第六編「子猫ちゃんのキス」
俺は探偵。しかもハードボトルドな、私立探偵だ。
何、自分で言うな?
本当なんだから、仕方ないだろう。
事務所の扉がノックされた。
さて、今日はどんな依頼だろうな。
俺は立ち上がり、依頼者を迎えに行った。
依頼者は女性だった。
依頼の内容は探し物だったが、あまり報酬が出せないという。
確かに彼女の身なりは、あまり裕福そうではない。
なのに俺を頼り、こうしてやって来たんだ。断るわけにはいかんだろう。
だから、彼女にこう言ってやった。
「報酬は、子猫ちゃんのキスで十分だぜ」
さあて。探し物を見つけに行きますか。
聞き込みや巡回を重ね、やっと彼女の探し物とやらを見つけた。
多少は手間取ったが、何とか、目的を達成出来たってわけだ。
さあ。事務所に帰ろう。
彼女に連絡すると、すっとんで来た。
よほど心配だったのだろう。
「ああ、ミーちゃん! 良かった、本当に良かった……!!」
探し出したものを手渡すと、ぽろぽろ、涙を零しながらそれを抱きしめる彼女。
全く。人騒がな依頼者さんだぜ。
でも……まあ。
俺は彼女たちを見た。
こうして、感動の再会が見れるのは悪くない。
「あの、それで、報酬なんですが……」
ひとしきり泣いて落ち着いたらしい彼女は、俺に向き合い、おずおずと切り出してきた。
「言ったろう。報酬は──」
「にゃー……」
彼女の探し物が、可愛い声で俺のセリフを遮った。
そして首を伸ばし、ちょん、と俺の鼻に自分のをくっつけた。
いわゆる、鼻キスというヤツだ。
「報酬は、たった今貰ったさ」
俺は探し物である、彼女の子猫を撫でながら、
「子猫ちゃんのキスという報酬を、な」
そう伝えた。
俺はハードボイルドな私立探偵。
金なんかより、子猫ちゃんからのキスのほうが、俺にとってよほど価値のある報酬なのさ。