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異世界探偵アルバ  作者: 木林白田
8/10

ゲリーの独白

 セーブポイントまで戻ってくる途中、カサンドラの戦力は確かな物だとアルバは実感した。


 敵を打ち砕くだけの武力をその手の中に握り、カサンドラが前衛を務めて、ジェシカは後衛に、アルバとリューは中衛に入った。


 パーティーメンバーが二人欠けているにも関わらず、スムーズに深層五階のセーブポイントまで戻ってこれた。


 相変わらずカサンドラの死体、いや、カサンドラに偽装された死体が部屋の中央に安置されており、その周りのヒカリゴケは文字を現すようにむしられている。


 カサンドラは生きている


 それは確かだった。黒いローブを纏った者が残したこのメッセージは何の為だったのか。アルバは片手で顎の髭を弄びながら、考える。


 カサンドラが死体にかかっている偽装を解いた。すると、そこには横たわったゲリーの死体が安置されていた。【蘇生】(リザレクション)を掛けたいところだが、ケイミーとは合流しないまま、下に降りてきた。 


 これはリューの判断であり、ケイミーはこのパーティーを害する意思があると判断してのことだった。だが、ケイミーも時間が経てばセーブポイントに戻ってくるだろう。


 ケイミーは一人で地上に戻ることはできないだろう。となると、一度自分の安全を確保するためにセーブポイントに戻るだろう。


 ケイミーがいなくても【蘇生】(リザレクション)が掛からなかったのはリューとジェシカとカサンドラが確認済みだ。遺体がこの短時間ですり替えられたという可能性はない。


 つまりは、この遺体も外部から運ばれてきたに過ぎない。おそらく問題が起こったのは、ゲリーが迷宮内で殺害された時だろう。本当にゲリーはあの時に殺害されたのか。


 おそらく違う。アルバはカサンドラに言う。


「変身魔法が二重にかかることはあるのか?」


 カサンドラが答える。


「ええ、あるわ」


「ゲリーの死体にもう一度解除をかけてくれ」


 カサンドラは戸惑いながらも魔法を解除した。するとそこにはゲリーの姿はなく、謎の男の姿が浮かび上がった。


 アルバはある一定の確信を持って謎の男の腹部を見た。そこには先ほどの崩落の近くにあった数多ある死体と同じ位置である、右腹部にナイフで刺された痕があった。


「なんで!?私は確かにゲリーを殺したはずよ!」


 カサンドラがパニックに陥る。ジェシカが努めて冷静に言う。


「あなたが殺したと思ってた死体はゲリーになる変身魔法が掛かってた只の死体だったってわけね」


「つまりは...」


 アルバがその先を言おうとしたその時、迷宮の奥の方から黒いローブを纏った男が出てきた。


「つまりはゲリーは生きていて、黒いローブを纏った男はあっしだったって訳でゲス」


 黒いローブを脱いだのはスキンヘッドの大きな目をギョロつかせた男、ゲリーだった。


 カサンドラは驚愕で目を見開く。


「あなた、生きてたのね」


「ギリギリでゲスがね」


 リューが声を張り上げる。


「一体何のために正体を隠していたんだ?」


「それはもちろん、カサンドラの嬢ちゃんを警戒してたからに決まってるでゲスよ。」


「一度あなたの身に起こったことを順序づけて話してくれない?私はもうてっきりなにがなんだか分からないわ」


 分かったでゲス。そういうとゲリーは幻灯祭の日まで時間を遡らせて話を進めた。


 幻灯祭のあの日、あっしはパーティメンバーの皆さんとお祭りを楽しんでたでゲス。でも幻灯祭が終わりに近づいた頃、カサンドラの嬢ちゃんとリューの兄貴が消えたのゲス。


 皆んなで探したゲスけど結局見つからなくて、その日は解散になったでゲス。あっしも疲れてたから部屋で休もうとしたら、手紙が挟んであって、その内容は一人で迷宮に来てほしいというカサンドラの嬢ちゃんからの手紙だったゲス。


 あっしはなんだろうと思いながら、迷宮に行ったらいきなり頭をガツンとやられた上に、変身魔法であっしに変身したんでゲスからね。


 それからはカサンドラの嬢ちゃんに付かず離れずで、なにをするのか様子を見させて頂きやした。そしたら中央から役人が来るってので、やっとカサンドラの嬢ちゃんが捕まるのかと思ったら、すごすごと帰ろうとしてたんでちょっとばかし、()()させてもらいやした。


 それが、カサンドラは生きているっていうメッセージとあっしが必死で掻き集めたモンスターパレードでゲス。これで諸々納得してもらえるでゲスかね?


 そう言うとゲリーは路傍の石ころを蹴り飛ばして、独白を終えた。


 カサンドラが震えた声で謝る。


「ごめんなさい」


「別に気にしてないでゲスよ。結果としてあっしは生きてるんでゲスから」


 そういってゲリーはゲスゲスゲスと笑う。アルバはゲリーが意図的に語らなかった場面を訪ねる。


「ゲス男君、いや、ゲリー。あの大量の死体と迷宮に潜れというのはどういう意味だ?」


「どういう意味ってそのままの意味でゲスよ。迷宮に潜らないとこの死体たちとおんなじ目に遭わせるぞっていう意味ゲス。分かりにくかったゲスかね?」


 セーブポイント内の時が止まる。水を打ったかのように全員が静まり返る。一番最初に正気に戻ったのはアルバ、その次はリーダーの意地を見せるようにリューだった。


「あれ?なんか変なこといいましたゲスか?」


 ゲリーが禿頭を掻きながら、不気味な笑みを浮かべる。


「どういうことだ。ゲリー。説明してくれ」


「そうでゲスね。説明責任っていうものがありますゲスしね」


 そう言うとゲリーは懐からナイフを取り出して独白をし直した。


 あっしの名前はゲリー。隣国であるヴェルドミール王国からのしがないスパイでやんす。


 あっしは国からの命令を受けてこの迷宮を攻略しにきたでゲス。もちろん理由はなんでも願いが叶うという迷宮の報酬が目当てゲス。


 この迷宮を攻略するのには非常にたくさんの困難がありました。リューの兄貴と初期の頃はやけ酒をよく飲んでいたのを覚えているゲス。


 お得意のパーティーにしか商品を売らない商人に、階層を一方的に封鎖してレベリングをするパーティー。先行者利益と銘打って最新の装備をつける先輩たち。


 金、人、物、何を取っても足りなかったあっしたちが、現在迷宮で一番のパーティーだと言われているのには目頭が熱くなるものあるでござんすな。


 あっしは迷宮の攻略ができるのはこのパーティーしか居ないと初めてリューの兄貴たちに会った時からそう確信していたでゲス。だからあっしも努力を惜しまなかったゲス。


 あっし達のライバルと言われているパーティーがいたら、そのパーティーを支援している商人を殺す。あっし達よりも先輩のパーティーがいたら、そのリーダーの家族を殺す。あっし達よりも優秀そうなパーティーが現れたら、芽が出る前に殺す。あっし達よりも金を持ってるパーティーがいたらその金庫番を殺す。


 殺しても殺しても足りなかったでゲスね。正直なところ。それでも、その結果として今があるのですべての殺しに意味はあったと思うゲスね。


 あっしは死体たちの処理を迷宮に任せていたゲス。迷宮の奥まったところによくよく注意して見ないと分からない小部屋があるでゲスな。


 そこにすべての死体を隠してたんゲスが、今日の崩落でその部屋が巻き込まれたみたいで、さきほど皆さんが見たように大量の死体が衆目に晒されるのは時間の問題でゲス。


 だから皆さんには今日、まさに今日。迷宮をあっしと共にクリアしてもらわないと困る訳であるゲスな。ケイミーがいない?あんな女いなくても余裕でゲスよ。


 あっし達の足ばっかり引っ張ってきた女でゲスからね。さて、そろそろボス部屋からボスがここまで辿り着く頃でゲス。


 逃げようとしたって無駄だからな。その時はまたモンスターパレードを喰らわしてやるよ。にゃはははは。

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