表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

第4話:VIP来訪!?ツンデレ貴族令嬢の無理難題にホテル崩壊の危機!?

「本日のお客様は、王都第三公爵家ご令嬢──クレア・フォン・リヴィエール様です」


 ゴブリン受付嬢のポポが、まんまるの目を見開いて報告してきた。


「リヴィエール家……?」


 その名前に、私は思わず眉をひそめた。

 王国でも五本の指に入る名門。

 だがそのお嬢様が、なぜわざわざ辺境の迷宮ホテルなんかに……?


「お、お迎えのご準備を!」


 ポポが慌ててスリッパを磨き始める。

 私は小さく息を吐き、エプロンを正して玄関へ向かった。


「よく来てくださいました、クレア様。ようこそ、迷宮の宿ロゼットへ」


「……ふん。案外まともな顔してるのね、あんた」


 そう言って現れたのは、金髪縦ロール、いかにも高飛車な雰囲気の令嬢だった。


 しかし、その目はどこか疲れていた。

 顔色も少し悪く、深くため息をついている。


「わたくし、癒やされに来たのよ。王都のパーティーだの舞踏会だの、もううんざり」


 お嬢様は、ロビーのソファに崩れ落ちるように座った。


「……承知いたしました。癒やしを全力でご提供させていただきます」


 しかし──


 そこから、クレア様の無茶ぶりラッシュが始まった。


「朝食は、王都・第五王宮御用達のパン屋と同じ味にして」

「枕が柔らかすぎる。もっと高反発で」

「迷宮の床が気に入らない。ピンクにして」


「……ピンクの床、ですか」


「ええ。できるんでしょう? 迷宮創造とかいう大層な力をお持ちなら」


 ──この子、めちゃくちゃだ。


 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。

 わがままなのに、どこか寂しげで、構ってほしい小動物のようだった。


 翌日。


「クレア様、こちらがピンクカラー調整を行った“癒し迷宮ルート”です」


「ふん……どれどれ──」


 入った瞬間、スライムたちが花びらをばら撒く。

 温かな照明、香りつきの空気、音楽を奏でる魔道機械。


 どこまでも、優しさと癒しに包まれた空間だった。


「……っ」


 クレアは、しばらく何も言わなかった。

 そして、迷宮の中心にある小さな噴水の前にしゃがみ込み、ぽつりと呟いた。


「こんな場所……本当に、あるんだ」


 夜。


 クレアは温泉に浸かったあと、私にぽつりと打ち明けた。


「わたくし、ずっと息苦しかったの。貴族の義務、母の期待、婚約者との形式的な関係……」


「……」


「でも、あなたの宿は、わたしが“わたし”でいても、怒らない」


 私はそっと笑った。


「お客様ですから。自由でいてください。ここでは、どんな肩書きも関係ありません」


「──そんなこと言うの、あなただけよ。変な女将さん」


 クレアは、目元を拭いながら微笑んだ。


 そして、翌朝。


「この宿、王都に支店を出しなさい。いいわね?」


「……え?」


「わたくしが宣伝してあげる。立地は中央通りよ。城下最上位の区画に案内するわ」


「いや、ちょっと待って──」


「いいから準備なさい! 貴族の命令は絶対よ!」


 そう言って、クレアはリムジン風の魔導馬車に乗って颯爽と去っていった。


 翌日、王都の冒険者掲示板には新たな投稿があった。


迷宮の宿ロゼット:癒し迷宮ルートが最高。温泉も完璧。女将は変わってるけど、信頼できる。

わたくしが保証します。──リヴィエール三女 クレア


「……変わってるって、どういう意味だろう」


 私はその投稿を見て、そっとお茶をすすった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ