第3話 未来ログの一致
操作室の空気が、凍りついていた。
ディスプレイに表示された文字。
AKARI:DEATH
理解したくなかった。
「……これ」
アカリの声が、かすかに揺れる。
「バグ、だよね?」
答えられない。
言葉が、出てこない。
「……確認する」
私はコンソールに触れた。
ログの整合性チェック。
エラー確認。
データ破損。
機械的に、処理する。
結果は——
異常なし。
「そんなわけ……」
アカリが画面を覗き込む。
「壊れてないの?」
「……正常って出てる」
「じゃあ、これ何?」
分からない。
でも、ひとつだけ分かる。
——これは嘘じゃない。
低い機械音だけが周囲に響く。
「ねえ、ホタル。もう少し先、見れる?」
「……見れる」
私は頷いた。
時間軸を開く。
現在。
その先。
まだ来ていない時間。
思わず指が止まる。
「これ……五分後」
「再生して」
一瞬、迷う。
でも、押した。
映像が立ち上がる。
操作室。
今と同じ景色、同じ光。
そして——
アカリがいる。
いつもの顔で、笑っている。
『ちょっと向こう見てくるね』
心臓が、強く鳴る。
映像のアカリは、操作室を出ていく。
廊下を右へ曲がる。
その先で、
赤い警告灯が点滅していた。
知っている光景。
嫌な予感。
次の瞬間——
ノイズが走り、映像は途切れた。
私はゆっくり顔を上げる。
アカリと目が合った。
そして——
「ちょっと向こう見てくるね」
同じ言葉。
同じ声。
同じタイミング。
「待って!」
思わず叫んだ。
アカリが驚く。
「え?」
「……行かないで」
「なんで?」
言えない。
でも、分かる。
行かせたら、起きる。
「お願い」
驚くような硬い声だった。
アカリが少し困ったように笑う。
「大げさだなあ」
その笑い方。
夢と同じだ。
「すぐ戻るって」
軽く手を振って、出ていった。
「アカリ!」
廊下を追いかける。
右へ。
全部、同じ。
心臓がうるさい。
警告灯が点滅している。
「止まって!」
その瞬間、何かが軋んだ。
上を見る。
遅かった。
金属の塊が叩きつけられる。
衝撃音。
火花。
視界が揺れ、
息が止まる。
恐る恐る、目を開けた。
アカリは——
立っている。
無事だった。
ほんの少し。あと数十cm。
その差で、直撃を免れた。
「……びっくりした」
掠れるアカリの声。
私は動けない。
今のは全部、ログと同じだ。
偶然じゃない。
予測でもない。
もう、決まっている。
すでに——
記録されている。
「……ホタル?」
アカリが振り向く。
私は震える声で言った。
「これは予測じゃない」
喉が乾く。
けど、それでも、止めない。
「——記録された未来」
その言葉で、現実が確定した。
私は端末を見る。
ログ。
その先をスクロールする。
時間が並ぶ。
その中に——
AKARI:DEATH
さっきよりも、はっきりと。
逃げられない終わりが。
私は息を止める。
アカリが隣で呟く。
「……それ」
言葉が続かない。
でも、もう分かっている。
これは。
終わりの記録だ。
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もし未来がすでに記録されているとしたら、
あなたはそれを変えようとしますか?




