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異世界探偵アルバ  作者: 木林白田
7/10

カサンドラの独白

「へ?なんであっしがカサンドラさんと呼ばれなければならないんでゲスか?」


 ゲリーが間抜けた顔をしてアルバに問う。


「まず一つ、なぜゲリーはカサンドラの浮気について知っているんだ?」


「は?あっしはたまたま耳にした程度でそこまで厳密には知らないでゲス」


「変身魔法なんて使えば普通バレようはないがな」


「さぁ、変身している瞬間を誰かに見られたんじゃないゲスか?」


「じゃあ二つ、ジェシカはゲリーにプロポーズ用の指輪を渡されたと言ったな」


「えぇ、そうよ」


「そして、ジェシカ、リュー、カサンドラは幼馴染なんだよな。ジェシカ、リュー。」


「あぁそうだか、急にどうした」


「指輪を渡すとプロポーズになるというのはリューの村のみの風習なんだ。だからおかしいんだ。ゲリーが指輪を見てプロポーズを連想するのは」


「あっ」


 ゲリーは後退りして、目を右往左往させて動揺した。そして微かな光明を見つけたかのような顔をして前を向いた。


「い、いや、カサンドラさんから元々聞いてたんでゲスよ。そういう風習があるって」


「己のフィアンセになる者にはその風習を告げると村の資料にはあったが、どうなんだジェシカ、リュー」


 ジェシカとリューはその通りだと首を縦に振る。


 ゲリーは諦めたかのように笑い、変身魔法を解いた。そこには顔を伏せたカサンドラの姿があった。


 カサンドラは握っていたナイフを落とした。


「まさか、探偵さんがそんなに村の風習まで調べてたなんてね。思っても見なかったわ」


「ここにくる時調べてたんだが、たまたま故郷の風習と似ていてね。覚えていたんだ」


「まって、それじゃあ本物のゲリーはどこ?」


「ゲリーの死体は安置されてるわ」


「まてまてまて、ゲリーの死体?訳が分からないから一から順に説明してくれ」


 カサンドラは諦めて全てを話し始めた。


 私はリューのことを愛してたの。でもリューはお姉ちゃんにばかり目をくれて...。許せなかったわ。だから最初は悪戯のつもりだった。お姉ちゃんと入れ替わるなんて。


 でもそれが意外にも成功しちゃって、私はどんどん味を占めるようになっていくわ。終いには幻灯祭の日に無理矢理お姉ちゃんとリューを引き離して二人きりのお祭りを楽しんでいたの。


 そしたらまさかリューが橋の上で私に、いや、お姉ちゃんにプロポーズをしたの。私は一瞬喜んでしまったけれど、現実はお姉ちゃんにプロポーズしてるだけだって気づいて悲しくなった。


 私はここが引き際だと思って全てを正直にリューに伝えたわ。そしたらリューは予想以上に取り乱しちゃって、私がどんだけ謝っても許してくれなかったわ。


 さらに私のことを橋の上から突き落としたの。浅い川だったけれど、迷宮で鍛えた耐久力はこの程度で死ぬことは無かったわ。


 私が川からびしょ濡れになりながら陸に上がった時、私の中にあったのは怒りだったわ。リューとお姉ちゃんの仲を引き裂いてやりたい、そう思って行動し始めたの。


 私は初め死んだふりをしてリューを殺人犯で捕まえてやろうと思ったの。その為の死体作りとしてゲリーを選んだわ。だから幻灯祭の終わり頃にゲリーを迷宮に呼び出し、後ろから頭を殴ったの。


 一瞬ゲリーに逃げられたけれど、血の跡を追っていけば倒れているゲリーを見つけることができたわ。ゲリーには私になるよう変身魔法をかけて、私にはゲリーになるよう変身魔法をかけたわ。


 その後ゲリーの死体を川から流すと、目論見通り、お姉ちゃんやケイミーが見つけてくれたわ。その後は死体を迷宮に隠すことになってゲリーの死体は安置されたわ。


 けれど、気づけば私の遺体は欄干から足を滑らせたという話になってきて、私は直接お姉ちゃんに私とリューの関係を伝えることにしたの。


 そしたら、まさか黒いローブを纏った男が出てきて、カサンドラは生きていると告げるなんて、思っても見なかったわ。きっと誰かに現場を見られたのね。


 そして、転移してお姉ちゃんと二人きりになった時、催眠作用のあるお香を使いながら私とリューが想いあってるって話したんだけど、それもどこまで効果があったのやら。


 その後は、二手に分かれたけれど、私はケイミーを巻いてアルバさん、お姉ちゃん、リューの跡をつけたわ。でもまさか指輪に刻印がされてるなんて気づかなかった。


 何はともあれ、私がゲリーを殺したのは事実よ。煮るなり焼くなり好きにすればいいわ。

 

 そこまでカサンドラが独白すると、ジェシカはつかつかとカサンドラに近づいていった。ジェシカは地面に落ちてたナイフを拾い上げる。


 リューが「危ないっ!」といった顔で、カサンドラを庇おうとするが、ジェシカは拾ったナイフを遠くに投げ捨てて、カサンドラを抱きしめた。


「馬鹿な妹ね」


 ジェシカは肩を震わせて泣いた。カサンドラは呆然といった顔でジェシカをに抱かれると、状況を理解してカサンドラも泣いた。


「ちょっと待ってくれ。薄っぺらい御涙頂戴的な展開はまだ早いぞ。消えた筈の謎の正体が復活している」


 アルバはペシペシと拾ったナイフを手のひらに打ち付けながら、うろうろとジェシカとカサンドラの周りを歩いた。


「カサンドラ、君は迷宮内部でゲリーを殺したと言ったね。それはきっと【蘇生】(リザレクション)が通じるように殺したんだと思うんだが、それで合ってるか?」


「えぇ、そうよ。でも何故か蘇らなくなったの」


「それじゃあ、また振り出しに戻るですね。アルバさん」


 リューがアルバの肩を叩く。その顔には「頼りにしてますよ」という言葉が張り付いているように見えた。


 何故か上がったリューからの好感度の原因を調べる間も無く、リューが宣言した。


「セーブポイントまで戻るぞ!アルバさんに謎を解いてもらって終わりにするんだ」


 カサンドラはジェシカに支えられるようにして立ち頷いた。


 最初にして最後の謎はセーブポイントにある。無限の命を持つ筈の冒険者がなぜ死んだのか、そしてなぜ蘇らないのか、死体の正体は何者なのか。それを解くのがアルバの役割だった。

 

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