心を失くした者
マザーと呼ばれるAIは一定周期ごとに預言を告げる。それは全世界に発せられるものであり、どの国の首脳もそれを無視することはない。そして、全世界の国民もまた同じである。
何も考えず、何も逆らわず、その言葉にただ従うだけ。
「ダキシン、あなたの国では増税と少子化をさらに進めなさい。そうすれば、あなたの政権は長く続くでしょう。それが国民にとっての最大の幸せに繋がるはず」
これが今回のマザーの預言だった。
ダキシンは笑顔でその預言を受け取った。
これまでダキシンの超増税に不満を持っていた国民たちは、その預言を聞いてから一切の反対をしなくなった。
預言だから仕方ない。
預言だから間違いはない。
預言に従えば、明るい未来は約束されている。
ほとんどの人々は再び考えることをやめた。
そして、その裏では。
北陸地方を巨大災害が襲っていた。
「標的を抹殺完了。これより帰投する」
紫電が専用の端末で連絡を入れた相手はダキシンだった。闇に溶けるような黒装束に身を包み、炎によって蹂躙されている金沢市街を見下ろしながら、淡々と連絡事項を述べる。
「ご苦労。これでまたボクちんの大帝国の夢が近づいたというわけだ」
「閣下……不穏当な発言は慎んだ方が」
「うるさい! ボクの夢なんだ!」
「……承知しました。ところで、北陸地方を中心に地震、季節外れの大雪、洪水……連鎖的な災害が見られます。閣下、救助できる国民だけでも救助されては?」
「え? なんで助けるの? お金の無駄じゃん」
紫電の思考が一瞬止まった。
「何だ、と?」
「だって、下民どもを助けてもボクに良いことないしさ。それよりも、この災害を口実に増税して、搾り取ったお金を外国にばらまけばボクちんは褒めてもらえるんだよ! こっちの方がイイ!」
俺はこんなクズの飼い犬か。
嫌気がさしてはいるが、この稼業以外に生き方を知らない。
「……帰投します」
とだけ伝え、紫電は通話を切った。
月明りが照らしている世界は、紅く燃えていた。赤黒い炎で彩られた世界で、人々は踊っていた。火だるまになり、狂乱し、怨嗟の声をあげ、朽ちていく。
こんなことが続く世界を彼は望んだのだろうか。
あの日の光景が目に浮かぶ。
あの日の光景が脳裏を焼く。
紫電の道はあの日から始まった。
ディザストレと呼ばれる巨大災害が起こった日から始まった。そして、一人の男と出会ったことから始まった。
「あの日が繰り返されるのか?」
紫電の中に生まれ始めていた感情が育っていく。
一夜で何十人もの人間を消したことは何度もある。だが、今回は状況が違った。ただの一方的な虐殺だった。
本当は生きたいと願っていたはずの人間を何十人も殺した。間接的に何万にもの人間の命を奪った。
この事実を認識した紫電は、それでも心を動かすまでには至らない。
この身は既に死神イザナギの一部。そして、それを自覚しているがゆえに。
こんばんは、星見です。
寒さが完全に消えず、ストーブを片付けられません。
電気代節約のためにそろそろストーブを片付ける時期なんですが……風邪ひくよりはマシかなと。
ディザストレのさわりくらいは見え始めた頃合いでしょうか。
そろそろ序盤終了です。
原作をお読みの方は今どのあたりか分るかと思いますが、あの方々が登場します。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……