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第五編「彼女は夕顔」

 朝顔は朝に咲く。

 昼顔はもちろん昼に。

 そして夕顔は、夕から夜にかけて咲き、翌日にしおれる。

 

 だったら私は夕顔だ、と女は思う。


 女の仕事は夕方過ぎから始まり、次の日の朝まで。

彼女がいるここは、繁華街(はんかがい)

 既に日は落ち、辺りには仕事帰りらしい、スーツ姿の男女がたくさんいる。


 だが女は、同性である女性には目もくれない。彼女が探すのは男性だけ。

 そう。自分を、花としてみてくれる男だけだ。


 ある男と、目が合う。

 にこりと、()びたような笑顔を振りまいてやると、男はにやつきながら、女に近づいてきた。

 

 今日の獲物(えもの)はこの男だ。女はそう決め、男の腕に抱きついた。


 二人で、彼女の仕事場であるラブホテルに向かう。

 そこで女は、咲いて見せるだろう。男の腕の中で。


 何しろ彼女は、夜の間に咲き(ほこ)る、夕顔なのだから。

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