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第4話 No.322

「で、その観測センターってのがここ?」


ホタルは建物を見上げた。


無機質な外観。

コンクリートの塊みたいで、

装飾らしいものはほとんどない。


「うん。ここで全部、記録してるらしいよ」

「……へえ」


アカリは迷いなく歩き出す。


その背中を見ながら、

ホタルはほんの少しだけ違和感を覚えた。

昨日の出来事のあとにしては、

妙に落ち着いている。


「……アカリ」

「なに?」

「いや、なんでもない」


言葉にすると、消えてしまいそうだった。


入口は拍子抜けするほど簡単に開いた。


「こんなもんなの?」

「見学用だからじゃない?」


二人はそのまま中へ入る。

空気が変わった。

ひんやりしていて、静かすぎる。

機械の音すらほとんど聞こえない。


「……ねえ」

「人、いなくない?」

「観測中なんでしょ」


アカリは気にした様子もなく奥へ進む。

その足取りに迷いはない。

まるで、この場所を知っているみたいだった。


廊下はやけに長く感じた。


同じ壁。

同じ照明。


どこまで歩いても景色が変わらない。

足音だけが、規則的に響く。


コツ、コツ、コツ。


「ねえ、アカリ」

「んー?」

「ここさ」


一瞬迷ってから言う。


「……変じゃない?」


アカリが少しだけ立ち止まる。

けれど、すぐにまた歩き出した。


「そう?」


それだけだった。


理由はない。

でも。

ここに長くいたくない。

そんな感覚だけが残った。


「ここ」


ドアの向こうから、かすかに機械音が聞こえた。

それだけで、少しだけ安心する。


「入るよ」


アカリがドアに手をかける。

その瞬間、

既視感が走った。


ここ、来たことがある。

そんなはずないのに。


思い出そうとしたが、

その感覚はすぐに消えてしまった。


部屋の中には、モニターが並んでいた。

数字が流れている。


ログ。

観測記録。


ただ、それだけのはずなのに。

なぜか、見られているような気がした。


「ねえ、これ」


アカリが画面を指さした。

ホタルはモニターに近づく。

ログが並んでいた。


同じ形式。

同じ流れ。


終わりなく続く記録。

まるで、最初から決まっていたみたいに。


「ホタルって、緑っぽいよね」

「え、なにそれ」

「ずっとそこにある感じ」


少しだけ言葉に詰まる。


「じゃあアカリは?」


一瞬の沈黙。


「……赤かな」


その声が、なぜか耳に残った。

画面がほんの一瞬、揺れた。


 No.320

 No.321


そして


 No.322


「……今の、見た?」

「え?」

「いや……」


もう一度画面を見る。

しかし、そこには、


 No.321


しかない。


「気のせいじゃない?」


アカリが軽く言う。

その否定が、少しだけ早い。


「ちゃんと、残るでしょ」

「え…なに?」


アカリが小さく笑った瞬間、

画面が切り替わった。


 No.322


今度ははっきり表示されていた。

だが、その下のログの一部が空白になっている。

あるはずの記録が、抜け落ちていた。


「……これ」


ホタルの声が掠れる。

ふいに、隣でアカリが言った。


「ホタルは、残るからいいよね」

「……どういう意味?」


アカリは少しだけ笑う。


「……大丈夫だよ」


何が。


そう聞こうとした瞬間、

ログが一斉に書き換わった。


 No.321


すべてがそこへ戻る。

さっきまであったはずの

No.322は消えていた。


確かに見た、はずなのに。

思い出せない。


違和感だけが残った。


「……今の、どう思う?」

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