第5話 残るもの
リング内部の照明は、
どこか不自然に白かった。
時間の感覚が曖昧になる。
昼なのか夜なのか、それすら分からない。
「ねえ、ホタル」
アカリが言う。
「なに?」
「ここってさ」
少しだけ間を置いて。
「ずっと記録してるんだよね」
「うん。全部、残る」
私は端末から目を離さずに答えた。
それがこの施設の目的。
宇宙の観測。
記録。
——消えないための装置。
「ふーん」
アカリは、どこか上の空だ。
「じゃあさ」
「うん」
「消えたものも、残るのかな」
私は手を止めた。
「……どういう意味?」
アカリが少しだけ笑う。
軽い調子で。
「そのままの意味だよ」
でも、その目は少しだけ違った。
「消えた星とか」
再び私は答えた。
「記録は残るよ」
「でも、それは“過去”でしょ?」
アカリは言う。
「存在してるわけじゃない」
「……そうだね」
「でもさ」
アカリが指さす窓の外には、
宇宙が広がっている。
無数の光。
その中に二つだけ、
少しだけ近い距離で並ぶ光があった。
「最後にさ」
「うん」
「二つだけ残る気がするんだよね」
私はアカリを見た。
「……なにそれ」
「なんとなくだけど、
未来を一個だけ見た感じ」
私は眉をひそめる。
「またそれ?」
「またそれ」
軽く返されてしまう。
でも——
その言葉に、少しだけ引っかかった。
「ねえホタル」
「なに?」
「全部消えたあとでもさ」
少しだけ、声が静かになる。
「何か残ってたらさ」
私は答えずに、アカリの言葉を待った。
「それって、ちょっといいと思わない?」
少しだけ考えてから、
「……まあ」
と口にすると、アカリは嬉しそうに笑った。
「でしょ」
そのまま、何もなかったみたいに端末に触れる。
ログが流れる。
星のデータ。
光の記録。
消えていくもの。
残るもの。
私はもう一度、窓の外を見た。
さっきの二つの光は、
ただの偶然かもしれない。
でも、
なぜか、目が離せなかった。
——まるで、それが“最後に残るもの”みたいに。
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