月下の邂逅
撤退を始めようとした紫電の左頬を銃弾が切り裂いた。
「なぜ避けなかった?」
野太い声の主は宵闇の中から姿を現す。
筋骨隆々とした肉体と義手になった右腕、そしてそこに装備されているグレネードランチャーから、紫電は瞬時にその男が只者ではないことを見抜いた。
「避けるも何も……貴様は俺に当てる気がなかったろう」
「そこまで見抜くか。さすがは悪名高き死神というべきか」
武装を紫電に向けるソフトモヒカンの大柄な男は
「復讐を受け入れろ」
と静かに言った。声こそ大きくないが、その声音には様々な感情がにじみ出ている。
怒りの感情が一番強い。
「確かに貴様は俺に復讐する権利がある」
紫電はすぐに戦闘態勢に入る。この男から逃げ切るのは面倒だと判断したからだ。
男の背にはいまだに鮮血を浴びたように真っ赤に燃える街並みが広がっている。
いかつい顔に装着しているサングラスから視線は見えない。
「じゃあ、その権利を今、行使させてもらおうか」
軍用ブーツが地面を踏みしめる。
迷彩色の軍用パンツも着用していることを見ると、野戦を想定しているな、と紫電は考えた。
「一つ聞く。貴様は軍の出身者か?」
「元、がつくけどな」
「そうか。名を聞いておこう」
男は
「紅蓮。本当の名は捨てた」
と返す。
「……奇遇だな」
俺も同じだ、と紫電は言わなかった。
「一つ言っておく。本気を出せ。さもなくば、俺の命を獲ることはできん」
「言われるまでもない。全力で叩き潰す!」
無表情なままの紫電は静かに、しかし宣言するようにはっきりと男に死へ誘う言葉を突きつけた。これは彼が本気を出すときのスイッチでもある。
「我こそ死神イザナギの剣。破滅の刃、汝を冥府へと誘わん」
青白い月だけが二人の行方を見守っている。
こんばんは、星見です。
やっとやっと、あの男が登場です。サブキャラなんですけどね……本編とは結構違う立ち位置でして。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……