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異世界探偵アルバ  作者: 木林白田
3/10

ジェシカの独白

ジェシカは健康的だった小麦色の肌を青白く染め上げて、下を向いた。


「ふん、君たちの目的が本当は何なのかは最悪どうでもよい。僕の目的が達成されるかどうかだけが問題だ」


 さて、死体の話にもどそう。そうアルバは言って死体の方を見た。


「死体の名前はカサンドラ。職業は?死因は?」


 ケイミ―が答える。

 

「職業は武闘家。死因は頭部への打撲です。一月前モンスターハウスに入った時にドアの影にいたゴブリンに後ろから頭を叩かれ死にました。その後、【蘇生】(リザレクション)を試みましたが、カサンドラさんの御霊は帰ってくることがありませんでした」


 御霊は帰ってこなかった。それが今回の謎だ。【蘇生】(リザレクション)のメカニズムは死んだ冒険者の魂が迷宮に定着することで、死した魂が冥界に行かずに呪文をかけられることによって復活するというものだ。その魂が返ってこなかったとなると、考えられるパターンは四つくらいある。


 一つ目はジェシカが言っていた迷宮の不具合。

 二つ目はそもそも本当はカサンドラが生きているか。

 三つ目はケイミ―が【蘇生】(リザレクション)をかけているふりをしているか。

 四つ目は迷宮の外でカサンドラが死んだか。

 

 一つ一つ可能性をつぶしていこう、とアルバは思案を巡らす。


「今、迷宮は調査目的を除いて出入りが禁じられているが、カサンドラの死後、【蘇生】(リザレクション)を受けて蘇生されなかった者はいるか?つまり、カサンドラと同じ症状の者はいるだろうか?」


 ゲリーが答えた


「あっしが調べた限りでゲスと、【蘇生】(リザレクション)はうちのパーティー以外は機能してるみたいでゲスね。」


「私の力が足りていないと言いたいのですか、ゲリーさん」


「い、いや。そんなこと一言も言ってないゲス。」


「いやゲリーの言う通りだ、ケイミ―の力が足りてないのかもしれない」


 アルバがケイミ―を糾弾しようとするとジェシカがそれを妨げた。


「だから、この前街で二番手の神官に着いてきてもらって、検証したじゃない。それでどの神官でも【蘇生】(リザレクション)がかからないって」


「じゃあ、本当はカサンドラまだ生きてるんじゃないか?」


「え?」


 ゲリーが聞き返す。リューが答える。


「そんな訳ないでしょ。アルバさん、それだったらカサンドラは一月近く飲まず食わずで寝ていることになりますよ。死体がこの一月の間腐らなかったのは迷宮の中の者は腐らないっていう原則の下で腐ってないだけで、生きてるわけじゃありません」


 ケイミ―が続ける。


「呼吸の停止、脈拍の停止、瞳孔の確認の三つをもってカサンドラさんは魂が抜けた状態にあると判断しています。それは他の神官からもチェックを受けているので間違いありません」


 一つ目から三つ目までの可能性は潰えた。あと残っているのは四つ目の可能性だ。アルバは更に詰めよる。


「なら、本当はこの死体は外部から持ち込まれたものじゃないのか?」


「先ほども申し上げた通り、カサンドラさんはこの迷宮のモンスターハウスでゴブリンによって殴られ、死亡し、この場所へ運ばれています。そうですよね、皆さん」


 ケイミ―が胸を張ってそう答えると他のメンバーは各々頷いた。


「しょうがないな。探偵スキル【嘘発見器】(ブラフキャッチ)!」


「おい、もういいだろ。こんな茶番」


 リューが立ちながら剣を抜いた。ジェシカが慌ててリューの前に出る。ケイミ―とゲリーは様子をうかがっている。


「ちょっと待って、だからって殺すのは違うわ」


 アルバは得意げな顔をしながらキラリとヒカリゴケに反射する鉄の抜き身を見て硬直する。まさか自分が殺される流れになるとは思ってもみなかったようだ。


【嘘発見器】(ブラフキャッチ)なんてとんでもないスキルが存在する以上、俺たちの秘密は隠し通せない。ならもうこいつを殺すしかないだろ!?」


「リューの旦那。そんなスキルが存在すればの話でゲス。あっしの予想ではそんな貴重なスキルをもつ役人はこんな地方まででむいてくることはないでゲス」


「さらにこの役人を殺してしまえば、また次に来る役人も殺すことになるでしょう。そしておそらく次に来る役人はこの男よりもずっと強い」


 ケイミ―は嘲るような目でアルバを見下ろす。アルバはケイミ―に追従した。


「そうだ、そうだ。僕が死んでも第二、第三のアルバが来るだけだろ!」


 リューは抜いた剣を地面に向けて項垂れた。


「こいつのブラフに俺はまんまと引っかかってしまった訳か」


「気づかれたのならば仕方ない。【嘘発見器】(ブラフキャッチ)なんてスキルありませんでした。この職業長くやってると、大体嘘ついてる人の顔が分かるようになるんだよね。初めて会った時から、お前ら全員ぷんぷんしてたよ。嘘の匂いが」


 何を隠しているんだ?アルバが本題に迫った。ジェシカが首を振りながら告げた


「もういいわ。全部教えてあげる。ただしこの話を聞いて協力しなかったら、その時は覚悟しなさいよ」


 ジェシカがアルバを強く睨むとアルバはひっと悲鳴を漏らした。ジェシカは独白した。

 

 私たちが蘇生できない死体を作り出した方法はあんたの言う通り、迷宮の外で死んだ妹を迷宮の奥深部に持ってきただけよ。モンスターハウスに引っかかって死んだなんて大嘘。あの子は橋から足を滑らせて死んだのよ。


 幻灯祭の日、私たちパーティーは皆でお祭りを楽しんでいたわ。でも途中でリューと妹と逸れてしまって、皆で二人を探そうってことになってメインイベントであるホロゴーストの放出は見逃したの。


 でもあとからケイミ―に聞いたらそのタイミングで妹が橋から滑り落ちたらしいわ。そうよね、ケイミー。妹は悪酔いすると橋の欄干にのぼって踊る癖があったの。たぶんお祭りでお酒を飲み過ぎたせいで足を踏み外して、そのまま…。


 そう、そうね。ごめんなさい。本題はここからよ。私たちが迷宮に妹を持ってきた理由は、妹をよみがえらせるためよ。この迷宮の踏破した報酬として何でも願いが叶うって言われてるでしょ、私たちは迷宮をクリアして、その報酬として妹を助けてもらうの。


 幸いなことにあと一階でこの迷宮はクリアできるって資料に書いてあったし、私たちならクリアできるって自負があったの。でも妹が抜けた穴は大きくてどうしても最後のボスがクリアできなかった。


 そこでケイミ―が街に連絡したの。蘇生できない死体が存在するって。結果として迷宮は封鎖されて、他の冒険者たちの攻略の手は止まったわ。


 私たちは何も延々と迷宮を封鎖するつもりはない。優秀な武闘家、妹の代わりさえ見つかれば、すぐにでもこの迷宮をクリアするわ。


 だからお願い。あと少しだけ私たちの行動に目を瞑っていてもらえないかしら。報告書にはなんてかいてもいいから。


 そうジェシカは言い切るとアルバに歩み寄った。



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