イザナミからの依頼Ⅱ
イザナミからの説明を簡単にまとめると、彼女が通う東京都立黎明高校の生徒が小石川線で多数、痴漢の被害に遭っているらしい。警察も動いているが、数か月かかっても犯人が捕まらず手を焼いているということだった。
「スーツ姿も似合うね」
ブレザー姿で隣を歩くイザナミは紫電を見上げて、笑顔でそう言った。
「俺のスーツ姿以外を見たことが……あるんだろうな、きっと」
頷いて、彼女は微笑む。
「あ、友達に会ったらなんて紹介すればいいかなあ……お兄ちゃん、従兄弟……」
「適当に護衛とでも言っておけ」
「絶対ダメ!」
「……」
逆らえそうにない口調だった。彼女は意外と頑固だ。
「……彼氏もいいかも」
「年の差を考えろ」
「十歳程度は全然問題ないよ」
「……俺はロリコンではない」
「女子高生はロリータに入りません。もう大人です」
「……好きにしてくれ」
喪服のような黒いスーツ姿の紫電はそれだけ返事してうなだれた。この娘と口論しても無駄だと改めて理解した。彼女の知的水準は標準的な高校生のそれを何十倍も上回っている。
紫電はイザナミと共に小石川線後楽園駅から電車に乗り込んだ。朝の通勤ラッシュではすし詰めにされる。人ごみが嫌いな紫電はそれだけで顔をしかめた。
「ほらほら、いつもの顔しようよ。イケメンが台無しだよ?」
「この状態で目標を始末しろなどという依頼がなければな」
「始末しちゃダメだってば!」
しばらく電車に揺られていると、イザナミの友達と思しき女子たちが乗ってきた。その一人、ツインテールをした女子がイザナミに元気に話しかける。
「おはよー、ナミっち」
「あ、ルカちゃん。おはよ!」
「その……隣にいる人は?」
イザナミは微笑んで
「彼氏!」
と元気よく答えた。紫電がしかめっ面になったのは言うまでもない。
「ええー! すっごいイケメンさんじゃん。いいなぁ、ナミっち美人で頭もいいから、年上のイケメンさんにももてるのかなあ?」
「そんなことないよ! 私から告白したもの」
「ナミちゃんから? 全校の男子たちから集団で襲われるよ、そのイケメンさん」
どれだけ過激なファンをこの短期間で作ったんだ、と紫電は頭を抱えている。その連中が紫電の家にでも突撃しようものなら、全員が粛清対象になって、数日と経たずに消されることだろう。
「やはりどこまでも厄介な存在だ」
小さい声でぼやいたはずだが、紫電の履いている革靴が踏みつけられた。イザナミは女子トークをしながら、器用にローファーで紫電の靴を踏みつけている。
「……暗殺者向きか」
と続けて小さい声でぼやいた。もはや彼女は何者にでもなれそうだ。
しばらくイザナミはガールズトークを続けていた。学校の話題から恋愛の話題、噂話、コスメと終わる気配がまったくない。
よくもまあこれだけ話すことがあるものだと紫電が呆れていると、奇妙な気配を察知した。十中八九、標的だろうと確信する。
欲望にまみれた手が伸び始めた。
こんにちは、星見です。
予約投稿なので、今の私は仕事をしているはずです。
こういう日常パート?を描いてみたくて描きました。
彼らの日常はこんなものかと思っていただければ嬉しいです。
殺伐とした日常ですが(笑)
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……