第2話:はじめてのクレーム対応!爆炎魔法で丸焦げ!?宿泊客は炎上系冒険者!?
開業から五日目の朝。
迷宮の宿ロゼットには、ついに王都からの初の冒険者がやってきた。
「ご予約の、“焔のレニィ”様ですね。ようこそ、ロゼットへ」
私は笑顔で迎える。
現れたのは、赤髪のポニーテールを揺らす、勝気そうな少女だった。
「アンタがオーナー? ふーん、意外。もっとガタイのいいゴリラ女かと思ってたわ」
──これが第一声だった。
……我ながら、笑顔を維持できた自分を褒めたい。
「私はエリシア。オーナー兼、宿の管理人をしております。ご不便な点があれば、何なりと」
「ふーん……ま、部屋が綺麗なら文句ないけどね」
どこか棘のある態度。
が、冒険者なんてこんなものだ。気が立っているのも旅の疲れだろう。私は気にしない。
問題は──その“レニィ”が、爆炎魔法の使い手であることだった。
彼女はダンジョン体験コース「炎耐性訓練迷宮」に挑んだ。
仕掛けられたスリル満点のトラップの中、耐久力を鍛える人気コースだ。
「ふん、この程度の熱じゃ私の《火精霊装》には効かないわよ!」
案の定、ド派手な爆炎をぶちまけて進んでいく。
「うおおおおお!! 熱い! でも楽しい!!」
「ちょ、レニィさん! 火力が高すぎて……いや、そこは破壊しなくてもっ!」
迷宮の一部が焦土と化した。
あれだけ耐火処理をしていたのに、想定の三倍の火力。
通路の壁は黒こげ、訓練用ゴーレムは炭化、装飾はほぼ蒸発。
……まるで魔王軍の侵攻跡だ。
「うん。楽しかったわ!」
夕食時、レニィはカリカリに焼いた鶏肉を頬張りながら、満足げに言った。
「そう言っていただけて、光栄です……」
私は笑っていた。笑顔だった。
でも、心の中では、ダンジョンの修理費が思い浮かび、胃がきりきりしていた。
「そうそう、一応クレームなんだけどさ」
「……はい?」
「温泉、ぬるかった。熱湯風呂にしてほしいわね。次来るときまでにはお願い」
「……承知しました(もう燃やさないで)」
その夜。
私は管理室で、焦げたダンジョンの修復作業を行っていた。
ダンジョン核に思念を送れば、迷宮は自動的に再構築されるが──問題は魔力だ。
「修復に必要な魔力……うわ、桁がおかしい。あの子、本当に冒険者……?」
あれはもう、魔王の腹心クラスの火力。下手すれば国家級災害。
私はため息をつきつつ、迷宮のレイアウトを調整した。
「次から“火属性制限区域”を作ろう。入った瞬間、火力が強制弱体化されるように……」
いつか、もっと大勢の冒険者が来ることを想定して、私はルールを設けることにした。
翌朝。
「じゃ、お世話になったわね。あ、これ」
レニィが差し出したのは、一枚の木札だった。
「《冒険者協会推薦証》……?」
「うん、王都の協会に今回の宿の感想出しといた。そしたら、推薦扱いになるって。感謝しなさいよ?」
「……!」
あの態度で、実は宿を気に入ってくれてた……?
思わず胸が熱くなった。
口調は悪いけど、不器用な優しさを感じる。レニィのような子は、嫌いじゃない。
「ありがとう。また来てね」
「当然でしょ。今度は“氷迷宮”とか作っときなさいよね!」
颯爽と去っていく背中が、まるで太陽のようだった。
その日の夕方。
王都の冒険者掲示板に、こんな投稿が掲載された。
迷宮の宿 ロゼット
・辺境にある不思議なホテル
・ダンジョンは最高、飯もうまい
・オーナーは無愛想な美人(でもなんか優しい)
・爆炎ぶっ放しても怒らない寛大さ
・温泉がぬるいのは惜しいけど、トータル★5
投稿者:焔のレニィ
「……怒ってたよ? 私、怒ってたよ……?」
投稿を見て、頭を抱えたのは言うまでもない。




