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異世界探偵アルバ  作者: 木林白田
9/10

ケイミーの独白

 迷宮の奥からなにか巨大な者の足音が聞こえる。地響きを伴って聞こえる足音は次第に大きくなっていき、その姿を表した。


 落ちている石を無理矢理体にくっつけたような巨大な建造物は一歩一歩行進すると、セーブポイントの前で意識が消滅したかの如く、停止した。


「ストーンゴーレムだ」


 リューが呆然として呟いた。


「ゲリー!あんたがここまで連れてきたのね!」


 ジェシカが吠えた。


「にゃはははは。お前らは俺と協力してこの化け物を倒すんだよ!」


 ゲリーは両手を広げて、そう叫んだ。その隙を狙いカサンドラがゲリーの頭にハイキックをお見舞いしようとした。


 しかしゲリーはそれを避け、


「盗賊スキル【隠蔽】(ハイド)発動!」


 そう高らかに宣言すると、ゲリーはその身を風景に溶かして、消えてしまった。


 カサンドラが舌打ちをする。


「やるしかないってわけね」


 リューが告げる。


「アルバさんはここに残っててくれ」


 アルバは巨大な石の塊が人型をして、歩いて来てるのを見てから既に失禁寸前だった。


 リュー、ジェシカ、カサンドラ、それとおそらく隠れているゲリーはストーンゴーレムに果敢に立ち向かった。


 ジェシカが風魔法を放ち、ゴーレムの体勢を崩すと、リューが長剣をストーンゴーレムの頭に差し込む。カサンドラは持ち前の破壊力で、ストーンゴーレムから石を剥がしていく。


 アルバはゲリーの動向が気になったが、他の三人はゴーレムの巨大な掌に掴まらないように、必死だった。ゴーレムが腕を振るうと、ゴーレムの腕に付着していた石が散弾になって飛んできた。


 ジェシカが風魔法をもう一度放ち、咄嗟に散弾のスピードを落とすが、前衛にいたリューが何発か被弾してしまう。


 リューは歯を食いしばって耐えた。粘り強くゴーレムに長剣を突き刺していると、カサンドラが剥がした胴体の石の裏から橙色のコアが露出した。


 ジェシカはストーンゴーレムが足を上げた瞬間を狙って風魔法でゴーレムを仰向けで倒した。


 すかさずカサンドラが踵落としでコアの破壊を狙うと、コアにヒビが入った。リューは片膝立てて倒れているゴーレムの膝まで登りその上から、コアにダイブしてゴーレムをのコアを破壊した。


 ゴーレムの目から光が失われてゴーレムは消滅していった。リューは腹部を抑えて片膝をついた。カサンドラは肩で息をしているし、ジェシカはもう魔力が尽きたようだった。


 ゴーレムが消滅した後には小さな鍵が落ちていた。ゲリーはそれを拾い、迷宮の奥へと走っていった。


 誰もそれを追う気力はなかった。リューは拳を床に叩きつける。


「くそっ!ここまでやってきて最後は願いを取られるのかよ!」


 ジェシカとカサンドラは虚な目をしてゴーレムの崩れ去った後の塵を眺めていた。


 その時、セーブポイントに上層からきたケイミーが現れた。ケイミーはカサンドラや謎の死体、ボスが消失した跡などをみて瞬時に状況を悟った。


 そして、ケイミーは一言呟いた。


「後は私に任せてください」


そう言ってゲリーを追いかけて迷宮の奥へと足を運んだ。


 リューは旋風のように現れたケイミーに混乱しながらも、迷宮の奥から目を離さなかった。






 ボスから鍵をドロップしたゲリーはその鍵を用いて最後の部屋を開けた。


 そこには大きな宝箱が一つ置いてあり、ゲリーは、はやる気持ちを抑えて、手慣れた手つきで宝箱をあける。なんでも願いが叶うという報酬を独り占めできれば、わざわざ祖国に帰る必要はない。


 莫大な富を持って地方で一生を過ごすのもいいだろう。あるいは理不尽なまでの暴力を手に入れて圧政を強いるのも良い。


 ゲリーは期待を膨らませながら宝箱を開けた。しかしそこには僅かな財宝と古ぼけた剣しか無かった。ゲリーは唖然として部屋の四隅を確認したが、部屋にあったのはこれだけだった。


 宝探しに夢中になっていたゲイリーは後ろから近づくケイミーの存在に気づくことができなかった。ケイミーは持っていた杖を高く振り上げ、ゲリーの頭めがけて振り下ろした。


 するとゲリーは気を失いケイミーに引き摺られてセーブポイントまで戻ってきた。

 

 セーブポイントでは先ほどの激戦の後始末をしていた。リューは腹部にあざが出来ているのを確認して、剣を振るってみたが、痛みで剣筋は冴えなかった。


 迷宮の奥からケイミーとゲリーの姿が見えると、リュー、ジェシカ、カサンドラは戦闘態勢を取った。


 ケイミーはゲリーを投げ捨てて杖を構える。


「ケイミー!お前は何のために俺たちを傷つけるんだ!」


「何って、ただの気まぐれですよ。退屈な冒険者ごっこのね」


「嘘だな。ケイミー。お前の目的は分かっているぞ」


 アルバが声を張り上げた。


「へぇ、ならお聞かせ願いましょうか。その目的とやらを」


「ケイミー、お前の目的はなんでも願いが叶うという報酬の隠蔽だな。なんでも願いが叶うなんてのは嘘っぱちだったって隠す為に、今日迷宮に潜ってきたんだろう」


ケイミーは動揺もせず穏やかに問い返した。


「なぜ、そう思うのですか?」


「お前はリューを使ってジェシカとゲリーに化けたカサンドラに攻撃を仕掛けたな。その時点でお前の目的は死体の謎を暴くことでも、迷宮をクリアすることでもないと分かる。


 そして今、お前が持ってきたゲリーは迷宮攻略をして、なんでも願いを叶えるなんて言う報酬がどこにもないことを知って、ケイミーに連行されたのだろう」


「はいはい、その通りですよ。私の目的は願いの存在を隠蔽することです」


 リューがケイミーを睨みつける。


「仲間だって信じてたのに...。お前は何者なんだ!」


 ケイミーは杖を構える


「なんだっていいじゃありませんか。今日でこのパーティーは全滅するんですから」


 こちらの戦力は傷を負ったリューに消耗したカサンドラ、魔力の切れたジェシカ。それに対して相手は万全の準備を整えていることが分かる。


 まあ、冥土の土産にでも教えてあげましょうか私の正体を。そういうとケイミーは独白を始めた。


 私は街からこのパーティーへ派遣された間諜です。このパーティーが攻略に一番近いということを聞きつけて、街が無理矢理私をねじ込んだのを覚えていますか?


 私の目的は迷宮で栄えたこの街を永遠にすることです。迷宮はいつか必ず攻略されます。攻略され終わったら街は廃れて元の冴えない街に戻ってしまうでしょう。


 それを私は防ぎたいのです。なんでも願いを叶える報酬なんていうのは最初は上層部の冗談でした。ですが、次第にそれが真実味を帯びていって、各地方から人が集まり、この街は迷宮街として栄えていきました。


 この街の根幹を成しているのはこのなんでも願いを叶えるという報酬です。それだけは何としても死守しなければならない。その為に私はリューの弱みを握り、パーティーを襲わせました。


 結果としては失敗に終わりましたが、今は偶然に偶然が重なって僧侶の私でも、息も絶え絶えなあなた達なら倒せるかもしれない状況に居ます。

 

 私は戦っても勝てるつもりでいます。街の未来の為に私はこれからもゴールに到達しそうなパーティーを殺し続けるでしょう。それが私の役割です。


 ケイミーは独白を終えるとまずリューに襲い掛かろうとした。しかしアルバはケイミーに告げた。


「ケイミー、教会や街はお前のことを使い捨てるつもりだぞ」


「は?あなたが何を知っていると言うんですか」


「僕が今日ここに来た理由は謎の死体の解明だけじゃない。街からケイミーを守るためにきたんだ」

  

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