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第6話:王都からの依頼!貴族の社交パーティーを迷宮で開催!?

 ある朝、いつものように朝食を終えた私は、ロビーで帳簿をつけていた。

 そこに、宿の魔導郵便ポストから一通の封書が届く。


「王都貴族議会、第三社交委員会……?」


 硬い封蝋に金の縁取り、妙に仰々しい雰囲気。開けてみると、中にはこう書かれていた。


《王都社交委員会からの正式依頼》


昨今話題となっている「迷宮の宿ロゼット」にて、

王都貴族の若手社交パーティーを開催したいというご要望が多数寄せられております。


つきましては、以下の条件にて会場をご提供いただけますか。


・参加者:約30名

・希望:迷宮エリアでの「非日常的な舞踏会」

・演出:幻想的・安全・映えること

・期限:一週間以内


主催責任者:クレア・フォン・リヴィエール


「……また、あの子か」


 私は苦笑するしかなかった。

 社交パーティー? 迷宮で? やるの? 本当に?


 けれど──


「面白そうじゃない?」


 私は立ち上がった。

 盾役だった私には無縁だった、華やかで煌びやかな世界。

 でも今なら、創れる。自分の手で、舞踏会の“迷宮”を。


「迷宮変換モード、発動──《舞踏空間構築》」


 ダンジョン核に魔力を注ぎ、空間改装開始。


 空間が光に包まれ、無機質な迷宮の一角が変貌を遂げていく。

 大理石風の床、シャンデリアに見立てた光結晶、壁に揺れるホログラムの絵画。

 迷宮の中心に、空中に浮かぶ舞台と生演奏用の魔道演奏装置。


 そして極めつけは──天井に魔法陣を展開し、

 夜空のような星々を投影する演出だ。


「完成……“星降る迷宮舞踏会”エリア」


 ロゼット始まって以来の、華やかさだった。


 当日、夕方。


 次々に魔導馬車が到着し、絢爛なドレスと礼服に身を包んだ貴族の若者たちがやってくる。


「うわぁ……あれが、あの噂の迷宮ホテル?」


「まさか、本当に迷宮で舞踏会できるなんて……!」


 参加者たちは、想像以上に期待していたようだった。


「ようこそ。オーナーのエリシアです。本日は、どうぞごゆっくりお楽しみください」


「え……この人がオーナー!? 貴族じゃないのに……?」


 中にはそんな囁きも聞こえたが、気にしない。


 そのとき──主催者、クレア・フォン・リヴィエールが現れた。


「来てあげたわよ、女将さん」


「まったく、あなたの思いつきにはいつも振り回されます」


「ふふん。でも、ちゃんと応えてくれるでしょう? それが“信頼”ってものよ」


 ツンツンしながらも満足げな顔。

 彼女なりの“感謝”なのだと、私はもう分かっていた。


 舞踏会が始まる。


 貴族たちは音楽に合わせてダンスを踊り、

 ダンジョン内に浮かぶ光の橋や回廊を歩きながら交流を深める。


「この演出、どうやってるの? 本当に“動く迷宮”なの?」


「完全に夢の中にいるみたい……!」


 そして、舞踏会の中盤。


 参加者のひとりが、ふらりと“立入禁止エリア”に入り込んでしまった。


「──あっ」


 迷宮核が警告を発する。


《侵入者検知──対応プロトコル起動──》


「ま、待って! そっちはまだ調整中──!」


 間に合わず、参加者の青年が“逆走トラップゾーン”に落下した。


「うわぁあああああ!!」


「ちょ……え、誰!? 今の叫び!?」


 私はすぐさま迷宮核を操作し、安全モードでトラップを解除。


 音を立てて天井が開き、泡だらけになった青年が天井から吊るされる形でゆっくり戻ってきた。


「ひぃ……お、俺、死ぬかと思った……」


 その姿に、舞踏会の場が凍りつく──かと思いきや。


「……ぷっ、なにそれ」

「泡まみれじゃん!」

「むしろエンタメすぎるでしょ!」


 爆笑と拍手が起きた。


「さすが迷宮ホテル、サービス精神が違うなぁ!」


 私は頭を抱えながら、そっと心の中で呟いた。


(……これで笑いが取れるなら、まぁいいか)


 舞踏会のラスト。

 クレアがこっそり近づいてきて、小さく言った。


「……ありがとう。本当に、来てよかった」


「こちらこそ、素敵な提案でした」


「ねぇ、女将さん。今度……もっと正式なイベントも、一緒にやってみない?」


「たとえば?」


「……“王城迷宮化プロジェクト”、とか」


「……無茶言わないで」


 パーティーは大成功に終わった。


 翌朝、王都の社交新聞にはこんな見出しが載った。


「迷宮ホテルで開催された前代未聞の舞踏会、参加貴族大絶賛」

「主催は“変人女将”こと、元・盾役のエリシア女史」

「王都貴族界のトレンドは“迷宮リゾート”へ!?」


「変人って……なによ、それ……」


 新聞を見ながら、私はそっと紅茶をすすった。


 でも、少しだけ──嬉しかった。

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