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公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです  作者: 猪本夜
第一章 幼女編

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 今日は、リディの洋服を買いに行く日。

 パパと馬車に乗ったリディは、上機嫌で馬車の窓から外を眺めていた。お出かけって、わくわくするよね。パパの横にリディは座り、リディの前にはブリスが座っている。パパとブリスは、馬車の中でも仕事なのか、なんだか難しい話をしている。


「あ、そろそろ着きそうですね。リディ、見えてきましたよ。今日行くお店は、あのクリーム色の建物です」

「わぁ! 素敵な建物だね」


 ブリスの声に、リディはその建物を見た。このあたりは高級ブティック街なだけあって、建物もオシャレですごく豪華だ。過去の回帰では、リディに一切、縁のなかった場所である。


 馬車が店の前に到着すると、ブリスが馬車を降り、リディはパパに抱きかかえられて降りる。店の前には、数名の人が一礼していた。


「ラヴァルディ公爵閣下、ようこそいらっしゃいました。閣下にお越しいただき、大変光栄でございます」


 この店のオーナーだろうか、綺麗な女性がそう言って顔を上げた。パパはそんな女性に何も返さず、リディを抱えたまま店に入っていく。


『まあ、ラヴァルディ公爵ですって!? 女の子を抱えていたような?』

『噂のご令嬢かしら』


 ラヴァルディ公爵家の馬車とその当主の登場に、店の外はざわざわしていた。しかし、店に入ると、その喧噪は静かになった。今日はこの店は貸し切りにしたとブリスが言っていたから、他の客はいないようだった。


 店に入ると、案内された先に豪華なソファーがあった。ソファーに座ったパパの横に、リディも降ろされる。


「娘の服を見に来たのだが」

「伺っております、閣下。ご用意させていただいておりますので、ご紹介させていただきますわ。お嬢様、お気に召したものがあれば、どうぞ遠慮なくおっしゃってくださいませ」

「は、はい」


 ブリスに最初から色々と指示されていたらしい。本来ならあるのだろう長ったらしい挨拶なんかは、すべて取り払われている。


 ずらっとリディのサイズのワンピースやドレスなんかが並べられ、女性が詳しく説明をしている。


 どれもこれも可愛いと思うのだが、リディには、自分にどれが似合うかなど分かりやしない。戸惑い気味に、女性の説明に頷くだけだったが、パパが口を開いた。


「リディ、あの青のやつと、白のやつを着てみろ」

「うん」


 パパの言葉に、リディは試着室に案内され、まずは青を基調とする可愛いワンピースを着てみた。


「ど、どうかな?」

「可愛いですよ、リディ! 青色が似合いますね」

「ああ。似合っている」


 ぽぽぽ、とリディは頬を染めて、はにかんだ。可愛いって言われると嬉しい。ブリスとパパは褒め上手だ。


 次は白を基調とするワンピースを着てみた。


「白色も似合いますね、リディは」

「ああ、可愛い」

「ありがと」


 えへへ、とリディは笑う。褒められて気分は上々である。


 それから、たくさんの服を着替えては褒められ、リディは調子に乗って、自分が思う可愛いポーズをしつつ、気づいたら何十着も着替えていた。


 ぐだっとパパの膝の上に頭を乗せて横になる。


「パパ、もう疲れた」

「まだ着替えるものがあるぞ」

「もういい……」


 今まで、リディが着替えたもの全て買うつもりのようだし、すでにかなりの数になっている。毎日着替えても、十分過ぎるくらいある。


「そうか。では、全て買うから、屋敷に送ってくれ」

「お買い上げ、ありがとうございます!」


 どうやら、まだ着替えていないものも買うらしい。着替えたものだけ買うのかと思っていたリディは、少しげっそりとしながら、着替えるのは最初の二着くらいにすればよかった、と内心思う。洋服を着替えるだけなのに、こんなに疲れるとは思わなかった。


「リディはどれが一番気に入ったんだ?」

「……最初の青色のかな」


 リディは体を起こすと、パパの膝の上によじ登って座り、パパを向いて抱きついた。疲れたから、パパから元気を貰おう。


「疲れたか。何か食べて帰るか?」


 がばっとリディはパパから体を離した。


「食べる!」

「分かった分かった」


 くくくと、パパは笑って、リディの額にキスをする。えへへ、と笑って、リディは再びパパに抱きつく。そんなリディを抱えてパパは立つと、ブリスを連れて店の外へ出た。


「す、すごい人だね?」


 なぜか店の前の馬車の周りに、貴婦人たちが集まっていた。舌打ちするパパは、そのまま馬車に乗り込んだ。馬車が動き出す。


「あの人たち、どうして集まっていたの?」

「普段見かけない場所に兄上がいたからですよ。馬車にはラヴァルディの紋章も入っていますしね。兄上は、どこにいても目立ちますから」


 ブリスの言うとおり、次のお店、つまり食事をするレストランでも、リディたちは目立っていた。食事中は個室だから見られることはないけれど、店を出入りするときにリディたちを見ている人が多い。


 パパは身分もあるだろうけれど、パパ自身が人気で有名なんだなぁ、としみじみ思う。


 屋敷に帰る途中、リディは見覚えのあるお店を見つけた。


「あ、あの店! やっぱり人がいっぱいいる」

「どれですか? ……ああ、あのカフェ。ケーキと茶菓子が人気の店ですね」

「そう。行ったことないんだぁ。いつも人がいっぱいで、いいな~って見ているだけだったの」


 カフェは、中流家庭が多く行き交う道路に建っている。中流家庭から貴族までが通う人気の店のため、カフェの入口も、ケーキなどの持ち帰り購入用の入口も、どちらもいつも行列なのだ。いつもお金がないリディは、その行列を羨ましく見ていた。


「なんだ、行きたいのか? 連れて行ってやるぞ」

「いいの!? 行く!」

「止めた方がいいですよ。あんな人気店に兄上が行こうものなら、大勢の人に見られながら食べることになりますよ」

「貸し切りにしろ」

「それが一番よいでしょうけれど、いつ貸し切りにできるか分からない上に、一番近くの日程で貸し切りにしたとしても、今回はそこまで空いた時間はありません。兄上、ご自分が忙しい人だと、忘れないでくださいね」


 どうやら、今回の帝都滞在でパパが自由に遊べる時間はもうない、とブリスは言いたいらしい。パパはいつも忙しいものね。


「……パパ、無理しないで。また今度、一緒に行こう」

「だが、リディは行きたいのだろう? ……分かった。明日、リディは行ってこい。護衛を付けるから」

「いいの!?」

「ああ。好きなだけ、気に入ったお菓子を買ってくればいい」

「ありがとう、パパ!」


 やった! パパがいないのは残念だけれど、いろんなケーキやお菓子を見ることができて、自分で選んで買っていいなんて、なんて太っ腹なパパ。


 明日が断然楽しみになるのだった。

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