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異世界探偵アルバ  作者: 木林白田
5/10

転移

 追うか、追わないか、リューはパーティーメンバーの意見に押される形で追うと選択した。


「アルバさんはセーブポイントに残っていてください」


 アルバは満面の笑みで頷いた。アルバは元より着いていく気など毛頭なかった。


「しかし、一応不審者が存在するこの迷宮で僕一人というのは大丈夫なのか」


 リューは断言する


「大丈夫です」


「死ねばリザレクションかければいいだけだし」といった顔でリューを見下ろして、探索の準備をする。ポーションに携帯食料、武器に防具にすべて問題なかった。ただの護衛とはいえフル装備でここまできた甲斐があった。と、リューは考える。



 上手いことパーティーを誘導しながら探索しなければならない。しかし、問題なのはアイツの存在だ。あのことをなぜ誰にも言わずに黙ったままにしているのか。リューは努めて冷静を心がけて考える。答えはでなかった。リューは号令をかけた。


「皆準備はいいな!いくぞ!」


 皆は勇ましく迷宮の奥へと進んでいった。深層五階はカサンドラ抜きで進むのは初めてだった。それでもパーティはお互いをカバーしあい降り注ぐ魔物たちを倒して回っていった。


 問題が起こったのは、ゲリーが転移魔方陣を踏んでからだった。この第五層でパーティーが散らばってしまったのだ。ゲリーとジェシカ、ケイミ―とリューに分かれることになった。


 ゲリーとジェシカは狭く細長い道に転移してきた。ゲリーが弱音を漏らす。


「しまった。あっしのミスでゲス」


 ジェシカがフォローする。


「仕方ないわ。できるだけ魔物にエンカウントしないようにして進みましょう」


「ジェシカの姉御。実は言いにくいことがあるんでゲスけど…」


 ジェシカは苛立しげに言った。


「今じゃなきゃダメなの?」


「はい、今じゃないとだめでゲス。カサンドラさんと合流する前に言っておきたいでゲス」


「わかったわ。手短にしてちょうだい」


「実はカサンドラさんとリューの兄貴がだいぶ前から浮気をしてるっぽいんでゲスよね」


 ジェシカは浮気という単語を聞いた瞬間頭に何か殴打されたような衝撃を食らった。くらくらする視界の中で、ゲリーの話が断片的に入ってくる。


 「三年前から、浮気していて…」「リューの兄貴もジェシカの姉御を疎ましく思ってる」「今回カサンドラさんが姿を消したのも煮え切らない態度をとるリューの兄貴のせい」「ジェシカさんさえいなければ…」


「その証拠にほら。プロポーズに使った指輪がカサンドラさんの手についてたでゲス」


 ゲリーの言葉が脳内で反響してジェシカは正常な判断ができなくなってしまった。ジェシカはゲリーから指輪を受け取ると、信じられないものを見るような目で指輪を見た。


 ジェシカは愛するものに裏切られた屈辱と悲しみを胸に抱いて前へ進んだ。


 ジェシカとゲリーはその後魔物にエンカウントすることなくセーブポイントに戻ってこれた。アルバが迎え入れる。


「やあやあ、皆さん成果はあったかね」


 アルバはジェシカの変わった雰囲気に敏感に気づき、探りを入れようとした。しかし、ジェシカは何もかもを拒絶する態度でアルバとの接触を避けた。ゲリーがすかさず状況を説明しようとすると、セーブポイントの奥から黒いローブを羽織った者がもう一度現れた。


 黒いローブを羽織った者が肉薄し、ゲリーやジェシカを殴りつける。負けじとゲリーとジェシカは避けて対抗する。黒いローブを羽織った者はゲリーとジェシカ相手に互角に戦った。ジェシカが叫ぶ。


「カサンドラ!ごめんなさい。あなたのリューへの想いを知らなかったの。私がいなくなるから許して!」


 黒いローブを羽織った者がゲリーの腹に拳をめり込ませる。ゲリーは壁まで吹き飛ばされて、持っていたナイフを落とした。ジェシカが魔法を詠唱した。


「ウインドブラスト!」


 黒いローブを羽織った者は腕を前で交差させて風の球が過ぎ去るのを待つが堪えかねて、背中を向けて洞窟の奥に逃げてしまった。ジェシカはゲリーの介抱に向かう。ゲリーは鳩尾を抑えてかなり苦しそうにしていた。


「回復魔法は?」


 アルバが尋ねるとジェシカは首を振った。


「ケイミ―しか使えないわ」


 そのタイミングでリューとケイミ―がセーブポイントに入ってきた。黒いローブを羽織った者と入れ違いでここに来たらしい。すぐさまケイミ―が回復魔法をゲリーにかける。ゲリーの腹部が淡い光で照らされて、回復していっているのが分かる。


 アルバはリューに近づき撤退の勧告をする。護衛の依頼主としてこれ以上の消耗は自身の生命にかかわると判断したからだ。リューは苦し気に首を縦に振って撤退することを決めた。


 帰りの足取りはパーティー全員重かった。ジェシカ、ゲリー、リューの動きは精彩を欠いていたし、ケイミ―はミスの連発をしパーティーの動きを阻害させた。


 それでも何とかモンスターを退き、深層四階を乗り切った。問題は三階にあった。道の一部が崩落して今までの帰路が使えなくなってしまったのだ。パーティーは二手に分かれ、帰路を探すことにした。


 ゲリーとケイミ―、リューとジェシカとアルバの二組に分かれて薄暗い迷宮を探索した。


 アルバは前を行く二人の背中を見て合点がいった。おもむろにリューの背中を撫ぜて、リューの反感を買う。


「何、気持ちの悪いことするんですか?アルバさん」


「いやなんか、がっちりしてるなーって思って」


 ジェシカがはぁ、とため息を吐いた。


「こんな状況でもふざけられるなんて。どうかしてるわ」


「ふざけてるわけじゃなくて。お前だろ。黒いローブを羽織った者の正体って。リュー」


「は?ふざけるのもたいがいにして下さい。根拠はなんですか?」


「明らかに一回目と二回目で黒いローブ纏った者の体形が変わってただろ」


「確かにそうね」


「なっ!?ジェシカまでこいつの肩を持つのか?」


「私はあなたのことが許せないの。あなたカサンドラと浮気してたんでしょ」


 アルバがリューに詰め寄る。


「僕たちを襲った時に得意の剣を使わなかったのは、身バレをおそれてなんだろ。リュー」


 リューは「なんで、そこまで分かるんだ」という顔をして驚いていた。




 時間はゲリーが転移魔方陣を踏んだ時に遡る。


 リューとケイミ―は広間に転移していた。リューが足早にケイミ―と距離をとろうとしたとき、ケイミ―はぽつりと呟いた。


「私、あの夜のこと知っています」


 リューは一瞬とぼけようかと思ったがすぐに無理だと察した。


「あの夜のことばらされたくなければ言うことに従ってください」

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