第4話:VIP来訪!?ツンデレ貴族令嬢の無理難題にホテル崩壊の危機!?
「本日のお客様は、王都第三公爵家ご令嬢──クレア・フォン・リヴィエール様です」
ゴブリン受付嬢のポポが、まんまるの目を見開いて報告してきた。
「リヴィエール家……?」
その名前に、私は思わず眉をひそめた。
王国でも五本の指に入る名門。
だがそのお嬢様が、なぜわざわざ辺境の迷宮ホテルなんかに……?
「お、お迎えのご準備を!」
ポポが慌ててスリッパを磨き始める。
私は小さく息を吐き、エプロンを正して玄関へ向かった。
「よく来てくださいました、クレア様。ようこそ、迷宮の宿ロゼットへ」
「……ふん。案外まともな顔してるのね、あんた」
そう言って現れたのは、金髪縦ロール、いかにも高飛車な雰囲気の令嬢だった。
しかし、その目はどこか疲れていた。
顔色も少し悪く、深くため息をついている。
「わたくし、癒やされに来たのよ。王都のパーティーだの舞踏会だの、もううんざり」
お嬢様は、ロビーのソファに崩れ落ちるように座った。
「……承知いたしました。癒やしを全力でご提供させていただきます」
しかし──
そこから、クレア様の無茶ぶりラッシュが始まった。
「朝食は、王都・第五王宮御用達のパン屋と同じ味にして」
「枕が柔らかすぎる。もっと高反発で」
「迷宮の床が気に入らない。ピンクにして」
「……ピンクの床、ですか」
「ええ。できるんでしょう? 迷宮創造とかいう大層な力をお持ちなら」
──この子、めちゃくちゃだ。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
わがままなのに、どこか寂しげで、構ってほしい小動物のようだった。
翌日。
「クレア様、こちらがピンクカラー調整を行った“癒し迷宮ルート”です」
「ふん……どれどれ──」
入った瞬間、スライムたちが花びらをばら撒く。
温かな照明、香りつきの空気、音楽を奏でる魔道機械。
どこまでも、優しさと癒しに包まれた空間だった。
「……っ」
クレアは、しばらく何も言わなかった。
そして、迷宮の中心にある小さな噴水の前にしゃがみ込み、ぽつりと呟いた。
「こんな場所……本当に、あるんだ」
夜。
クレアは温泉に浸かったあと、私にぽつりと打ち明けた。
「わたくし、ずっと息苦しかったの。貴族の義務、母の期待、婚約者との形式的な関係……」
「……」
「でも、あなたの宿は、わたしが“わたし”でいても、怒らない」
私はそっと笑った。
「お客様ですから。自由でいてください。ここでは、どんな肩書きも関係ありません」
「──そんなこと言うの、あなただけよ。変な女将さん」
クレアは、目元を拭いながら微笑んだ。
そして、翌朝。
「この宿、王都に支店を出しなさい。いいわね?」
「……え?」
「わたくしが宣伝してあげる。立地は中央通りよ。城下最上位の区画に案内するわ」
「いや、ちょっと待って──」
「いいから準備なさい! 貴族の命令は絶対よ!」
そう言って、クレアはリムジン風の魔導馬車に乗って颯爽と去っていった。
翌日、王都の冒険者掲示板には新たな投稿があった。
迷宮の宿ロゼット:癒し迷宮ルートが最高。温泉も完璧。女将は変わってるけど、信頼できる。
わたくしが保証します。──リヴィエール三女 クレア
「……変わってるって、どういう意味だろう」
私はその投稿を見て、そっとお茶をすすった。