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第四編「お姫様みたい」
子どものころ、くせっ毛がコンプレックスだった。
そしたらママは、そんな私の髪にリボンを結わえ、こう言ってくれた。
「ふわふわの髪の毛に、ピンクのリボン。ほら。まるで、お姫様みたい」
それ以来、リボンは私の宝物になった。
けれど今の私の髪に、リボンはない。とっくに解いてしまった。
だって、私にはもう。
「ママー。まーだ?」
鏡の前に座らせて髪をとかしてやっていると、娘は退屈したように、こちらを見上げてきた。
「もう終わるわよ。これをこうして、っと」
娘の髪をひと房とり、赤いリボンで、きゅっと結わえてやる。
「はい、オッケー」
彼女の髪を彩るのは、真新しい、赤いリボン。
かつて私の宝物だったリボンは、色褪せ、擦り切れてしまい、捨てざるをえなかった。
でも、もういい。
だって、リボンより大切なものが、今ここにあるのだから。
私は赤いリボンに触れながら、かつてママから贈られた言葉を、新たな宝物に伝える。
「ほら。まるで、お姫様みたい」