第7話:ライバル登場!?ホテル界の新星が迷宮に挑む!グルメ勝負で全面対決!?
「エリシア女将、たいへーんっ!」
朝の準備をしていた私の元に、受付係のポポが駆け込んできた。
「どうしたの? トラップでも暴走した?」
「ちがーう! これ見て!」
ポポが突き出したのは、一枚の王都新聞。
その一面には、こんな見出しが踊っていた。
『王都に“グルメ×ダンジョン”ホテル爆誕!
──若き天才料理人アルベルトが挑む、迷宮ホテルの王座!』
「……ふぅん。やる気ね」
私は新聞を受け取り、じっくりと記事を読んだ。
要点はこうだ:
・王都の新進気鋭の料理貴族、アルベルト=バリスタが経営する“ダンジョン・グルメ・パレス”が開業
・各階ごとに異なる料理ジャンルとダンジョンを融合させた施設
・王都貴族、冒険者に大好評
・“辺境の宿”を越える新たな体験を──との意気込み
「明らかに、うちを意識してるね」
そして、その日の午後。
件のアルベルト本人が、迷宮の宿ロゼットに現れた。
「やぁ、君がこの宿のオーナー、“盾役あがり”のエリシア嬢か」
どこか芝居がかった物言い。
年若いのに銀の縁のモノクルをかけた、いかにも“貴族系自信家”といった雰囲気の青年だった。
「初めまして、バリスタ家当主にして料理ギルドの特級免許保持者、アルベルトだ。今日は“視察”に来させてもらった」
「視察……お客様として?」
「いや、ライバルとしてだ」
アルベルトは、さらりと言った。
「貴族も冒険者も、今は娯楽と美食を求めている。迷宮でハラハラさせるだけじゃ、もう足りない。だから私は料理で勝負に出た。“食で魅せるダンジョン”──それが新時代の形だ」
「それで、私に何をしに?」
「宣戦布告だよ。来週、王都で“迷宮ホテル料理対決”が開催される。
君にも招待状を送った。辞退しなければ、正式な勝負となる」
そう言って、彼は封書を置いて帰っていった。
その夜。
厨房で仕込みをしていた私は、ずっと考えていた。
(料理勝負、か……)
私の得意料理は、素朴な煮込みやパン、焼き野菜。
豪華さも魔法ギミックもないけど、「帰ってきた味」だと常連には評判がいい。
でも──それで、勝てるのか?
「女将さん……悩んでる?」
背後から、ゴブリンスタッフのポポが声をかけてきた。
スライムのピロも、こぽこぽと心配そうに鳴く。
「うん……ちょっとだけ」
「女将さんの料理、好きだよ。あったかくなるから」
「そうだよね……ありがとう」
そして一週間後。
私は王都の料理イベント会場「グラン・テーブル・アリーナ」にいた。
広大な会場には迷宮風ブースが設置され、観客席には貴族と冒険者がぎっしり。
対戦カードは、エリシア vs アルベルト。
「やぁ、来てくれたんだね。うれしいよ」
アルベルトは悠々と笑っていた。
「今さら逃げたりしないわ。……勝つつもりで来たから」
「ほう、いいね。では、君の“盾の味”とやら、見せてもらおうか」
制限時間は一時間。テーマは「癒し」。
アルベルトは魔法調理器具を次々に使いこなし、
フランベ・浮遊オムレツ・氷のカルパッチョなど、華やかで視覚的にも圧倒的な料理を披露。
「うおー! なんだこの演出!」「これが貴族料理だ!」
一方私は、ただコトコトと煮込んでいた。
素材は、ロゼットの畑で採れた野菜、地元のチキン、そして私の手作りパン。
「な……地味すぎるぞ。これで本気なのか?」
アルベルトが呆れたように言う。
でも、私は自信があった。
完成したのは、“癒しの迷宮ポトフ”。
素朴な味。けれど、ひとくちで、体の芯まで温まる。
審査員が口に運ぶ。
ひとり、またひとり……そして、驚きに目を見開いた。
「……っ、これは……涙が……」
「なぜか……懐かしい。守られているような、あったかさだ……」
会場が静まり返る。
「君は……この料理で、何を込めた?」
審査員が問う。
「“盾役”だった頃の気持ちです。誰かを守る。そばにいる。……それが、私の癒しだから」
審査結果。
──僅差で、エリシアの勝利だった。
「……ふ、参ったよ。まさか、こんな素朴な料理に心を持っていかれるとは……」
アルベルトは、敗北を潔く認めた。
「でも負けたままで終わらない。次は、“味と仕掛け”両方で勝つからな!」
「ふふ、望むところよ」
こうして、宿の女将と料理貴族の因縁(?)は始まった。
その夜。
宿に戻った私は、厨房でポポとピロに小さく笑って言った。
「ねぇ……やっぱり、料理って“盾”みたいね」
「へ?」
「食べた人を、癒して、守るもの。……そう思わない?」
「うーん……ポポには難しいけど……でも、おかわりはしたい!」
「こぽっ♪」