白雪の神様と過ごす甘い正月
この物語は、完全なフィクションです。
白雪稲荷(万松寺)および荼枳尼天(ダキニ天)をモチーフにした創作であり、実際の信仰・宗教行事・神格とは一切関係ありません。
神仏を擬人化し、恋愛関係や性的な描写を含めておりますので、信仰をお持ちの方やそうした表現に不快感を覚える方は閲覧をお控えください。
実在の寺社・祭事の描写はイメージを借りたものであり、正確性を保証するものではありません。
現実の信仰とは切り離して、フィクションとしてお楽しみいただければ幸いです。
正月の朝は、いつもより少しだけ冷たい空気が部屋に満ちていた。障子の向こうから差し込む光が、畳の上に淡い影を落としている。私は布団の中で目を閉じたまま、隣にいる温もりを確かめた。彼女の呼吸が、静かで規則正しく、私の耳元にかかっている。
「綾、まだ寝てる?」
小さな声が降ってきた。甘く、どこか悪戯っぽい響き。私は目を細めて、ゆっくりと体を起こす。そこにいたのは、白雪稲荷のダキニ天。私の最愛の彼女。白い着物を少し乱れさせて、長い銀髪を肩に流し、小さな体を私の布団に潜り込ませている。まるで遊女のような艶やかさで、でもその瞳は子どものように無垢で、頬は正月の餅のようにふっくらと赤い。
「もう起きてるよ」
私は囁き返しながら、彼女の腰に手を回した。彼女はくすりと笑って、私の胸に顔を埋めてくる。その髪から、微かに甘い香りが漂う。稲荷の神らしい、狐の匂いと、どこか花のような香り。彼女は私の神様で、私は彼女の巫女で、でも今はただの恋人同士だ。
「正月だよ、綾。一緒におもち食べよう?」
彼女が顔を上げて、私を見上げる。その瞳が、朝の光にきらめいている。私はうなずいて、彼女の額に軽く唇を寄せた。彼女は嬉しそうに目を細め、私の首に腕を絡めてくる。
「でもその前に……もう少しだけ、こうしてて」
彼女の声が甘く溶ける。私は苦笑しながら、彼女を抱きしめ返した。布団の中で、二人の体温が混じり合う。外はまだ静かで、遠くで初詣の鐘の音がかすかに聞こえるだけだ。
どれくらいそうしていただろうか。彼女が突然体を起こして、私の手を取った。
「ねえ、起きて起きて。お雑煮作ろうよ。私、綾の作るお雑煮が大好きなんだもん」
彼女は私の手を引いて、布団から出ようとする。私は仕方なく従いながら、彼女の小さな背中を見つめた。着物の裾が少しめくれて、白い足が見える。その足取りは軽やかで、まるで狐が舞うように部屋を横切る。
白雪様が止めてたのに、私はクスリと笑う。
台所に立つと、彼女は私のエプロンを勝手に着けて、くるくる回った。
「どう? 似合う?」
「似合うよ。すごく可愛い」
私は正直に答えて、彼女の頬をつついた。彼女は照れたように笑って、私の腕にしがみつく。
「おもちは丸く焼こうね。綾と私の、丸い幸せみたいに」
そんなことを言いながら、彼女は餅を網の上に並べる。私はその横でお雑煮の出汁を取った。昆布と鰹節の香りが、部屋に広がっていく。彼女は時々私の腰に手を回して、顔を覗き込んできた。
「綾、味見して」
彼女がスプーンで出汁をすくって、私の口に運ぶ。私は素直に口を開けて、飲んだ。少し薄いかな、と思ったけど、彼女の期待に満ちた瞳を見たら、嘘はつけなかった。
「おいしいよ」
「ほんと? やった!」
彼女は飛び跳ねるように喜んで、私に抱きついてきた。その勢いで、少し出汁がこぼれる。私は慌てて拭いながら、彼女の頭を撫でた。
「おもち、焦げてるよ」
「あっ!」
彼女が慌てて網に戻る。その後ろ姿を見ながら、私は胸が温かくなるのを感じた。こんな何気ない朝が、どれほど幸せか。
出来上がったお雑煮をテーブルに並べて、私たちは向かい合って座った。彼女は両手を合わせて、「いただきます」と小さく言ってから、すぐに箸を動かし始める。
「おいしい……綾の作るもの、全部大好き」
彼女が目を細めて言う。私は照れて、視線を逸らした。でも彼女は許さない。テーブルの下で、私の膝に自分の足を乗せてくる。
「ねえ、綾。私、今年もずっと一緒にいたい」
突然の言葉に、私は箸を止めた。彼女は少し頬を赤くしながら、でも真っ直ぐに私を見つめている。
「私もだよ。当たり前だよ」
私はそう答えて、彼女の手を取った。彼女の指は細くて、冷たい。でもすぐに私の温もりで温まっていく。
「約束だよ?」
「約束」
私たちは小さく指を絡めた。彼女は満足そうに笑って、再びお雑煮を食べ始める。私はその横顔を見ながら、ふと思った。この神様は、本当に私のものなのかなって。でも彼女が私を見て微笑むたび、そんな不安は溶けていく。
食事が終わると、彼女は突然立ち上がって、私の手を引いた。
「初詣に行こうよ! 白雪稲荷に」
「え、今から?」
「うん! 一緒に、私にお参りして」
彼女の瞳が輝いている。私は苦笑しながら、うなずいた。着替えて、コートを羽織って、外に出る。正月の空気は澄んでいて、息が白くなる。彼女は私の腕にしっかりとしがみついて、歩き出す。
寺までの道は、大須商店街の賑やかなアーケードを抜けていくものだった。
正月の昼下がり、普段以上に人が溢れていて、食べ歩きの甘い匂いや、呼び込みの声があちこちから聞こえてくる。
台湾スイーツの店前に行列ができたり、古着屋の前で若い子たちが笑い合ったり、家族連れが福袋を抱えて歩いていたり。私たちは人波をかき分けるように手をつないで進む。
白雪様は、私の腕にしっかりとしがみついて、時々周りの店をキラキラした目で眺めている。
「綾、あのたい焼きおいしそう……後で買おうよ?」
彼女が私の耳元で囁く。甘い声が、商店街の喧騒の中でだけ、私に届く。息が耳にかかって、くすぐったい。私は小さく頷いて、彼女の手を強く握り返した。
人ごみの中でも、彼女の存在がすぐ隣にあるのがわかる。白い着物の裾が少しめくれそうになるのを、そっと直してあげたり。彼女は悪戯っぽく笑って、私の肩に頭を寄せてくる。
「綾、もっとくっついて。みんなが見てても気にしなくてもいい? 私たちは恋人同士なんだから」
また耳元で囁かれて、頬が熱くなる。でも、この賑やかさの中で、二人だけの世界が作れている気がした。
万松寺の大きなビルが見えてきて、ようやく商店街の喧騒が少し落ち着く。白雪稲荷の鳥居が、街のど真ん中に朱く立っている。参拝客も多くて、境内に向かう人たちが列を作っているけど、それでも彼女は私の手を離さない。
「綾、私ね、今年の願い事決めたよ」
「なに?」
「内緒」
彼女は悪戯っぽく笑う。私は少し拗ねた顔をしたら、彼女は慌てて私の頬にキスしてきた。
「だめだよ、拗ねないで。でも本当に内緒。叶うまで言えないの」
私は仕方なくうなずいた。でも、なんとなく分かる気がした。彼女の願い事は、きっと私とずっと一緒にいることだ。
お寺に着くと、思ったより人が多かった。彼女は私の手を離さないまま、境内に入る。鈴を鳴らして、お賽銭を入れて、一礼二拍手一礼。私は彼女の隣で、同じように手を合わせた。彼女が目を閉じて、何かを強く願っている。その横顔があまりに美しくて、私は息を飲んだ。白い着物に雪が少し積もって、まるで絵の中の人のようだ。
お参りが終わると、彼女は私の方を向いて、にっこり笑った。
「叶うといいな」
「きっと叶うよ」
私はそう言って、彼女を抱き寄せた。境内の中で、人目を気にしながら、少しだけ唇を重ねる。彼女は驚いた顔をして、それから幸せそうに目を細めた。
その後、私たちはおみくじを引いた。彼女は大吉で、私は中吉。彼女は大喜びで、私のおみくじを奪って読む。
「恋愛運……『大切な人との絆が深まる』だって! ほら、叶うよ!」
彼女が私の腕に飛びついてくる。私は笑いながら、彼女の頭を抱えた。帰り道、彼女は突然立ち止まって、空を見上げた。雪がちらついている。
「綾、雪だよ」
「うん」
「一緒に、雪見よう」
私たちは近くのベンチに座って、雪が降るのを見た。彼女は私の肩に頭を乗せて、静かに息をつく。
「幸せだよ」
「白雪様……私も」
言葉は少なかったけど、それで十分だった。彼女の手を握って、私は目を閉じた。彼女の温もりが、冷たい空気の中で、ますます愛おしく感じられる。
家に帰ると、彼女はまた私の布団に潜り込んできた。コートを脱ぎ捨てて、着物のまま。
「もう昼過ぎだけど、いいよね?」
「いいよ」
私も隣に滑り込んで、彼女を抱きしめた。彼女は私の胸に顔を埋めて、小さな声で囁く。
「綾、大好き」
「……私も、大好きだよ」
彼女は満足そうに笑って、私の首に腕を回してきた。そのまま、どれくらいたっただろう。彼女の呼吸が少しずつ深くなっていく。
「寝ちゃった?」
私は小さく呟いて、彼女の髪を撫でた。彼女は寝息を立てながら、私に寄り添っている。私はその小さな体をそっと抱きしめて、目を閉じた。
正月の昼下がり、雪が静かに降り続ける中、私たちはただ寄り添って眠った。彼女の温もりと、甘い香りと、静かな呼吸。それだけで、世界が全部、私たちのものになった気がした。
目が覚めたのは、夕方近くだった。彼女はまだ眠っていて、私の腕の中で小さく身じろぎする。私はそっと彼女の頬に唇を寄せて、囁いた。
「ずっと、こうしていたいね」
彼女は眠ったまま、でも確かに微笑んだ気がした。この正月は、まだ始まったばかりだ。
彼女と過ごす、甘くて長い、幸せな時間。
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