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「疲れたら異世界キャンプ ~秘密の焚き火で心をリセット~」  作者: nekorovin2501


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第2話 バズり始めた秘境写真

 朝の陽光がテントの生地を透かして差し込んでくる。

 佐藤悠真はシュラフの中でゆっくりと目を覚ました。

 体が軽い。久しぶりに、胸の奥の重しが取れたような感覚だ。

 「……昨夜は、夢じゃなかったんだな」

 テントから這い出ると、昨夜の焚き火台には白い灰が残っていた。

 現代のキャンプサイトは静かで、鳥のさえずりだけが聞こえる。

 スマホを確認する。時間は午前七時半。会社からのLINEはまだ来ていない。

 昨夜の下書きフォルダを開く。

 異世界で撮った星空の写真が三枚。

 天の川がくっきり浮かび上がり、木々のシルエットが幻想的に映っている。

 色温度を少し下げ、空の青みを抑えめに加工。

 キャプションを打つ。

 「#秘境キャンプ #夜空がすごい

 週末に逃げ込んだ山奥のキャンプ場。

 星が近すぎて怖くなるレベルでした。

 焚き火の炎をバックにホイル焼きも最高!(次回投稿予定)」

 位置情報はオフ。

 「日本の某所です。詳しくは秘密♪」と軽く付け加えて投稿。

 フォロワーは現在二百人ほど。ソロキャンプアカウントとして細々と続けているだけだった。

 朝食はシンプルに。

 残りのベーコンと卵を焚き火の残り火で炒め、インスタントコーヒーを淹れる。

 湯気が立ち上るのを眺めながら、昨夜の記憶を反芻した。

 あの光の門。

 異世界の森。

 甘い草の匂いと、信じられない星空。

 そして、心が溶けていくような解放感。

 「疲れた時だけ……か」

 トリガーは明確だった。

 現代のストレスが限界に達し、焚き火を眺めながら「もう無理だ」と思った瞬間。

 それが鍵らしい。いつでも行けるわけじゃない。

 それは逆に安心だった。無制限に逃げられる逃げ場では、かえって現実が辛くなる。

 朝食を終え、撤収作業を始めた。

 テント内のシュラフとマットを外に出して干す。

 インナーテントを丁寧に畳み、フライシートを払う。

 ペグを一本ずつ抜き、泥を軽く落として袋へ。

 ソロキャンプの醍醐味は、この片付けの効率化にある。

 すべてを素早く、丁寧に。無駄な動きを減らす。

 焚き火台の灰を完全に冷まし、クーラーボックスに収納。

 最後にグランドシートを畳んで車へ。

 九時前にはサイトは綺麗に元通りになった。

 「良い朝だった」と心の中で呟き、軽自動車に乗り込む。

 帰宅途中のコンビニでアイスコーヒーを買った。

 アパートに戻ると、スマホの通知が鳴り響いていた。

 インスタのいいねが、投稿から三時間で二百を超えていた。

 コメントも次々と。

 「この星空やばい!どこですか!?」

 「加工じゃなくて本物? 信じられない綺麗さ……」

 「キャンプ飯のホイル焼きも美味しそう! レシピ教えて!」

 「秘境すぎる。地図アプリで検索しても出てこないんだけど」

 悠真は苦笑した。

 予想以上に反応が良い。

 星空写真は特にバズり始め、フォロワーが一気に三百五十人まで跳ね上がっていた。

 「バレないよう、気をつけないとな……」

 午後になり、会社から着信。

 有休を取った件で上司から軽い説教が入った。

 「佐藤、来週の納期は大丈夫か? ちょっと厳しめだけど頼むぞ」

 いつもの無茶振り。

 悠真は「はい、頑張ります」と答えながら、心の中でため息をついた。

 夕方六時。

 残業でデスクに張り付いていると、再び胸が苦しくなってきた。

 画面に映るエラーログの山。

 後輩が辞めたいと言い出した件のフォローも押しつけられ、頭が痛い。

 「……今日も、限界かも」

 仕事が終わったのは午後十時過ぎ。

 アパートに戻るなり、すぐにキャンプ道具を車に積み込んだ。

 昨日と同じ無料キャンプ場へ向かう。

 心が疲れ果て、焚き火をしたいという欲求だけが体を動かしていた。

 到着は午後十一時半。

 夜の設営はヘッドランプを頼りに迅速に。

 テントを立て、焚き火台を設置。

 薪に火をつけ、炎が育つのを待つ。

 缶ビールを開け、一口飲む。

 スマホで昨日の投稿を確認すると、いいねが八百を超えていた。

 新着コメントに「この写真、AI生成じゃないよね? 本当に日本?」というのもちらほら。

 焚き火の炎がパチパチと音を立てる。

 煙が夜空に昇っていく。

 俺は炎を見つめ、無心になった。

 その瞬間——

 炎が再び青白く輝き、渦を巻いた煙の中心に、光の門が現れた。

 「来た……」

 心が少し軽くなるのを感じながら、悠真は門の向こうを覗き込んだ。

 同じ森。昨夜よりも少し奥に見える湖の水面が、星明かりを反射している。

 ランタンと小型クッカー、ナイフと食料を小さなバックパックに詰め、門をくぐった。

 異世界の夜風が頰を撫でる。

 空気は甘く、木々の葉が微かな光を帯びているように見える。

 門の向こうには、現代の焚き火が小さく見えていた。

 「よし、今日は少し探索してみるか」

 湖畔まで歩いてみた。

 道中、小さな動物のような影が木の陰を走るが、近づいてはこない。

 魔物かもしれないが、今のところ危害はなさそうだ。

 湖のほとりにシートを敷き、焚き火台の代わりに小型のガスバーナーで湯を沸かす。

 持ってきたインスタントの味噌汁と、昨夜の残りの米で簡単なおにぎりを作る。

 異世界の澄んだ水で淹れたコーヒーは、香りが段違いに良かった。

 スマホで撮影開始。

 湖面に映る星空をバックに、湯気の立つコーヒーカップを手前に。

 焚き火の代わりにランタンの柔らかい光を入れ、角度を何度も変える。

 「#湖畔キャンプ #秘境の朝焼け待ち」風に加工して下書き保存。

 「これなら『日本の山奥の秘湖』って説明でいけるはず……」

 コメントがさらに増えそうだ。

 バズればバズるほど、特定されそうな恐怖もある。

 でも、今はそんな心配より、目の前の景色が心地よかった。

 星空の下でコーヒーをすすりながら、悠真は小さく笑った。

 現代のストレスが、ゆっくりと溶けていく。

 会社の上司の顔、納期のプレッシャー、後輩の愚痴——すべてが遠くなる。

 「ここは、俺だけの場所だ」

 夜が更け、門がまだ揺らめいているのを確認して、悠真は現代側に戻った。

 焚き火の炎は弱々しく残っていた。

 テントに入り、シュラフに包まる。

 スマホの通知音が鳴る。

 インスタのフォロワーが五百人を突破していた。

 新着コメントには「この湖、行きたい! 場所教えてください!」という熱烈なものが並ぶ。

 悠真は目を細めた。

 「絶対に言えないよな……」

 でも、心は軽かった。

 明日も仕事がある。

 でも、疲れたらまたここに来ればいい。

 秘密のポータルが、俺を守ってくれている。

 焚き火の最後の火の粉が、夜空に舞い上がった。

(第2話 終わり)

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