命の価値は
人の命は軽い。
紙切れよりも軽い。
一粒の塩よりも軽い。
一般人の人生をどう踏みにじろうと、それは我々の勝手だ。夢を潰そうが、仕事を潰そうが、家庭を潰そうが、知ったことではない。むしろ、下民は我々の壮大な実験にモルモットとして使われることに感謝すべきなのだ。
それがドクターの持論だった。
いや、ドクターだけではない。
この国に巣食う権力者たちの持論だ。
「財力も教養もない愚民どもが増えすぎた……増えすぎたゴミは掃除しなければならない。駆除しなければならない。我ら世界人口調節協会はそのために存在する。我らは愚民どもを差別しない。老若男女、貴賤……その他の要素を考慮しない。皆、平等に殺してやろう。愚民どもに安息の死を与えてやろう」
薄暗い研究所の一室にベッドが用意されている。
ドクターは一本の注射をもって、そこに近づいた。
ベッドには縛り付けられた若い男がいる。必死にもがいて脱出しようとしていた。
「被験体ナンバー五十四号、か。コレはどんな反応を示すかな?」
ドクターはニタリとした笑みを浮かべて、若い男の左肩に注射を打つ。
若い男はすぐに声にならない声をあげて、悶絶を始めた。顔が熱で真っ赤に染まる。五分も経たないうちに嘔吐を始めた。
その様子をドクターは興味深く観察している。
「死亡まで五十一分か……これでは早すぎる。もっと長く潜伏期間がないと、いかんな……」
若い男の死体を踏みつけて
「ふん、役に立たない実験体だった。せめて、私の役に立つデータを残してから死んでもらいたいものだね。まったく、愚民どもはこれだから……」
と呟く。
「次の被験体を連れてくるんだ。何号でもいい」
ドクターの声は死神の声に等しい。
白衣を着た若い男が次の被験体、老齢の女を連れてきた。
「ふむ、老婆で試すのもいい。君、ロットナンバーKをここに」
助手と思しき白衣の若い男は頷いて、一本の注射をドクターに手渡す。
「さて……君はどんな反応、データをくれるのかな?」
注射を手に不気味に笑うドクターの姿を見た老婆は数秒後に、獣のような咆哮を挙げて床をのたうち回っていた。
「ははははは! いいぞいいぞ、これぞ実験の醍醐味! 科学者たるもの、こうでなくてはな! あはははは」
狂ったような笑い声が研究所内に響く。
身体中に紫色の発疹ができた老婆は怨恨の眼差しを彼に向けたが、彼は涼しげな表情をしていた。
「なんだね? 恨むなら下民となったことを恨みたまえ。お前たちの命など、一円の価値もないことくらい分からなかったのかね? 人間は平等じゃないのだよ。支配者と家畜がいるだけだ。我々はお前たちに知識を与え、食事を与え、家を与え……この国で生きるという権利を与えた。それはお前たちが我々の実験に役立つサンプルであるからだ。その価値がないのなら、生きている意味はない。いいかね?」
狂気に満ちた瞳が初めて現れる。
「お前たちを生かすも殺すも我々の自由なのだよ。家畜とはそういうものだ」
「天罰が……」
老婆が呻くように言う。
「天罰? ククク……面白い。神や仏がいるというなら、今の私を罰してみたまえ。罰せられまい? いいかね、愚物ども。家畜に神は、いないんだよ!」
悍ましい声が上がる。
その声の主を見ながら、彼は嗤っていた。
こんばんは、星見です。
命は軽い、というのは私の感じていることです。決して気分のいい言葉ではないですが、人道的ではないですが……
今回は久々のドクター回です。ドクター、実は世界人口調節協会に入っていました。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




