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公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです  作者: 猪本夜
第一章 幼女編

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44 ※レナート視点

「……まさかリディは……雄鹿か?」

「パパひどい。私、人間!」

「そういう意味じゃない」


 リディに突っ込みながらも、ふと過った嫌な仮定が、正しいと思えてならない。


 金の角を持つ雄鹿。前回の世界樹の代替わりで、世界樹の新芽だった雄鹿。今回も当然、世界樹の新芽は金の角を持つ雄鹿なのだと思っていた。しかし、違ったのなら。ただの思い込みだったのなら。


 雄鹿については、現在、ラヴァルディ公爵家が捜索し、闇ギルドにも捜索を依頼し、皇帝だって捜索している。なのに、見つからないのは、今回の新芽が雄鹿ではなかったから。


 今回の新芽は、リディ。


 レナートを見ながら首を傾げるリディを、レナートは抱き寄せた。


「パパ?」


 リディを抱きしめるレナートの顔が見えないリディは、不思議そうな声を出す。しかし、レナートの顔が見えているラヴァルディと光の妖精は、焦った表情で口をつぐんでいる。


 レナートは怒りで目の前が真っ赤になっていた。

 何故、リディが新芽なんだ。何故。


 リディが新芽だと仮定した段階で、レナートは他のいくつもがリディの不遇を作り出していることに気づいた。


 思い出すのは、金の角を持つ雄鹿の絵本。

 人や動物たちが、雄鹿に何かをください、と願い、『たとえ世界が終わっても』、欲しがる誰かに自身の身をも与えてしまう。自身の心臓や肉、目や金の角など、雄鹿の持つ物を利己的に欲しがる他人に、搾取されていく。


「『たとえ世界が終わっても』か」

「パパ? それって、雄鹿の絵本?」

「そうだ」


 レナートの仕事をする横で、何度も絵本を読んでいたリディには、ピンときたようだ。リディがレナートから体を離し、レナートを覗き込む。


「雄鹿は心臓を誰かにあげていたな。そうすると、雄鹿はどうなる?」

「雄鹿は……心臓がなくなったら、死ぬと思う」

「そうだ」


 そうだ。雄鹿は死んだはずだ。なのに、また別の話では、雄鹿は自身の肉を誰かにあげるのだ。肉をあげれば、雄鹿は再び死ぬだろう。ずっと、雄鹿は死に戻りを繰り返していた? そう、リディのように。


「新芽の運命と言いたいのか」


 そうはさせやしない。これまで、雄鹿のように、利己的な誰かのために自分を犠牲にしてきたリディ。レナートが父になった以上、今度からはレナートがリディの不遇な運命から救ってみせる。


「リディ、これから俺が言うことをよく聞け」


 レナートはリディが今回の雄鹿にあたり、世界樹の新芽であること。雄鹿も回帰を繰り返していただろう、ということ。この回帰は、新芽が代替わりするまで続く可能性が高いことを話した。リディは、理解が難しいのか、首を傾げながらも、なんとか飲み込んでいるようだ。


「その代替わりって、いつ?」

「およそ四十年くらい先だな」

「……そんなに先? 私、今まで十二歳が最高なの。本当は大人になりたいけど、でも今回の目標はね、十三歳!」

「本当は五歳なのに、リディがいつも十二歳って言っているのは、最高に生きたのが十二歳だからか」

「う……本当も十二歳なのに……うん」


 一応、最後は小さい声音でリディは自身が五歳だと認めた。


「今回は俺がいるから、リディは大人にもなるし、もっと長生きする。新芽の代替わりだって、やる予定だぞ」

「本当? で、でも、もし死んだら……」

「リディは死なない」

「そうだと嬉しいなって思うけど、でも、もし死んだら……。次もパパはパパになってくれる?」


 来世も、パパに。


「……ああ。俺がいるから、リディは今回で回帰は終わりだ。でも、もし、死ぬようなことがあっても、リディは来世でも俺の娘だ」

「……!! うん! パパ! 絶対よ! 約束ね!」

「ああ。約束する」


 ニコニコと、リディはレナートの頬にキスをする。そんなリディを抱きしめる。


 いくら、回帰の中で十二歳まで生きたとしても、リディはまだ子供だ。ブリスが言うように、まだ親の愛情が必要なのだ。なのに、回帰の中で、何度も騙され利用され、殺されてきたリディ。レナートが辛い思い出を上書きしたい。


「本当はね、今回でね、ずっと終わりにしたいって思ってた。もう回帰したくないって。回帰しても、次はパパに、……本当のパパの方だけど、パパにもう会えないから。半年ずつ、回帰の時間が伸びるの。パパが死んだのが五歳の誕生日の前日で、今回回帰したのが五歳の誕生日で、パパに会えなかった。たぶん、次は五歳半くらいに回帰して目覚めると思うから」

「そういえば、確かに半年ずつ回帰時期は進んでいたな」

「うん。なんでか分からないけど……でも、だから、次も本当のパパとも会えないでしょ? パパにも会えないのに、回帰しても何も良いことないって思ってた。だけど、パパが次もパパになってくれるなら、希望があるなって思える」

「……そうか」


 次などないように、リディが死なないように全力を尽くすつもりではあるが、来世の約束がリディの希望になるなら、いくらだってレナートは約束する。


「それにしても、俺だけ回帰の記憶があるのは何故かと思っていたが、リディに殺されたからの可能性があるな」

「う、ご、ごめんなさい」

「もう謝らなくていい。ただの認識確認だ。リディ、俺の他に、誰かを殺していたりするか? 殺した認識がなくとも、例えば、偶然、リディが起因で死んでるような奴とか」

「えぇ? うーん、どうかな? ……私の仕事、聖女になっていることが多かったけど、怪我した人とか病気の人の治癒で失敗もなかったと思うから、パパ以外、死んだ人っていないと思う。……けど、認識していないところまでは、ちょっと自信ない」

「そうか。光の妖精から見て、思い出すことはないか」

『リディはいい子なんだから、何もないわ! って言いたいところだけど、そういうのって、どういうところまでリディが起因ということになるの? 例えば、リディの上司の神官って、結構腐った奴が多かったわよ。大金払えないなら、聖女に治癒させないとかね。結局、貧乏ってだけで、上司の神官がリディに治癒させなかったこともあったから、そういった人が、もしかしたら死んでいる可能性は捨てきれないわ』

「……そうか。それは、分からないな」


 気になるのは、レナートのように記憶のある回帰者がいるのかどうか、だが、リディ起因で間接的に死んだり、レナートのように直接的な起因で死んだり、色々可能性はある。


「まあいい。答えの出ないことを考えすぎても仕方がない。もし、何か気づいたことがあれば、俺に言ってくれ。……それにしても、解決した疑問はあっても、他にも気になることがあって、すっきりはしないな」

「他に気になることって?」

「なぜ、回帰時期が半年ずつ進むのかとか、『たとえ世界が終わっても』は何を示すのかとか、そもそも回帰がなぜあるのかとか」

「……うーん、私もわかんない」


 答えが分かる日は来るのだろうか。レナートなどが理解しえぬ理由かもしれない。

 しかし、方向性は決まっている。リディは全力でレナートが守る。そして、成長したリディが笑う姿が見られれば、それが成功なのだから。

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