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SF短編集  作者: OverWhelmed
13/20

わたしカスタム

 駅前の改札を抜けると、いつもの朝のざわめきの中に、ほんのり甘い香りが漂っていた。

 クリスパースキン社の「リジュベネート・ウィークリー」。あの遺伝子編集キットを使っている人特有の匂いだ。

 週に一度、ほんの少しだけ針を刺すだけで、細胞は新しい設計図を読み取り、ゆっくりと別の自分へと書き換わっていく。


 私はそれを、もう三年前から続けている。


「おはよう、ミユちゃん!」

 声をかけてくるのは、近所のパン屋のリナ。彼女は「フェリン・カスタム」を入れていて、猫みたいな小さな耳が頭にちょこんと生えている。

 朝の光に、耳の毛がふわっと透けて揺れた。

 ……正直、羨ましい。


「おはよう、リナ。耳、今日ふわふわだね」

「ありがと! 冬毛モードなんだ。春には戻す予定だけどね~。暖かくなったら邪魔だしね〜」


 そんな風に、みんな普通に自分の身体を着替えるように選んでいる。

 性別を変える人もいれば、年齢を戻す人もいる。

 公認パッケージの範囲内なら、登録して医療センターで注射を受けるだけで済む。

 だけど、リナみたいに動物系のパッケージは“グレー”だ。正式には違法じゃないけど、健康リスクや倫理基準の検証がまだ追いついていない。

 とはいえ、人気はすごい。今や街のあちこちで「尾っぽのある人用制服」や「獣耳対応イヤホン」が売られているのだから。


 私は少しだけ、改札のガラスに映る自分を見た。

 そこにいるのは、半年前までの“僕”じゃない。

 ふわっとした髪、丸みのある頬、軽く弾む声。

 鏡に映るたび、まだ少し不思議な気持ちになる。だけど――良い。


 「ミユ」という名前も、私が自分で選んだものだ。

 「男としての自分」に何か不満があったわけじゃない。けれど、何かが欠けていた気がした。

 可逆だと聞いたとき、試してみたくなった。それだけのことだった。

 「変わる」ということが、もう特別じゃない社会だから。


「ねぇミユちゃん、今週の新作パッケージ見た?」

 パンを焼きながら、リナがタブレットを差し出した。

 画面には「DreamForm社 新作:スノウフェアリー・モード」と書かれている。

 雪みたいに白い髪と、透き通るような皮膚。温度調節機能付きで、夏でも涼しい体質を保てるらしい。

 コメント欄には《学生に人気!》《写真映え最高!》の文字が並んでいた。


「これ流行りそうだね」

「だよね~! でも高いのよ、国の補助が効かないし」

 リナは少し寂しそうに笑った。


 最近では、国家認可の「再設計パッケージ」だけでなく、企業や個人研究所が勝手に開発する“自由形態”のパッケージが増えている。

 なかには「3つ目の目を生やす」「涙の味が変わる」「背中に小さな羽を生やす」なんてものもある。

 SNSでは、それらを楽しむ人たちが「#形態日記」で日々の写真を投稿していた。


 でも、その自由さの裏には、まだ“影”もある。


 夜のニュースでは、非公認パッケージによる副作用や、違法変化の摘発が報じられていた。

 SNSのコメント欄には、「結局、生まれた姿を否定してるだけだろ」とか、「あれは逃げだ」という投稿も目立つ。

 そんな言葉を見るたび、少しだけ胸が痛くなる。

 だけど――私は後悔していない。


 だって、この身体で笑っている自分が、いちばん自然だから。


 日曜の朝、私はいつものようにクリニックへ行った。

 白衣の医師が笑顔で迎えてくれる。

 「こんにちは、ミユさん。今週も安定してますね。細胞再設計率、98%維持です」

 「ありがとうございます。今週からは少し髪を明るめにしたいです」

 「承知しました。“ミルキーヘアカラーパッチ”を同時に投与しますね」


 注射は、ほんの数秒で終わる。

 痛みもほとんどない。

 ただ、それが終わるたびに――

 私は新しい自分を、少しだけ好きになれる気がした。


 帰り道。

 街を歩くと、いろんな「形」が行き交う。

 背中に光る模様を持つ青年。

 小鳥の声で話すように喋る少女。

 そして、昔の私のような、少し不安そうに手を握りしめている人。


 きっとあの人も、これから変わるのだろう。


「ミユちゃん、次はどんな自分になりたい?」

 帰り道、リナがふと尋ねてきた。

 夕陽が差し込んで、彼女の尻尾が金色に輝いている。


「うーん……このままでいいかな。今、けっこう好きだから」

 そう言うと、リナはふにゃっと笑った。

 「そっか。そう言えるの、なんかいいね」


 私は笑い返す。

 街のどこかで、ネオンが灯り始めた。

 「再設計センター」「自由形態サロン」「フェリン認証済みアクセ」

 看板が並ぶその光景は、もう未来というより、ただの“今”の風景だった。


 帰宅して、鏡の前に立つ。

 注射跡は、もうほとんど見えない。

 頬に触れると、柔らかく温かい肌がそこにあった。


 ――私は、今日もちゃんと、生きてる。

 変わったとしても、私の中身は、ちゃんと私のまま。


 「おやすみ、わたし」

 小さく呟いて、明かりを消した。


 明日もまた、世界は少しだけ違う形で輝いている。

 そして、私はその中で、選んだ自分として笑うのだ。

またまた遺伝子操作ネタ。ep.11 幼年回帰権運動ようねんかいきけんうんどうよりも未来の社会。

VRChatというゲームではアバターはケモと女の子がほとんどで、それが現実になったらこんな感じなのかな。

ちなみに見た目を変えることができる社会では、見た目と名前を変更すると、誰かわかんなくなっちゃう。


ところで、どこかの小さくなっちゃった探偵は一瞬で体が小さくなっちゃったので、全身の痛みは壮絶だと思う。

肉も神経も直接”アポトーシス”で死んでいくので、全身がゆっくりと焼かれるような痛みなのかもしれない......

本小説内では身体の変化はゆっくりだから猫耳の生え変わりとかで痛みはなく自然な(人工的な)新陳代謝が行われるだけのはず。


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