イザナミ ~見えないキモチ~
一週間ぶりに自宅のマンションに戻った紫電を出迎えたのは、暗闇に包まれた部屋ではなく、明かりのついた部屋と可憐な少女だった。
「おかえりなさい、食事にしますか?」
「……なぜ貴様がここにいる?」
慣れない状況に眩暈がするのをこらえて、紫電は理不尽な問いを投げかける。
「だって、ここに住んでいいって……一週間以上前に言われたから」
「……そうだった」
紫電はこの少女が苦手だ。
何もかもを見透かすような漆黒の瞳、幼さを残しつつも理知的なふるまい。天は彼女に何物を与えれば気が済むのだろうか。
「気分、悪そうだね」
紫電の顔を覗き込むなり、彼女はそう言った。
こういうところが苦手なんだ、と胸の内で毒づきながら
「……ああ、史上最高に気分が悪い」
とだけ返事をした。
「ふうん……お仕事で?」
「もう分かっているんだろう?」
「うん、大体は。でも、聞かなきゃわからないこともあるから。それに言葉にして吐き出すと、気分もいくらか楽になるよ。私でよければ聞くから」
優しい笑顔を作る彼女に対して、紫電は仏頂面だ。
「俺を懐柔しても得られるものはない」
「女心が分からないかなあ……」
「俺の仕事には必要がない」
「もしかしたら、年頃の女の子に近づいて暗殺するミッションが出されるかもよ?」
そんなのがあるわけないだろうと思ったが、彼女が口にすると本当にそんなミッションが起こりそうな気がしてきた。
「赤石市のことは知ってる。……辛いお仕事だったね」
「……辛い?」
紫電にはこの感情が分からない。ひたすら人を殺すために自分の感情も殺して生きてきた。喜怒哀楽が完全にないわけではないが、自分が今どんな感情であるかを認識する能力はあまりない。そうなるように育てられた。
「あなたの表情を見ているとね、辛いって顔してる。どんなことがあって、具体的に何が辛いの? なんてことは聞かない。きっとあなたは言いたくないよね」
「そう、だな……俺は今、辛いのか……?」
「私から見ると、辛そうに見えるよ」
「そうか。じゃあ、そうなんだろうな……」
紫電はリビングの椅子に腰を下ろした。うつむいて、床を見る。埃一つない。
「泣きたいときは泣いていいんだよ。笑いたいときは笑えばいいんだよ」
そっとイザナミは紫電の手を握った。
「自分を殺さないで」
それでも感情が麻痺しているせいか、涙は出なかった。涙は出なかったが、言葉にしようのない感覚が紫電を包み込んでいた。
こんばんは、星見です。
ジングルベルの方もシングルベルの方も、メリークリスマス!
私は後者です。
さて、今年の更新はたぶんこれが最後になるかと思います。
明日帰省して、年末年始を実家でのんびり?過ごす予定です。
では、皆さま、良いお年を!
そして、来年もよろしくお願いします。
イザナミというキャラを増やしたおかげで原作の面影がどんどん消えて行っています。この子はどこまで物語を引っ掻き回すのか(笑)