第九話 「アザドラニア王立学園」
二章始まります。
整った王都の道は心地よい。
アヴィゲイル領の道とは違い、馬車に乗っていても体を痛めない。
アイギスがちらと脇を見ると、入学の記念に父が送った剣がある。
シンプルな作りの灰色の柄、鍔はクロスガードになっており、白く鋭い輝きを放つ。
魔導杖が良かった、というのがアイギスの本心だ。それでも、アヴィゲイル伯爵である父が作らせただけあって市場に出回る剣とは一味違う。少量ではあるが竜の素材も使われている逸品だ。
王都の屋敷は以前来た時よりも綺麗になっていた、執事の話によると改装したそうだ。
屋敷にシスカを残し、兄であるファギエルと共に寮に向かう。新しい生活への不安と期待、アイギスの心は締め付けられるようだった。
ふとファギエルを見るアイギス。
窓の外から流れ込む風は彼の青い髪を靡かせる。
その時、自身を見つめるアイギスが何か尋ねようとしていることに気付いたのか、目を向ける。
「兄上、寮の敷地からは誰が荷物を運んでくれるのですか?」
その言葉にファギエルは苦笑いを浮かべながら、「楽しみにしていて」と言う。
馬車が寮の門の前に到着した時、そんなアイギスの妄想はかき消えた。
日が当たり燃えるような色を放つ赤髪、腕を腰に当て笑顔でアイギスを見る女性。
「姉上!!」
そう口にすると同時に、駆け出した。
「いらっしゃいアイギス!王立学園へようこそ!」
駆け寄り、ギュッと抱きつく先は姉であるリリアン。
リリアンの腕のなかで振り返ると、護衛の騎士と共にファギエルが門の向こうでこちらを見ている。
来ないのかと思い見つめていると、いつもの微妙な顔を見せる。
笑っているとも困っているとも言えない顔だ。
「構いませんわ、少しくらい大丈夫でしょう」
アイギスが疑問を問いかけるより先に、リリアンの頭の向こうから声がした。
リリアンの腕を逃れ、声の聞こえた方を見る。
「ようこそアイギス、アザドラニア王国王立学園へ。」
純白の騎士を二人と、灰色の騎士を四人連れたとても綺麗な女性が立っていた。
リリアンも美人の部類には入るだろうが、オーラが違う、目の前にいるだけで背筋が伸びるような感覚になる。
女性が腕を少し上げて指を振ると、脇に控えていた灰色の騎士達が門の境界で控えるファギエルの騎士達から、アイギスの荷物を引き取る。
「そうはいきません、殿下」
珍しく、濁りのないファギエルの声。
「全くあなたも堅いのですね」
「まさか、私はこれでも柔らかい方です」
殿下と呼ばれた女性と兄とを交互に見るアイギスに、笑顔を浮かべた姉がぐいと視界に入り込む。
「アイギス、友達を紹介するわ!リリアナ・アザドラニアン殿下よ!この国の第二王女様!」
殿下という言葉から察してはいたが、まさか本当に王女殿下なのか。
慌ててその場に片膝をつき、頭を下げる。
「アイギス・アヴィゲイルです、王女殿下とはつゆ知らず、ご無礼を。」
一瞬の沈黙の後、殿下が声を発する。
「そんなにかしこまらないで、学園は身分の縛りなく学びを得る場なのよ…でも、王家の人間としてその忠誠、しかと受け止めました。」
忠誠を認められ、初めて立ち上がる、アイギスが父から教わった王家の人間に対する礼儀だ。
「そんな訳にはいきません、建前はその通りかもしれませんが、私は学生である前にアヴィゲイル家の貴族、アザドラニアン王家に使える者ですので。」
その言葉に王女は、少し困ったような顔でリリアンを見る。
目を向けられた本人は肩をすくめている。
「アイギスったらいつも真面目なのよね、いいわ!近衛騎士の皆様を荷物持ちに使ったなんて知られたらどうなることか、早く運びましょ!こっちよ!」
そう言いながら小走りする姉に、随分重いはずの荷物を二人だけで持っていく灰色の騎士。
後ろに続く王女と白い騎士の更に後ろにアイギスが続く。
ふと思い出し振り返ると、兄が手を降ってくれた。
「兄上!ジスタン!それにみんなもありがとう!またね!!」
声を張ると、兄に続き騎士のジスタンも手を振る。
騎士なのに手を振るなんて、アヴィゲイル家の騎士達は強くて気のいい人ばかりだ。
みんなの姿を目に焼き付け、遅れまいと駆け出すと、灰色の騎士と先に行った姉とは違い、白の騎士と王女殿下は待ってくれていた。
「すみません、お待たせしてしまって」
アイギスが殿下に追いつき、左隣を歩き出す。
左隣に控えていた白の騎士が、その後ろに控える。
隣を譲ってくれたようにも見えるが、これは違う。
いつでもアイギスを斬り殺せる位置だ。
「白い鎧の騎士様は剣は持ってないの?僕は入学祝いに父上から剣を貰ったんだ」
話しかけられたことが想定外だったのか、ふと王女に目を向ける騎士。
小さく頷く王女に、騎士が返事をくれる。
「私は剣を持ちません」
鋭い女性の声、しかしあまりに短い回答に困った顔をすると、王女殿下が捕捉してくれる。
「彼女は魔術で武器を作るのよ、剣でも槍でもなんでもできるの」
「殿下、アヴィゲイル家の方とはいえ私達の手の内を話すのはいけません。」
「いいじゃない、リリアンは知ってるのよ」
王女の言葉を否定はできないのか、押し黙る騎士。
アイギスはというと、その話に納得していた。
アイギス自身が王女を害することは無いが、王家の敵対勢力に捕まり、拷問されて話してしまうかもしれない。
「いいえ殿下、騎士様のおっしゃる通りです、敵が目の前にいるとは限りませんから、配慮にかける質問でした、すみません」
謝罪に対し、白い騎士は頷くのみ。
しかし二度、様と付けて呼んだのに何も反応がないあたり、もしかすると侯爵家以上の人間かもしれない、あるいはそれすら偽装の一部なのか。
「ですがやっぱり気になります!言えないことは構いませんから、普段の鍛錬で気にかけられていることとかはないのですか?王家の近衛騎士の方に話を聞ける機会なんてなかなかありませんから」
その言葉に、再び殿下に目を向ける騎士。
少し拗ねたような王女が頷くと、騎士は漸く口を開く。
「私達の稽古はほとんどが実践形式のものだ、要人護衛に特化した訓練をしている」
短い返事、あまり深い内容は聞き出せそうにないなと察するアイギス。
「やっぱり大変なんですね、僕はどうしても剣で打ち合うのは怖くて、父上はすごいです、大きな魔物も一撃で倒してしまうんです」
「ファジマ様の実戦を見られたのですか?」
先ほどとは違う声色、この騎士も昔は父に教えを乞うたのかと、憶測するアイギス。
「ええまあ、母上と森の近くまで行った時、魔物が出てきたんです、そしたら父上が「いいところを見せてやる」とか言い出して」
「ああ、やっぱり変わらないなあ、あの人は…」
懐かしむような言い方だ。
「まあ、私よりも良く話すじゃない!」
王女に茶化され、「そんなつもりは」と慌てる騎士に、右隣に控えていた騎士も呆れたようにため息をつく。
新人の騎士なのかもしれない。
「私も気になりますわ!アヴィゲイル家当主の対魔物戦闘、どんなものでしたの?」
王女の言葉に、同意はしないものの、気になるのだろう騎士が二人ともアイギスに目をむける。
さっき呆れてたのに、右の騎士もじゃないか。
そう思いながら、父の戦闘について語る。少し話し込めば、姉が荷物を持ち込んでいた寮まですぐだった。
ポジティブな内容でもネガティブな内容でも構いません、ご感想をいただけますと幸いです。




