幕間:悪魔の証明
Interlude in
「ダキシン=オフミを出せ」
一本の電話が首相官邸に入った。秘書官は訝しがり、名前を明かせと述べたが
「世界人口調節協会。そういえばわかるはずだ」
という返事が戻ってくる。高めの若い男の声だ。
「消されたくなければ取り次げ。秘書官ごときを始末することなど造作もない。最後の警告だ。ダキシンを出せ。貴様の飼い主の、ボンクラをな」
その声に気圧された秘書官は言われたとおりに、ダキシンに取り次いだ。
「私は宇宙一の政治家にして、生ける伝説のダキシン=オフミだ。世界人口調節協会とはあまり連絡を取っていないが……貴様は何者だ?」
「お前に知らせることではない。ただのエージェントだ」
「私と会話したければ、トップを出し、名前を明かせ! 下民風情が私の時間を割くことは万死に値するぞ!」
「……よくそこまで無知で、傲慢になれたものだ。痴呆症になるには早すぎるんじゃないか。朝から飲んでいるワインが回りすぎて、頭のネジが千本以上外れているのか。貴様の官邸にはロマネコンティが八十七本程度しか貯蔵されていないはずだが」
さらりと述べられた情報にダキシンは固まった。
「我がワイン蔵の状況を知っているだと……貴様、秘書官の誰かか?」
「お前のような阿呆の下で働くほど酔狂じゃない。お前の今日の予定を今から言ってやろうか? 十時から政府高官裏金事件に関する記者会見を十五分、その後十二時までは予定なし。十二時からは赤坂の焼き肉屋で二階堂幹事長ら幹部と会食。そこから二十時までは飲み直しの時間。二十時からはバラエティ番組、ダキシン★スペース大納言に出演」
「……貴様、どこで知った?」
「お前の情報など調べようと思えば、いくらでも調べられる。……分かるな? つまり、我々はいつでもお前を殺すことができる……ということを」
ダキシンはごくり、と唾を飲み込んだ。
「だが、お前のような愚物を消したところで何の意味もない。大方、お前は経団連か財務省あたりの操り人形だろう? 裏金問題の火消しでも忙しいようだしな。そこで、だ。我々がお前を助けてやろうという話だ」
「……何だと? この銀河の英雄をか?」
「銀河級のバカを助けるのだから、それなりの見返りは求めるが……そうだな、我が組織の傘下に入り、日本の金を横流ししてもらおうか。いかにお前が無能でもそれくらいはできるだろう」
「思い出したぞ! 世界人口調節協会! 確か、増えすぎた人口を消すためのアサシン組織!」
「平和ボケも大概にしておけよ、ダキシン。我々は暗殺組織ではない。盟主の名前を憶えていないことくらいは織り込み済みだが、そこまで記憶力がないとはな……。まあいい。貴様がバカでも助けてやろう。明日の午前零時に北陸地方で地震を起こす。マグニチュードは七・五。具体的な場所は石川県金沢市。五十万人以上の死者が出るだろう」
淡々と述べる若い男の声をダキシンはただ聞いているだけだ。自分に実害がないのなら、下民がいくら死のうが知ったことではない。
「マスコミに金を握らせ、この人工災害の報道をさせろ。無論、これが人工災害ということをばらせば、お前の命はない。……これで、お前の裏金騒動やお前のやっている愚策諸々から国民の目をそらせる。一か月程度は時間が稼げるはずだ。そのうちに対策をしろ。……この地震を確認した後で構わない。インディゴ共和国に二千五百億円の支援金を送れ。その金は我々の手に入る。これでお前は政権の維持を、我々は資金と協力を得られる。利害は一致していると思わないか?」
「うーん……難しすぎて分からないよお……」
「……ここまでのバカが首相の国がよく維持できているものだ。国民どもが哀れになってきた。まあいい。お前は言われたことを言われたようにやれ。拒否権はない。お前にとって大事なのは首相の座であり、権力なのだろう? 国民がどれだけ死のうとも心が痛みはしまい?」
「そ、そうだ。私の国だ。増税すればいいだけの話だ!」
「やれやれ……増税しすぎても国民が死に、納税者が激減するぞ。社会科のお勉強はちゃんとしたのか? していないのだろうな」
エージェントと名乗った青年はそこで電話を切った。
人類は増えすぎた。
増えすぎた人類は削減しなくてはならない。
彼らは老若男女、社会的地位、経済的地位などの貴賤を差別しない。皆、平等に殺す。
「ククク……気付いていたか? 貴様の国とやらは実験のために造られた、傀儡ということを」
青年は愚者を嗤う。
悪鬼羅刹が覇権を握るこの世界を。そして、それを知らない大勢の人間を。
Interlude out
こんばんは、星見です。
多忙な日々で更新が遅れてしまいました。
ヘブバンをやりすぎて……とはとてもじゃないけど、言えません(苦笑)
さて、出てきました。『世界人口調節協会』
どこかでこの組織は出そうと思っていたのですが、ついに登場です。
オリジナルと乖離している?
今更ですので、このまま突っ走ります。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……