イザナミ ~当たり前だった日常風景~
「……美味い」
紫電が彼女の作った夕食を口に運んだ最初の一言がこれだ。豪華客船の世界中から集めた最高級料理でも美味と感じなかった紫電にそう言わしめた彼女の料理の腕は想像を絶するものだった。
いや、そればかりではない。情報収集能力は言わずもがな、家事全般に秀でている。容姿はといえば、女性特有の綺麗さと少女特有の可愛さが入り混じった美しさをもつ。
「そ? 良かった」
彼女は少しずつ感情を見せるようになった。
「俺は貴様を何と呼べば良い?」
「イザナミって呼んで」
「本名は?」
「……今はまだ言えない。でも、イザナミは本名の一部だから」
まだ紫電はこの少女がスパイという線を捨ててはいない。だが、この少女の前では並みのセキュリティなど何の意味もなさないことは既に分かった。だから、できる対策は限られていることは知りつつも、できる限り情報を渡さないようにしている。
「明日にでも調べてみるか……」
と独り言ちて、紫電は食事に集中し始めた。イザナミはその姿を横から嬉しそうに眺めている。
こんな穏やかな時間は本当に久しぶりだった。何年ぶりかさえも忘れるくらい久しぶりだった。誰かがそばにいて、誰かとともに食事をし、他愛のない会話をする。当たり前であることのありがたさはその当たり前を失ってから気付く。
俺にまだこんな感情があったとは。
声に出さず、紫電は思う。
殺し屋稼業に手を染めた人間がこんな幸せな時間を享受してもいいのだろうか、と。
こんばんは、星見です。
風邪をひいてしまい、3日半ほど寝込んでいました。たまにはこんな日もいいもんですね(休むという意味で)
序盤から原作と大分違ってきています。どうなるのでしょうか……
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……