菊池正義は極悪人
「先輩! 先輩! 彼奴なんなんです?」
青鬼が先輩の赤鬼に声をかけた。
「彼奴? あぁあれか」
他の鬼たちに等活地獄を引きずり回されているにもかかわらず、頭を抱え泣きながら粛々と刑を受けている亡者に目を向ける。
「彼奴はな、数千人の人間を殺したり負傷させたりしたんだ」
「何処かの独裁者か何かだったんですか?」
「否否、独裁者だったら命令するだけで自分の手は汚さないだろ。
でも彼奴は自分の手で殺っちまったんだよ。
ま、その所為で自分も死んじまったんだがな」
「何をやらかしたんですか?」
「そんなに知りたければ、彼奴自身に聞けよ」
「良いんですか?」
「あぁ良いぞ。
オオーイ! その亡者にコイツが聞きたい事があるそうだ、話しをさせてやってくれ」
赤鬼は青鬼に返事を返してから、等活地獄で彼奴を引きずり回してる鬼に声をかけた。
俺の名前は菊池正義、日本で有数の財閥である菊池財閥総帥のたった1人の孫。
たった1人の孫って言うのは総帥のたった1人の娘である母さんが、南半島国のイケメン要するに俺の親父だなに騙されて、孕んで生んだのが俺って事。
イケメン顔に騙されたんだろうな、あの整形してイケメン顔になった糞野郎に。
何で分かるかって言うと、美男美女揃いで有名な菊池財閥の1人娘だから当然美少女、40近くの年齢なのに20代前半にしか見えない母さんなので此処は美少女呼びさせてもらう。
の美少女と、イケメンが結ばれれば当然生まれて来た子供は絶世の美男子になる筈なのに、俺は……若干美男寄りのフツメンでしか無いから……。
俺を生んで数年、全然美少年にならない俺を見てようやく騙された事に気がついた母さんは、糞野郎と離婚して俺を連れて実家に帰る。
母さんによると、イケメン顔の糞野郎に昔の写真を見せるように言ったところ、自分の写真は見せずに糞野郎の親類縁者の写真だけ見せて、「突然変異して親類縁者の中で俺だけがイケメンなんだ」と言ったらしい。
でも以前会った事のある糞野郎の幼馴染を問い詰めたら、整形してると教えられ離婚を決意したのだって。
だから親父を糞野郎呼びするのは、物心が付いた頃から母さんから親父は糞野郎と言われて育った為に、親父=糞野郎で糞野郎呼びになってしまっているって訳だ。
でも、蝶よ花よと育てられてお上品な母さんが口にするたった1つの罵詈雑言、母さんをそこまで怒らせた男だから糞野郎呼びは妥当だと思うよ。
それで今年で18になり大学生になった俺は、糞野郎の国も見ておきたいと思い祖父に相談した。
そうしたら「それは良いことだ」と言い、此れを持って行きなさいとブラックカードを渡される。
去年高校生だった俺が持っていたのはプラチナカードだから、祖父に大人として認めて貰えたのだと思う。
そして南半島国でのボディーガードとして、南半島国軍の特殊部隊出身の男性を付けられた。
南半島国の首都のホテルに泊まり、明日からバイクで南半島国一周旅行に行く前夜、特殊部隊出身のボディーガードが元同僚の特殊部隊の現役隊員から変なウワサを聞き込んでくる。
南半島国国防軍が冷戦時代、米軍から密かに渡されていたスーツケース核爆弾が南半島国国防軍基地の殆ど使用されていなかった倉庫の奥から発見され、発見されたスーツケース核爆弾を南半島国駐留米軍に引き渡す手続きと準備を行っていた際、南半島国国防軍の制服を着た北半島国工作員に強奪されたらしいと言うウワサ。
現在、南半島国国防軍と駐留米軍それに国防軍基地から大量の武器弾薬が盗まれたと聞かされている南半島国警察が、血まなこになって強奪した工作員の一群を探しているらしい。
まぁいくら南半島国国防軍の奴等が間抜けでもそんな馬鹿な事は有り得ないだろうから、そんなウワサ無視はして翌朝俺たちは南半島国一周ツーリングに出かけた。
首都から一路南を目指して走行中、前を走っていたボディーガードのバイクが急なカーブを曲がった直後ガードレールの無い路側帯に停車する。
バイクを止め止めた側の木々が生い茂る斜面を注視。
「どうしました?」
「あそこ、トラックが転落してる」
ボディーガードの言葉で俺は目を凝らす。
斜面を何かが落ちた跡はなんとなく分かったけど、トラックなんて何処にも見えない。
「坊っちゃんは此処にいてください」って言われたけど、ボディーガードがバイクから降りて斜面を滑り降りるのに続いて俺も滑り降りる。
上からは見えなかったけど近寄ったら確かに横転したトラックがあって、トラックの周りに南半島国国防軍の制服を着た遺体が数体転がっていた。
ボディーガードは最初にトラックの周りに転がっている遺体を調べ独り言を口にする。
「コイツら、北半島国の工作員か?」
それからスマホを取り出し何処かに電話を掛け始めた。
その間に俺は横転しているトラックの荷台の中を覗く。
荷台にはデカい背嚢のような物が転がっていたんで好奇心から、トラックの幌を捲ってトラックの荷台に入り込みその背嚢のような物に手をのばす。
その後、気がついたら俺は此処で沢山の鬼に取り囲まれていた。
俺に話しかけてきた青鬼の上司らしい赤鬼の説明では、あのデカい背嚢のような物がスーツケース核爆弾で俺が手をのばし触った事で、幾つかあった安全装置の最後の1つが解除され起爆したと言う。
起爆した事により、俺は0コンマ数秒で中性子線にさらされ即死、その後の0コンマ数秒で起こった核爆発で一瞬で蒸発した。
俺は……、俺は……、俺のちょっとした好奇心の所為で……、数千人の人たちを巻き添えにしてしまった極悪人なんだよー。