影兎は煙の匂いに誘われて、さらに近くに来た。

 悠真は焼き上がった串から少し肉を外し、小さな葉っぱの上に置いてあげた。

 兎は嬉しそうに食べ始め、心の声が伝わってくる。

 『うまい……

 あたたかい……

 きみ、やさしい……』

 悠真は思わず笑みがこぼれた。

 「気に入ったか? もっとあげるよ」

 三品目:黄金花と星蜜果の温かな花蜜茶

 黄金花を煮出し、星蜜果の汁を加えて焚き火の余熱で温める。

 優しい甘い香りが夜の湖畔に広がった。

 霧影兎は焚き火の側で丸くなり、時々耳をぴくぴくさせながら悠真の膝に寄りかかってきた。

 食事を終えた悠真は、焚き火の側にシートを敷き、シュラフに包まって星空を眺めた。

 霧影兎は膝の上にちょこんと乗っかり、温かい体を預けてきた。

 心の声が、穏やかに響く。

 『ここ、すき……

 またくる……

 きみ、ともだち……』

 悠真はそっと兎の頭を撫でた。

 ふわふわの毛並みが指に優しく触れ、心が溶けるような温かさが広がった。

 一人だったキャンプが、少しだけ賑やかになった。

 秘密の焚き火は、ただの癒しの場ではなくなり始めていた。

 夜が更けても、霧影兎は悠真の側を離れなかった。

 焚き火の炎が優しく揺れ、湖面が星を映す。

 森の心の囁きが、静かに悠真の心を満たしていく。

 朝が来た。

 湖畔の朝は、幻想的だった。

 朝陽が湖面を金色に染め、霧影兎はまだ悠真の膝の上で丸くなっていた。

 悠真は起き上がり、残りの星白米で簡単な朝粥を作り、銀葉草を散らした。

 霧影兎にも少し分けてあげると、嬉しそうに食べながら心の声が伝わってきた。

 『あさ、ごはん……

 きみ、だいすき……』

 朝食を終え、焚き火の灰を冷ましながら、悠真は霧影兎に語りかけた。

 「また来るよ。

 待っててくれるかな?」

 霧影兎は耳をぴくぴくさせ、頭を軽く擦りつけてきた。

 心の声が、最後に優しく響いた。

 『まってる……

 またあう……』

 午前十一時頃、門がゆっくり薄れ始めた。

 悠真は霧影兎をそっと森の側に下ろし、名残惜しそうに湖と森を振り返った。

 霧影兎は茂みの影からじっと見送ってくれているようだった。

 現代のキャンプサイトに戻り、撤収作業をしながら悠真は胸に手を当てた。

 霧影兎の温もりと、心の声がまだ残っている。

 アパートに帰ったら、ベランダで焚き火を起こし、今日の思い出をゆっくり味わおうと思った。

 秘密の焚き火は、今日も俺の心を深く、優しく癒してくれた。

 そして、森の小さな友達が、俺を待っていてくれる。

(第26話 終わり)

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