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蒼眼のアイギス  作者: 面倒
第一章 「守れたモノ」

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第二話 「まだ知らぬ悲しみ」

初日だけ二話載せます。

「奥様!」


アザドギエル大陸のほぼ全域を支配する国家。アザドラニア王国。

その南部は広大な山脈と共に、人外領域に指定されている。

ここは、人外領域との境界を守る貴族家の一つ、アヴィゲイル家。


「奥様はどちらに!」


早朝、まだカラスも鶏も鳴かぬ頃。日の光が差し込もうとするまさにその時、屋敷に響いた声。

その声は、パーティへ向かおうと支度を進めていた屋敷の女主人にとって、とても不快であった。

女主人の着付けを担当していたお付きのメイドが主人の不機嫌を察し、言葉を発するよりも先に、女主人が口をひらく。


「ビアンカ、はしたないわよ」


大声を上げながら屋敷を走り回っていたのだろう息も絶え絶えな若いメイドは、いよいよ女主人のドレスルームの戸を開き、その蝶番のあたりに手をつき、息を整えていた。


汗をかき、メイド服の袖でそれを拭う。

いくら他の貴族よりもマナーに寛容な辺境家とはいえ、普段はこの様な振る舞いは許されない。

落ち着き始めた呼吸に深呼吸を加え、ようやく蝶番から手を離す。

そのあまりに無礼な姿に、さすがに怒りを覚えたお付きのメイドが言葉を発する。


「奥様!赤ちゃんが!」


しかし、またしても響いたのは若いメイドの声であった。

すんでの差、お付きのメイドの声は音になる前にかき消されてしまっていた。


”赤ちゃん”その言葉とともにぐいと若いメイドが差し出したのは、仕立ての良いシルクの布に包まれた何かであった。

片手で抱えられていた赤子は、泣くどころか太々しい面持ちで眠っていた。


ようやく登り始めた朝日が、屋敷の窓から人々を照らそうとする中、若いメイドの腕の中で赤子は目を開く。


まるで夜の瞼を開き、その瞳に朝日を宿すかの如く。




アヴィゲイル伯爵夫人。ローリエン・ビジャシカ・アヴィゲイル。


彼女はこの赤子を知っていた。その生誕に立ち会っていたから。

そして赤子を包む布。そこに縫われた紋章が、赤子が何者なのかを表していた。


彼女は今はまだ知らない。ゼルネアン家に何が起きたのかを。

そして彼女に、四人目の子供が出来た瞬間であった。




ーーー




「仕留め損なった、だと」


静か、しかし怒気を孕んだ言葉を受け、男はすぐに後悔した。


汗が、じわりと額から現れ、頬を伝う。


目の前の老人が次の言葉を発するまでの時間がまるで永遠のように感じる。


頬を伝った汗が顎に止まる。




今思えば愚かだった。


反撃などできないと思っていた。


ただの貴族の婦人が、生まれた時よりアサシンとして育てられた自分達に。反撃など出来るわけがない、と。


しかし女は凄まじい速度で逃げた。


それでも、追えば良いと思っていた。


森は自分達にとって有利な環境、油断はしていたかもしれないが、手は抜かなかった。追手も十分に用意していた。


しかし女はエルフであった。



ポタリと、顎から滴り落ちた汗が、男の足元にシミをつくる。


ふと、俯いて下を向いていた視線を目の前の老人へと向ける。

悟られるよう、慎重に。

老人がよそを向いている事を期待して。



老人の鋭い眼光は男を射抜くかのように睨みつけていた。



「見つけろ、すぐに、赤子を殺せ」



しわがれた声が響き終える頃、老人の姿は消えていた。




ーーー




アザドラニア王国屈指の貴族。ゼルネアン家。

辺境を守り、かつての戦乱においてラグラニアを勝利へ導いた。そんなゼルネアン家は、その日を持って灰の中に消えた。


1人の赤子を残して。

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