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六章 暴食は我が身を壊す

 次の日も、悠の体調がよろしくなかった。ベッドから起き上がれず、学校に行く直前までトイレに籠りきりで、なぜなのか暁は何となく察していた。

「無理しなくていいよ?」

「ううん……行く……」

 兄が困ったように言うが、妹は聞く気がないらしい。仕方ないとポーチをカバンに入れ、いつもより寄り添いながら学校に登校した。

 授業中、チャットが届き、見ると悠が怪盗団メンバーのチャットに送っていた。珍しいと思いながら見てみると、

『にいさん、おなかいたい』

 ひらがなでそう届いていた。どうやら個人用と勘違いしてこっちに送ってしまっているようだ。

『腹?どうした?』

『大丈夫?』

『何か変なものでも食べたか?』

『ちゃんと食べてる?』

 案の定、ほかの人から反応が来る。そんな中、暁が冷静に対応した。

『昼休みまで持ちそう?』

『たぶん……』

『だったら、昼休みになったらすぐ行くからね。何かあったらすぐ言って。女子トイレ……は悠、一応男で通してるから使えないし……仕方ない、一階の男子トイレ使おう。そこまで動ける?』

『うん……』

『それから、温かい飲み物飲もうか。ある程度軽くなると思うし』

『何々?どーした?』

 この時点で杏はすでに察したため、何も言及してこなかった。優士も『なるほど……』と理解したらしい。

『え、どういう意味かしら?』

 唯一悠の性別を知らない美佳が尋ねてくる。暁が『あぁ、昨日の悠の姿、見てなかったのか。悠は、本当は女だ』と答えた。

『あ、女の子……なるほど……ごめんなさい、不躾に聞いて』

 それで美佳も理解したらしい、これ以上は聞いてこなかった。

『ホントになんなんだ?』

 唯一、理解していない信一が聞いてくる。それに杏が呆れたように答えた。

『「女の子の日」って分からない?』

『……あ』

『とりあえず、薬は持っていくね』

『ありがと……』

 そう、いくら男装しているといっても女性である以上、ほとんどの女性が月に一度は来るあれの日があるのだ。

 暁は悠のために生理用品を一式持っている。これはシスコンとか関係なく、ちゃんとした理由がある。

 悠は人前では話せず、頼み事もなかなかできない。そうなるとこういう時、困ってしまう。しかも言霊の力はこういう時こそ不安定になるのだ。だから暁は一式持つようにしている。最初はさすがの暁も恥ずかしかったが、妹のためと思っているうちに羞恥心などどこかに消えてしまった。

『あ、ごめ、いたみが』

『ちょ、大丈夫かよ!?さ、さすがにセンコーに言うぞ!?』

 どうやらかなりひどいようだ。小さなため息をつきながら暁が手を上げ、

「すみません、ちょっと体調が悪くて……」

 そう言って、教室から出た。

 廊下で悠と信一と合流し、一階まで向かう。そして信一が教室に戻ると、昼休みになるまで保健室で休んだ。


「うぅ……ごめんなさい……」

 放課後、公園で集まる。暁と悠はすでに来ており、悠はベンチに座っていた。「大丈夫だよ」と杏が困ったように笑う。こればかりは生理現象であり、どうしようもできないのだ。

「それにしても……悠、女の子だったのね……先生から男の子と聞いていたから勘違いしていたわ」

「いや、実際それで通しているから仕方ない。それに、多分昨日、言霊が暴走したからさらにひどかったんだと思う」

 なるほど、と理解する。悠の身体にかなりの負担がかかったのだろう。

「今日はデザイアに入るの、やめる?」

「ううん、大丈夫だよ」

 痛みはある程度引いてるし、と悠は笑いかける。わずかに顔色が悪いが、ここで指摘しても聞きはしないだろう。

「分かった、でも無理はしないようにね」

 兄の言葉にうなずくと、「本当にいいのか?アキラ」とロディが心配そうに聞いてきた。

「悠は一度言い出したら、基本聞かないからね。オレがちゃんと見ていたらいいだろ」

 それに悠の性格上、一人で行くと言いかねない。そうなるより一緒に入った方がいいということらしい。

「それに、悠の力が狙われているとなるとオレの方も見逃すわけにはいかない。悠が動けるんだったら、それに越したことはないかな」

「なるほどな……」

「……気になっていたのだけど、暁と悠って双子なのよね?」

 その様子を見ていた美佳が尋ねてきた。優士が指でフレームを作りながら「あぁ、造形も男女の違い以外、ほぼ一緒だな」と答えた。

「二人、お互いの考えてることとか分かっている気がするのよね。なんていうのかしら……本当の「半身」みたいな……」

 それに双子は目を丸くする。

「え?」

「分かるよ?」

「……え?」

「離れてても分かるよな?」

「うん。悲しんでるなぁ、とか、いいことあったんだなぁ、とか。普通に分かるよね、離れてても」

 それを聞いて、今度はほかの人達が目を丸くする番だった。双子は首を傾げながら「これが普通じゃないの?」と聞いてきた。

「……どう考えても普通じゃないわ。いくら双子と言っても、そこまで分かることはない。でも、嘘を言っているとも思えないのよね……」

「実際、分かってるからな」

「むしろ驚いてるよね」

 美佳の言葉も、やはり意味が分かっていないようだ。マリアンはハッと気付く。

「ねぇ、あなた達、成雲家の血筋なのよね?あの、異世界で生まれた守り神の血族の……」

「そうだね」

「もしかしたら、それも関係あるんじゃないかしら?」

 その言葉に、妙に納得してしまった。何せ異世界やら言霊やらがあるぐらいなのだ、むしろあの世界と密接に関わっているであろう成雲家の血に秘密があるのは当然だ。

「あ、ありそー……」

「確かに、いくら血が繋がってるとはいえお互いの理解力が尋常じゃないもん……」

 初期からいた信一と杏が苦笑いを浮かべた。あの異常さはかなりのものだった。

「オレ達はそういうものだとしか認識してこなかったからな……」

「そうそう。……えっと、それで、そろそろ本題入ってもいい?」

 デザイアに入るなら、そろそろ時間が遅くなっているため早くしたいと悠は強引に話を切る。

「あ、ごめんなさい。そうね、私もいろいろ聞きたいから異世界に入りたいわ」

「それなら、入ってみようか」

 暁がそう言ってナビを開いた。

 銀行内に入ろうとしたその時、ジョーカーが「そういえば、生徒会長さんのコードネームはどうする?」と聞いてきた。

「コードネーム?」

「こっちでの呼び名だ。本名で呼び合うと現実でどんな影響が出るか分からないからな」

 ハシスが答えると、「それなら、皆が決めてほしいわ」と美佳がゆだねた。

「ジョーカー、いいコードネームある?」

 イシュタルの言葉にジョーカーは考え、

「……エア、なんてどう?確か、水神だったはずだけど」

「いいわね、気に入ったわ」

 本人に気に入ってもらえたようで、それで行くことになった。

 侵入すると、エネミーがいることに気付く。クラウンがエネミーの仮面をはがすと、四体の実体が出てきた。

「弱点は……風呪文と水呪文みたいだね。ディーアとマリー、風呪文を」

 ジョーカーが即座に分析し、そう指示を出す。二人が風呪文を放つと、エネミーは消えていった。

「まぁ、こんな感じで戦いながらオタカラのルートを作っていくんだ」

 クラウンが説明すると、「分かったわ」とエアは頷いた。

 それから、大きな扉のところまで何とか向かう。

「ジョーカー、大丈夫?」

 近くの安全地帯に入り、クラウンが尋ねる。ジョーカーは「……ちょっときついかも」と素直に答える。

「それなら、一度立て直すか」

「そうね、無理するのもよくないもの」

 現実に戻ってくると、既に遅い時間になっていた。

「送っていこうか?」

 暁が杏や美佳に聞くと、二人は「大丈夫」と笑った。

「それに、その状態の悠を連れまわすのも罪悪感あるし」

「そうか。じゃあ、オレ達は帰るからな」

 帰ろう、と声を掛けられ、悠は頷きその腕を掴む。

 デスティーノに戻ると、チャットが届いていた。

『悠、大丈夫?』

 怪盗団のチャット経由で、美佳からだ。

『うん、大丈夫。生徒会長さん』

『そう、それならよかった』

『無理しないようにね。明日も行けそうだったらでいいから』

『うん、ありがとう、杏ちゃん』

『そうそう!お前が倒れたら大変だからな』

『そうだな。リーダーがまとめてくれるからこそ成り立っているのだから』

 そんなチャットの送りあいをして、シャワーを浴びた後に横になった。

「悠、今日は薬飲んでもう寝なよ。水、持ってくるから」

「うん、ありがとう、兄さん」

「ロディとマリアンもそばにいてやって」

 暁が階段を降りると、ロディとマリアンは悠に体温を分けるように寄り添った。

「あったかい……」

「顔色悪いが、大丈夫かよ?」

「女の子だと仕方ないんだよ。生理現象ってやつだから」

 悠がロディを撫でる。ロディとマリアンには、生理現象という意味が分からなかった。

「どういう意味?怪我、じゃないの?」

「あぁ、女の子はね……」

 二匹に保健の授業をしていると、暁が「持ってきたよ」と上がってきた。

「ありがとう」

「いいって。……本当は母さんがいてくれた方がいいんだろうけどね……」

「しょうがないよ」

 二人が話していると、ロディが「アキラは、子供産めないのか?」と爆弾発言を落としてきた。

「こ……!?い、いきなり何言ってんだ?」

「あー……さっきまで、その話してたの……二人とも知らなかったみたいで」

 なるほど……と暁は納得する。純粋な子供のようなものだ。

「まぁ、そうだな……男だから、オレは産めない」

「どうやって子供って生まれるの?」

 誰か助けてくれ。

 その心の叫びは届くことなくこの日、興味津々で目を輝かせるネコ達の性教育に徹する双子がいたという。


 次の日、喜村に呼ばれ二人は保健室に向かった。

「じゃあ、今回は……心の痛みについて、とかどうかな?」

 心の痛み……興味深い内容だ。聞いてみると、その通りかもしれないと思った。

「ごめんね、小難しい話して」

「いえ、興味深い話だったのでつい聞いちゃいました」

 暁が答えると同時に、保健室に誰かが入ってきた。

「あ、すみません。先客がいたんですね」

「大丈夫だよ、幸山さん」

「オレ達はそろそろ出るから」

「うん。また今度ね、二人とも。幸山さんは今日どんな用件で?」

「ちょっと相談が……」

 暁と悠が立ち上がり、保健室から出る直前、そんな会話が聞こえてきた。

 ――なんだろう、この、違和感……。

 幸山……それに、喜村……あの二人、知り合い?数か月前に、高校入学前の女の子が事故にあった……。

「どうしたの?悠」

「あ……何でもないよ。ごめんね、兄さん」

 いつの間にか立ち止まっていたらしい、慌てて兄の背中を追いかけた。

「最近考え事多いね。なんかあった?」

「ううん。大丈夫」

 兄が違和感を覚えていない、それならやはり気のせいなのだ。

『本当に、そう思うの?』

 心の中から、プシュケがそう言ってきた気がした。

 そのあと、悠が忘れ物をしたからと教室に戻っていると、上山がめんどくさそうな教師に捕まっていた。顔を見合わせ、話を聞こうと悠が近付く。

「いや、だから……」

「怪しいわ、毎回定時になると真っ先に帰るなんて」

「あの、すみません、上山先生。実は授業で分からないことがあって……宮野先生を探しても見つからないので、教えてくれませんか?」

 悠がとっさに嘘をついた。上山は一瞬目を丸くしたが、「あー!そうだったの。お兄さんに似て勉強熱心ね」と乗ってくれた。

 何やら誤解されたようだが、まぁ助け出すという意味ではよかっただろう。少し離れた教室に入ると、暁もすでにいた。

「なんだったんですか?あれ……」

 暁が尋ねると、「あの先生、日色先生の事件以来、ほか教師のことも探っているのよ……」と答えた。

「ありがとうね、悠ちゃん。暁君もありがとう」

「いえ、オレは何も……」

「……これ、私の連絡先。夜だったら空いてるから、いつでも連絡して」

 名刺を渡され、上山は去っていく。時間のあるときに連絡したらいいかと思い、暁がポケットに入れた。

「どうする?デザイアに入る?」

「ううん、時間も遅いし、明日にしよう?」

「じゃあ、たまには甘いものでも食べに行こうか」

「うん!ロディとマリアンも食べられるやつをね」

 ネコ達にも気遣う妹を見て、本当に純粋な笑顔を曇らせたくないと兄はカバンをギュッと握った。

 街に出ると、女子生徒が男に絡まれているのが見えた。もしかしたら金山のところの構成員かもしれない。

「……あの、彼女、怖がっていますが」

 悠が女子生徒の肩を優しく抱き、男のふりをしながら睨んだ。

「なんだぁ?こんのガキ……ただ道を教えてほしくて優しーく声をかけていただけじゃないか」

「……暁」

「あぁ。君、こっちおいで」

 女子生徒を兄に任せ、スマホを取り出す。

「それなら、警察を呼んでも構いませんよね。本当にただ道を聞いていただけなら、彼女が証言してくれるでしょう?」

「なっ……!警察なんて……!」

「やましいことがなければ、いいじゃないですか。ボクはただ、彼女があなたに絡まれていると思ったから呼ぶわけで、違うならそう言えばいい」

「くっ……!」

 警察を呼ばれたくないのか、男は逃げるように去っていく。悠が振り返り、「大丈夫ですか?」と問いかけた。

「あ、うん……」

「よかった。最近は物騒な人が多いから、気を付けるんだよ」

 それじゃ、と双子は目的のカフェに向かっていくのを、女子生徒は見送っていた。

「おいしい?悠」

「うん!ありがとう、兄さん!」

「アキラー、ワガハイもー」

「ユウ、私にも食べさせて!」

 数分後、カフェで幸せそうにケーキを頬張っている双子の姿があった。

 デスティーノに戻ろうとして、そう言えばあの紙袋のことをミリタリーショップの男性に聞いていないことを思い出した。

「……行ってみる?」

「……兄さんが大丈夫なら」

 なんの偶然か、それを持ってきていたのだ。タイミングがいいなら、構わないだろう。

 ミリタリーショップに向かうと、男性がこちらを見た。

「あぁ、お前らか……何の用だ?」

 その威圧に、怯んでしまいそうになるが、

「紙袋の中身を見ました」

 暁が勇気を出して告げると、「そうか……見ちまったか……」とさして困った様子も見せず、彼は客がいないことを確認して、

「……裏で話そうか、二人とも」

 双子を裏方に連れて行く。

「お前達、何が目的だ?」

 彼は二人をいぶかしげに見た。暁が「改造銃の腕に惚れたんです」と答えると「珍しいガキもいんだな」と笑われた。

「いや、子供ってのもいいか……」

「…………?」

 何を企んでいるのだろうか。彼は「俺のシゴト手伝え」と言ってきた。

「シゴト?」

「あぁ。手伝ってくれたら、改造銃、売ってやるよ」

 そう言われては断る理由もない。二人は顔を見合わせ、「……分かりました」と答えた。

「お、いいね。シゴトある時は呼びだす。俺は岩野 宗司だ」

 取引成立だ、という言葉とともに「吊るされた男」という言葉が浮かんだ。

 吊るされた男は十二番のカードで、正位置では「修行、忍耐、奉仕、努力、試練、着実、抑制、妥協」、逆位置では「徒労、痩せ我慢、投げやり、自暴自棄、欲望に負ける」になる。意味は「英知、慎重、試練、直感」だ。

 連絡先を交換し、デスティーノに戻った。勉強をしていると、突然「筋トレしよう」と暁が言い出す。

「あ、いいね。やろう」

「ちょ、ユウ、体調悪いんでしょう?」

「大丈夫、死にはしないから」

 マイペースすぎるでしょ……!

 急に脱ぎ始めたかと思うと、暁は半裸のまま、悠はさすがにジャージを着て、本当に筋トレを始めた。

「いやユウはアキラの格好に突っ込めよ!」

「え?兄さん、家でやる時はいつもこうだよ?お父さんとか知り合いもそうだし、いいのかなって」

 おい雨宮家と知人の男衆、お前ら末子に何見せてんだよ。

 そんなネコ達の心のツッコミは二人に届かなかった。


 次の日こそデザイアに入り、大きな扉の先に向かう。

「地図を見た限りだと……エレベーターを降りたら大きな金庫みたいな場所に出るみたいだね」

「それなら、頑張っていきましょう」

 マリーの言葉にうなずき、エネミーを倒しながら進んでいく。

 途中、ジョーカーが落ち着きなく周囲を見渡す様子が見られた。

「どうした?ジョーカー」

 それに気付いたアレスが尋ねると、「あ、えっと……」と言いにくそうに目をそらした。安全地帯に入って話を聞こうと探す。

 何とか見つけて、中に入り椅子に座らせる。

「それで、どうしたんだ?」

 ハシスが聞くと、「実は……」とジョーカーは話し出した。

 どうやら、金山の心の声が聞こえてきたらしい。最初は傲慢そのものの言葉が聞こえてきていたらしいので気にしなかったみたいだが、進んでいくにつれて弱気になっている声も聞こえてきて落ち着かなくなったらしい。

「ジョーカーもだったんだな。オレだけだと思って言わなかったよ」

「クラウンも?」

「あぁ。その様子だと、オレとジョーカー以外は聞こえていなかったみたいだな」

 ということは、おそらく守り神とやらの血のせいだろう。こんなところにまで影響があるとは。

「本当に謎の家系だな……」

「いったん戻るか?おそらく、あと一日でルート獲得できるぞ」

「……ううん、大丈夫」

「でも、集中できていないわよ。このまま続けるのは危険だと思うわ」

 エアにまで言われ、ジョーカーはようやく頷く。現実に戻り、解散しようとすると「こんな時にすまない」と優士が声をかけてきた。

「デスティーノに行きたいんだ」

「うん、大丈夫だよ。あそこから出たらちょっと落ち着いたから」

 優士をデスティーノに連れて行くと、彼はコトミが見える席に座った。悠がコーヒーを淹れて、暁がカレーを作って目の前に置いた。

 三人と二匹で食べ終えると、優士は本題を切り出した。

「最近、スランプ気味なんだ……」

「そうなのか?」

「あぁ……納得のいく絵が描けない……」

 そう相談され、双子は顔を見合わせる。

「それなら、手伝うよ」

「あぁ、優士の絵が見られなくなるのは嫌だからな」

 その言葉に優士は「本当か?」を二人を見る。頷くと、「ありがとう」と微笑んだ。

 頭に「皇帝」という言葉が浮かんだ。

 皇帝は四番目のカードで、正位置だと「支配、安定、成就・達成、男性的、権威、行動力、意思、責任感の強さ、軸」、逆位置だと「未熟、横暴、傲岸不遜、傲慢、身勝手、独断的、意志薄弱、無責任」になる。意味は「統治、堅固さ、防御、同盟」だ。

「今日のところは帰る。また相談させてくれ」

 優士が小さく笑って、寮に戻っていった。


 異世界には少し間をあけて入ろうと言われ、悠は何をするか考えていた。

「お、考えてんな」

「うん、ゆっくりしてもいいし、誰かと過ごしてもいいもんね……」

 信一と話していると、悠に「あ、あの……」と女子生徒が声をかけてきた。

「?」

 仲間達以外とはまだ話せないため、首を傾げると彼女は「こ、この前はありがとう」とお礼を言ってきた。

『この前?』

「ほら、男の人に絡まれてた時……お兄さんと、一緒に……お礼、言ってなかったなって」

 どれだろう……?と記憶をさかのぼっていく。……正直、最近は何度かそんな現場に立ち合っているせいでどれのことか分からない。そしてどれも双子にとっては当たり前のことだ。そしてそのせいで兄が前歴持ちになってしまい、お礼も皮肉じみたものになっていた。

「あ、もしかして……ぼ、ボク、あなたに何かやっちゃった……?だ、だとしたら、ご、ごめんなさい!に、兄さんを、責めないで……」

 結果、自分に自信の持てなくなっている悠は斜め上どころか天井を突き抜けるほどの解釈をしてしまった。

「ち、違うよ。ただ本当に困ってたから助けてくれて感謝してるよ」

「そ、そんなわけない……だって……」

「悠、ただ礼を言ってるだけだって。素直に受け取っておけって」

 変な疑りをしてしまう悠に信一は声をかけた。悠は「……信一君が言うなら……」と納得していないようだったが、その場はいったん収まった。

 何かおかしいと思った女子生徒は放課後、信一と杏に声をかけた。

「あ、あの」

「あ?あぁ、あんた、昼休み悠に声かけてた……」

「どしたの?」

 自分達が声をかけられている理由が分からず、二人は首を傾げる。彼女はそのまま聞いてきた。

「あー……あいつなぁ……」

「他人を信用出来ないんだよね、あの子。身内に入れた人になら優しいし、素直に受け取ってくれるんだけど」

 返ってきた答えはそれだった。

「あんたはどうせ信じねぇだろうけど、あいつの兄貴の前歴は冤罪だと。俺達もそれは信じてるし、そもそもんなことやる奴とも思ってねぇ」

「その関係で、結構傷ついててね。他人の好意は受け付けないんだよ、あの子」

 そう言われ、女子生徒はあの日のことを思い出していた。

 周囲に人はたくさんいたのに、誰も助けてくれなかった。そんな中、二人だけが自分を助けてくれた。

 そこでハッとなる。もしかして、暁の前歴って……。

「ま、あんたらがあいつらをどう思っていようと、俺らはあいつらのダチだけどな」

「それだけ?じゃあ、私達用事があるから」

 二人が立ち去る。女子生徒はうつむいて、自分のしてきたことを後悔していた。

 悠と暁がちょっと散歩に出ていると、優士から連絡が来た。

「ちょっと行こうか」

「そうだね」

 二人は優士がいると連絡のあった場所に向かう。

「あぁ、すまない。わざわざ来てもらって」

「大丈夫。何もすることなかったし」

「そうか。なら、少し付き合ってくれ」

 三人で歩き出すその姿を遠くで見ている人がいた。


 次の日、読書をしていると、

「なぁ、悠君」

 突然、男子生徒に声をかけられてそちらを見た。

「昨日のあの男の子、誰なの?」

 昨日……?と振り返り、優士のことかと気付く。

 しかし、彼にそのことを答える義務は一切ないため、そのまま読書を続けた。

「結構仲良さそうだったけど?」

 うるさいな……なんて思いながら、悠は無視を決め込む。噂ですでに下がるところまで下がっているのだ、今更気にしない。

「ねぇ、教えてよ。……彼とは、普通に会話していたじゃん」

 そこまで聞こえていたのか……まぁ、でも無視だ、無視……こういう奴は、一度構うと調子に乗るから対応してはいけない。

「おい、あんまこいつに絡むなよ」

 それを見かねた信一が睨みながら男子生徒に告げた。

「なんだよ……村雨……」

「こいつはめったに話せないって、転校してきたときに先生から言われてたろ。あんま絡むと、兄貴にチクるぜ」

「ちっ……」

 悔しそうにしながら去っていく男子生徒を見て、悠は『ごめんね……』と紙に書いて謝った。

「だいじょーぶだって。悠も大変だろ」

『まぁ、そうだね。いつもは兄さんがいたからどうにかなってたけど……』

「教室にいる時は俺が代わりに守ってやんよ。そう不安がるな」

『うん、ありがと』

 悠が微笑みかけると信一は頬を染めて「べ、別に、ダチだからな……」と呟いた。

 放課後、悠が暁と一緒に帰ろうと準備していると昨日の女子生徒が近付いてきた。

「あ、あの……」

「?」

「その……ちょっと話さない?」

 急な誘いに悠は疑いの目を向ける。それも仕方ないと彼女は思った。

 実はこの女子生徒、双子の悪口をずいぶん言っていたのだ。もちろん、本人達も知っていたため、近付かないようにしていた。

「本当に、少しだけだから。お願い」

 悠からすれば、信頼出来る人ではない。信一や杏のような人の方が 信頼に値する。

「ユウ、少しは話聞いてもいいと思うわよ」

 マリアンに言われ、小さく頷く。彼女は「その……中庭、行こう」と歩き出した。

 中庭に来ると、女子生徒はいきなり頭を下げてきた。

「ご、ごめんなさい!」

「……え……?」

 もちろん、そんなことをされる理由が分からない。停止した頭で考えるが、

「あ……もしかして、私達のせいで脅されてたり……?ごめん……」

 思いついたのが、それだった。しかし彼女は横に振る。

「違うよ。私、二人のことよく分かってなかった。私がやってきたことを考えたら、許してくれるとは思ってないけど……」

「…………」

 悠は目を丸くする。一体何の風の吹き回しだ?

「その……だから、仲良くしてくれたら、うれしい、かな……」

 少しずつ小さくなっていく声に、悠はキョトンとする。そして、小さく微笑んだ。

「あのさ、どこかでおいしいもの食べに行かない?」

『兄さんも一緒になるけど』

「本当にお兄さん好きだね」

「悠、ここにいたんだね。遅いから探したよ」

 その時、暁が来る。そして彼女を見て、目を丸くした。

「君は……」

「あ、その……暁君も、ごめんなさい!」

「え?何、どうしたの?」

 やはり分かっていない兄にも、彼女は謝る。

「仕方ないでしょ。オレも悠を守らないといけないってピリピリしてたし。……まぁ、時間ある時なら、遊びに行ってもいいよ」

 その言葉に、彼女は救われた気がした。

 そのあと、一緒にクレープを食べに行く。

「悠、おいしい?」

「…………!」

「そうか、よかった」

 仲のいい双子を見て、この二人が他人を殴るなんてしないと改めて認識した。


 二日後、ある程度落ち着いたからと再びデザイアに入る。

「大きな金庫だね……」

 ジョーカーが呟く。アレスが「ホントにな……」とうなだれた。

「……でも、特に何かに使うわけではなさそう」

 クラウンが触って、そう答えた。「何かの仕掛けか?」とハシスが首を傾げる。

「多分、シリンダーになっているんじゃないかしら」

 エアの言葉に「しりんだー?」とイシュタルが首を傾げ、「鍵の一種よ」とマリーが答えた。

 暗証番号が必要らしく、探索しているとエネミーに見つかる。

「戦うよ!」

 ジョーカーの号令とともに怪盗達は臨戦態勢に入る。

「ディーア、マリー!風呪文が弱点だよ!」

「了解!」

 二人が風呪文を放ち、怯んだところを一斉に叩き込んだ。

 メモ帳が落ち、それを見ると謎の式が書かれていた。

「……なるほど」

 すぐに理解したジョーカーは暗号を打ち込む。すると、しまっていた扉が開いた。

「なんで分かったんだ!?」

「簡単でしょ?ただ計算するだけだよ」

 アレスは理解していないようだ。「つまり……」と説明するが、

「うん、わかんね」

「だったらそう言うものだと思って……」

 素晴らしいほどの笑顔に、ジョーカーはうなだれる。

 とにかく先には進めたのでエレベーターに乗ると、モヤモヤのものがあった。

「あれがオタカラ?」

「あぁ、これでルートは確保できた。あとは予告状を出すだけだぜ」

 ディーアの言葉に「それにしても、どうやって出そうか……」とハシスが考え込む。

 とりあえず現実に戻り、その日は解散になる。

 デスティーノに戻ると、珍しい来客がいた。

「久しぶり、暁君、悠ちゃん」

「お久しぶりです、もみじさん」

 彼女は秋川 もみじ。彼女含む一家全員司法関係の仕事をしているエリートだ。

 二階にあげると、もみじは「急に来てごめんなさいね」と謝ってきた。

「いえ、大丈夫ですよ」

「それならよかったけど。……ごめんなさいね、捜査の方、難航しているの」

 もみじは目を伏せる。彼女は警察官で、暁の冤罪事件について調べてくれているのだ。

「上からもかなり圧力を加えられていてね。……でも、お姉ちゃんと一緒に頑張るから」

「ありがとうございます」

 本当に、両親の知人には頭が上がらない。

「当然よ、あの蓮の子供だもの。そんなこと絶対しないわ。それに、私自身もお姉ちゃんも蓮に助けられたの」

「そうなんですか?」

「えぇ。私達姉妹はちょっと仲たがいを起こしててね。蓮が仲裁してくれたのよ。それに、大人達に利用されていた私を助け出してくれた」

 本当に、母はかなりすごい人らしい。自分達も同じようにできるのだろうか……。

「一応、調べられたことだけでも。涼恵さんの情報をもとに、近所に聞き込みをしてみたわ。何か言い合っている声は聞こえてきたけど、悲鳴は聞いてないって。今は防犯カメラも見たりしているわ。まだ決定的な証拠が出てきてないから、冤罪を覆すことはできないけど……」

 もみじは悔しそうだ。そして時間を見て、

「ごめんなさい、早く帰らないと。二人も気を付けてね」

「はい、おやすみなさい」

「えぇ、おやすみ」

 そう言って、下に降りて行った。ロディとマリアンが「あの人は?」と聞いてくる。

「知り合いの警察官の人だよ。母さんから話を聞いて、もう一人の人と一緒に秘密裏に捜査してくれてるんだ」

「すげぇな……でも、現役警官でも見つからないんだな……」

「涼恵さん達で見つからないなら、警察が見つけるのは難しいって言ってたよ」

 もみじは表の方で探っているが、涼恵は裏の方で探っている。どちらかと言えば裏の方が情報量は多く、今回の件に関しては協力しているようだ。

「なるほどな……」

 ロディが納得したようにうなずく。しかも悠の力も狙われているから厄介だ。

 今日はもう寝ようと横になる。

「……兄さん、起きてる?」

 少しして、マリアンが寝たことを確認した悠が声をかける。暁が「起きてるよ」と答えると、マリアンを起こさないように座る。

「……どうしたの?」

「……ちょっと、ね……私達って、本当に普通の「人間」なのかなって、不安になって……」

 その言葉に、暁も座って考える。

「生徒会長さんの言葉を聞いて、ずっと考えてたの。普通の兄妹だったら、離れていても何考えてるのか分かるってないんだって……」

「……そうだな……」

 悠が不安がっているのが分かる。恐らく、気弱な部分は悠が受け継いでしまったのだろう。

 暁と悠は、本当に「半身」だ。しかしなぜそう思うのか、自分達でも分からない。ただ「そういうもの」として受け入れていたのだ。両親もそれを否定しなかったし、全員がそうなのだと思っていたのだ。

「……分からないな……今度、母さんに聞くか成雲家に行こうか」

 答えなど出るわけもなく、暁はそう言った。「……うん」と悠が頷く。

 その時、二人の目の前にホットミルクの入ったマグカップが差し出された。顔を上げると、ジョーカーとクラウンが二つずつ持って立っていた。

「何か考えてるようだったから、持ってきた」

 それを受け取ると、二人は窓際に座った。ネコ達を起こさないようにするためか、珍しく静かだ。

「……ねぇ、ジョーカー」

「どうした?悠」

「私達って、何者なの?」

 不意に聞かれ、ジョーカーは少し考えるそぶりを見せた。そして、

「……今はまだ知らなくていい。それに、そこまで不安になる必要もないさ」

「……じゃあ、知ってはいるんだね」

「あぁ。そこは否定しないさ」

 知っていたことではあるが、この二人はただものではない。

「それじゃあ、今日は早く寝た方がいい。ちなみに、この手の悪人の場合、予告状を街中にばらまいてもいいと思うぞ」

 やけに知っている口ぶりでそう言われ、双子は窓際を見るがすでにいなかった。


 次の日、予告状を出そうと集まる。

「でも、どうしたらいいんだよ……」

 信一がうなだれた。もう一度乗り込むのはさすがに危険だ、となると……。

「……ねぇ、それ、私達に任せてくれないかな?」

 悠の言葉に「どうするんだ?」と優士が腕を組んで聞いてきた。

「大丈夫、うまくやるよ」

 暁も自信ありげに告げて、ほかの人達はわけが分からないと言いたげな表情をした。

 深夜、二人は人がいないタイミングを狙ってフードを被って予告状を貼っていった。

「オレ達も手伝ってやろうか?」

 声を掛けられ、二人は振り返る。そこにはジョーカーとクラウンがいた。

 二人にも手伝ってもらい、手元にあった予告状をすべて貼り終わった。

 朝、予告状のことで大騒ぎになっていた。これなら金山にも届いているだろう。

「なるほどね、こうすれば金山のところにも届く……よく考えたわね」

 実は教えてくれたのは別の人なんだよなー……とは口が裂けても言えなかった。

 デザイアの中に入り、オタカラの前までやってくると金山のフェイクが立っていた。

「ここまでよく来ましたねぇ。弱い者は強い者に食いつぶされるためにあるもの……あなた達からも搾り取らせてもらいますよぉ!」

 その言葉とともに、金山は化け物の姿になった。その後ろには、鉄製の何かがたたずんでいた。

「あれ、勢いよくぶつかったら大怪我じゃすまないかもな……」

 ディーアが呟く。気を付けて戦った方がよさそうだ。

 ジョーカーが光呪文を放つが、それが跳ね返ってきた。

「きゃっ!」

 幸い、避けることが出来たが油断出来る相手ではない。

「ジョーカー、サポートに回ってくれ」

「了解、クラウン」

 クラウンと入れ替わり、ジョーカーは「『疾風』」と呟いた。

 その瞬間、風が荒れる。そのすきにほかの人達が攻撃していったが、

「そこの白髪から狙え!」

 金山が後ろの鉄製の物体に指示を出し、それが動き出す。

「ちょ……!あれ、動くのかよ!?」

 アレスが驚いた声を出す。イシュタルが「あ、あれ、壊せるかな!?」と焦った。

「落ち着いて、手はあるハズよ」

 エアが二人をなだめる。ジョーカーは走り出す準備をしていた。

「ここは引き付けておくから、その間に攻撃してて」

 その指示とともに、物体は動き出す。ジョーカーはプシュケを召喚し、「『飛翔』!」という言葉と同時に腕に捕まった。

 そのまま、当たるかギリギリのところを維持して飛行しながら銃弾を撃っていく。身体は言霊の力のおかげで軽くなっているので負担は少ない。

「クソッ!ちょこまかと……!」

 突然止まったかと思うと、一か所が開いた。

 そこにあったのは小型のミサイル。

(ヤバイ……!)

 慌てて言霊を解こうとするが、遅かった。それがジョーカーに向かって飛んでくる。当たる……!と身構えたが、透明な何かに憚れ、ジョーカーに怪我はなかった。

「危なかったね、ジョーカー」

「クラウン、ありがとう」

 そう、クラウンが言霊で透明な壁を作ってくれたのだ。兄のとっさの判断に感謝しつつ、攻撃を続ける。

 やがてその物体が壊れると、金山に視線が移った。

「ま、待ってくれ!金やるから……!」

「人から奪ったお金でしょ!?そんなのいらないわ!」

 命乞いをする金山にエアは一刀両断した。それに彼はうつむき、

「……俺は負け組だったんだよ……ブスで、貧乏で、頭も悪くて……」

「レッテルに苦しんでるのがお前だけだと思うなよ。俺達だって同じなんだ」

 アレスが言うと、彼は怪盗達を見た。

「よかったじゃない、あなたにもやることが出来たわよ。一生をかけた償いって言う舞台がね」

「罪を認め、改心しろ」

 エアとハシスの言葉に彼は「それもいいかもな……」と笑った。そして、

「しかし、お前達も面白いな。その力があれば好き勝手出来るだろ?黒い仮面の男はもうしているぜ」

「え……?」

 予想外の話にジョーカーはもう少し詳しく聞こうとしたが、デザイアが崩れ始めた。まずは脱出が優先だとディーアとマリーの方を見ると、オタカラである金塊にへばりついていた。

「こら!早く脱出しないといけないでしょ!?」

 ジョーカーの言葉に我に返ったネコ達は謝り、ディーアが車の姿になる。そこに詰め込めるだけ詰め込み、クラウンが車を走らせる、が――。

「道がねぇええええー!」

 ……デザイアが宙に浮いていることをすっかり忘れていた。


 しりもちをつき、周囲を見渡す。目立たないところに落ちたようだが、注目されるのはやばいと少し離れた。

 信一が高価そうなアタッシュケースを持っていた。どうやらこれがオタカラらしい。どこで確認するかと考えると、

「あ、いい場所知ってるよ」

 杏が突然そんなことを言い出した。美佳以外の人は心当たりがあるらしい。

「ちょうどコーヒーが飲みたかったところだ」

 優士の言葉に暁と悠もようやくどこのことを言っているのか分かった。ため息をつき、「分かったよ」とデスティーノまで連れて行く。

 二階にあげると、悠がコーヒーを持ってくると下に降りた。暁がお菓子を準備している間、美佳がアタッシュケースを開ける。

 中身は札束だった。

「おぉ!?すげぇな!」

「結構あるわね……!」

 皆が興奮している中、悠がコーヒーとコーラを持って上がってくる。

「どうしたの?」

「見ろよ!これ!」

 信一がそれを見せると、悠は「……盛り上がっているところ悪いんだけど、それ、偽札だよ」と冷静に答えた。

「本当だな」

「えぇー……結構盛り上がってたのにー……」

「でも、アタッシュケース自体はいいものだと思うよ。十万は行くんじゃないかな?」

 悠が観察して告げると、「じゃあ、売ろうぜ!」と信一はすぐさま立ち直った。

「まぁ、証拠品もなくなるから別にいいけど」

「それにしても、気になるな……」

 暁の言葉に「黒い仮面のことだね」と悠は兄の方を見た。悠としても、かなり気になっていた。

「確かにな。柊木も言っていたが……」

「気にしなくていいじゃねぇか」

 優士も不安そうにしたが、信一が何も考えてなさそうにそう言った。

「それもそう、だな……」

 不安は拭えぬまま、暁は頷いた。


 解散した後、ネコ達とそのことについて話した。

「シンイチはあぁ言ったが、警戒しておくに越したことはないぞ」

「そうだね……二人から言われているわけだし」

 ロディの言葉にうなずく。黒い仮面、ということはジョーカーやクラウンのことではなさそうだ。

「それにしても、あなた達持っているわね」

 マリアンが言うと、「美佳のことか?」と暁は聞き返した。

「そうよ。まさか仲間が増えるとは思ってなかったもの」

 こんな偶然、ないわよと言われ、双子は少し考える。

 本当に、偶然?

 思えばナビが入っていたのだって偶然にしては出来すぎている。だとしたら、誰かが裏で操って……?

「どうした?」

 ネコ達に覗き込まれ、二人はハッとなる。

「疲れてるなら、もう寝ようぜ」

「そうね。特にユウはお手柄だったもの」

 そう促され、二人は横になる。そしてそのまま眠りについた。


 久しぶりにファントムゲートの夢を見た。

「おめでとう、更生は順調なようだな」

 シャーロックに言われ、二人はうつむく。真実を聞く覚悟がなかった。

「これからも更生に励むように」

 それだけ言われ、二人は眠気に襲われた。

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