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たんぽぽの綿帽子

作者: 諏訪 惠
掲載日:2026/02/28

ふわふわと飛んでいく綿帽子を追いかけて、子どもは大人になっていく。

自由な綿帽子とそれを追う男の子の小さなお話。

1.

 ふわふわと風にのって飛んでいく綿帽子を、ひとりの男の子が追いかけていきます。

 ゆっくりと陽が落ちて空がオレンジ色に染まっていく、町はずれでの出来事です。

 綿帽子がどこまで行くのか、男の子にはわかりませんでした。綿帽子を追いかけてどこまで行くのか、男の子にはわかりませんでした。一日中歩いていた男の子の足はすっかりくたびれていましたが、綿帽子を追うことをやめようとはしないのです。

 男の子の目の前を、綿帽子はふわふわと飛んでいきました。男の子は何度も手を伸ばします。小さな綿帽子は逃げることもなく、なのにつかまってはくれません。綿帽子をつかもうと握った手のひらを開いてみると、そこには何もないのです。素知らぬふりでふわふわと、あてもなく旅をしているようでした。

 男の子は町を出て線路を越えました。山を越え海を渡って、知らない町まで行きました。途中で後ろを振り返ると、懐かしい景色が見えます。綿帽子を追いかけて、なんて遠くまで来たんでしょう。寂しくなって足を止めても、綿帽子は止まってくれません。だから男の子は涙を拭って、また歩き始めるのでした。


2.

 綿帽子を追いかけているうちに、男の子は大人になりました。大人になった男の子に、綿帽子がいいました。

「そろそろお家に帰ったらどうだい?」

 男の子は答えていいました。

「やだよ」

 大人になった男の子には、たくさんの友だちがいました。友だちには綿帽子をつかまえた人も、綿帽子を探している人もいます。友だちはみんな男の子を応援していましたし、男の子も友だちを応援していました。

 なかには意地悪な人もいて、男の子を傷つけました。綿帽子を見失いそうになるたびに、男の子は不安になりました。喜んだり悲しんだり、怒ったり笑ったりしながら、男の子は一歩一歩進むのでした。

「僕をつかまえてどうするのさ?」

「土に埋めて水をやるのさ」

「そんなことをして何が楽しいんだい」

「忘れたのかい?君を飛ばしたのは僕だよ」

綿帽子は種でした。男の子が見つけた、男の子だけの種です。大人になった男の子には、そのことがわかっていました。だから諦めることなく、追いかけ続けているのです。

 男の子が綿帽子を見つけたのは、ずいぶん昔のことのようでも、つい昨日のことのようでもありました。綿帽子を追いかけている限り、男の子はずっと子どものままでした。たくさんのことを聞き、たくさんのものを見て、たくさんのことを知っていくのです。

「あのね、綿帽子」

男の子はもう一度、綿帽子に手を伸ばしました。

「僕は君を咲かせたい。君は僕だけの種なんだから」

 握りしめた手のひらを開いてみると、やっぱりそこにはなにも残ってはいませんでした。綿帽子は少し笑って、またふわふわと風にのって運ばれていきます。男の子はちょっとがっかりして、それから顔をあげて笑いました。綿帽子が飛んで行くのですから、男の子もまた歩き始めるのです。


3.

 綿帽子がどこまで行くのか、男の子にはわかりませんでした。綿帽子を追いかけてどこまで行くのか、男の子にはわかりませんでした。けれど、いつか男の子のてのひらが綿帽子を包みこんだとき、そこにひとつの芽がでるでしょう。追いかけ続けてきた夢が、ひとつの花を咲かせるでしょう。

 綿帽子が言いました。

「ぼくを諦めちゃ駄目だよ。君が追いつくのを待っているから」

 春の終わりの野原で、子どもたちが遊んでいます。飛べよと息を吹きかけられて、種は夢へと転じます。そうしてたんぽぽの綿帽子はふわふわと、次の春へと旅を始めるのでした。


地平線の向こうでは、たくさんの綿帽子が待っている。

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