アルバの独白
「僕がここに来るまでのことを話そう」
アルバはケイミーの瞳を見ながら滔々と語り出した。
僕がこの街に着いたのは一週間前のことだった。
僕は今日までの一週間何をしていたのかというと、資料を徹底的に浚っていたのさ。地方の村の風習からこの街の成り立ちまであらゆる資料に目を通した。
その中で今までこの都市で三百年近く前に迷宮に似た何かが発見された記録があることに気づいたんだ。そこの記述にはなんでも手に入るが如くの名声が手に入るって書いてあったんだ。
これを見てすぐに上層部に掛け合ったよ。一介の役人が知れることを上層部が知らないわけがない。
すると、上層部はあっさり迷宮にそんな願いがないことを認めた。そして自分たちのカジノが出来るまで、迷宮をもたせる為の人材が迷宮に潜っていることも認めた。
彼らはただの時間稼ぎに君を使っているに過ぎない。彼らのカジノができたら君はお払い箱で死刑だろう。
君や弟君たちが待っている施設が豊富な病院はきっと作られることはなく、このままだと君は無念のまま死ぬことになるだろう。お節介だが君の教会にいる家族にもそのことを告げた。
すると、弟君たちは部屋という部屋から小銭を集めてきて、姉ちゃんを助けてあげてと頼んできたんだ。
僕は笑ったよ。わずか銀貨三枚にも満たない金で中央の探偵を雇おうとするなんてね。だから僕は乗ってやった。必ずケイミーを連れて帰るって。
ケイミー、争う必要はないんだ。一緒に中央に戻って今回のことを告発したら中央からそれ相応の謝礼が出るだろう。それで弟君の病気を治したらいい。
アルバはそう告げて、ケイミーに手を伸ばした。ケイミーは首から垂らしたロザリオを力一杯握りしめて悩んだ後、力無くアルバの手を取った。
後日、衝撃の速報が世間を騒がせる。
昨今巷を賑わしていた新生の迷宮が攻略されたという。
迷宮を攻略したパーティーリーダーはこのことについてコメントを差し控えている。
というのも、実はこの迷宮の報酬として掲げられていた何でも願いが叶う権利というのが、街が流した虚偽であることが発覚したのだ。
発見したのはA級十三位の肩書きを持つ探偵のアルバだ。アルバは同迷宮で依頼されていた蘇らない死体について調査を受けたところ事前調査で何でも願いを叶える報酬が虚偽であることを見抜いたのだ。
その後迷宮での実地調査後、願いを叶える権利が虚偽であることを隠蔽するために雇われたという神官が街の不正を告発した。
更に迷宮には多数の死体が安置されており、それが隣国であるヴァルドミール王国の間諜によって齎されたものだということまで発覚した。
間諜は獄中で不審死しており、大量殺戮の目的はパーティーでとの攻略をスムーズに行う為だと供述していた。衛兵たちはパーティリーダーとの関与を慎重に調べているところだ。
「号外!探偵アルバの大手柄!」そう書かれた記事をアルバの前で握りつぶす。女は長い艶のある黒髪を後ろで一束に纏めていて、広い額に整えられた眉毛、長いまつ毛と吊り上がった眦は勝ち気な性格を連想させる。わなわなと震えている彼女の唇は鮮やかな赤色をしていた。
彼女は吊り上がっている眦を更に吊り上げて、アルバを睨みつける。
「いいこと...あなたは私の懐刀なのよ...これ以上目立ったことをしてみなさい!ただじゃ置かないわ!」
アルバは飛び上がって怯える。そして猫のふりをして姫様に甘えるふりをする。
「にゃー、ごろー、にゃー」
姫はそれに機嫌を良くしてアルバの顎髭を撫でる。
「そう、それでいいのよ。アルバ、私が王になるところをしかとその目で焼き付けなさい」
アルバは思った。異世界に来てまさかこの歳で猫マネして寿命を延ばすなんて、人生分からないものだ。だが、アルバ、いや、有馬浩一は諦めない。例え猫マネでも、なんだろうと、のしあがって行くだけだ。
まずは役人の中でS級を目指す。例え姫様に多少怒られても、最低限の権利は握っておくべきだ。アルバは件の話でA級十三位から八位に上がった。
S級まではあと七人乗り越えなければならない。化け物揃いの役人の中でどこまで自分の力を発揮できるか。アルバは柄にもなくうずうずしている自分に気づいた。




