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エピローグ 誰も知らない結末

 次の日の朝いちばん、白田が病院まで悠を迎えに行く。

「すみません、何から何まで……」

「大丈夫だ。……ちゃんと買ってきてやったぞ。今日は開けるの少し遅くしてやるから、早く作れ」

「ありがとうございます」

 デスティーノに戻ると、悠はエプロンを着けて早速冷蔵庫を開けた。

 そこに入っていたのはチョコや頼んでいた材料。

「しかし、病み上がりにすぐバレンタインのチョコを作るとはね。お前の体力には驚きだ」

「母の血を引いているので」

「ハハッ。確かに蓮はすぐに回復するもんな」

 そう、今日はバレンタインだ。まさか前日に起きてしまうとは思わなかった。看護師に日付を聞かなければすっかり忘れていただろう。

 悠が作っていくと、甘い香りが漂ってきた。

「おいしそうなにおいだな」

「白田さんにも作っているので待っていてください」

「そりゃうれしいね」

 悠の言葉に笑って白田は見ていた。


 一時間後、悠は何とかガトーショコラを作り終えた。

「これでいいかな……?白田さん、どうぞ」

「おう、ありがとな」

 悠が冷めたそれを切り分け、そのひと切れを白田に渡す。同時にデスティーノの扉が開いた。

「ずるいぞ、こうたろう!私も悠のガトーショコラ食べたい!」

「ちゃんと作ってるよ、ほら」

 朝日が息を切らしてやってきたのだ。それにクスクスと笑いながら悠が目の前に出す。

「なぁなぁ、その違うやつ、あいつに渡すのか?」

 朝日が指さしたものを見ると、ガトーショコラではなくカヌレやトリュフが置かれていた。

「あ、う、うん。そうだけど……」

「あーあー、うらやましいなぁ。あいつの代わりに食べたいのにぃ」

「今度作ってあげるから」

「やった!」

 そんな会話をしながら、ラッピングをしていく。

 放課後、公園に行くと優士が待ってくれていた。

「ゆ、優士君」

「どうしたんだ?悠」

 優士が首を傾げると、悠が紙袋を渡した。

「そ、それ、バレンタインの……」

「あぁ、そう言えば今日はそんな日だったな」

「ゆ、優士君はモテるんじゃない?」

「確かに、チョコはたくさん渡されたな。だが、全部断って来たぞ」

 え?と優士の方を見ると彼はジッと悠の方を見つめていた。

「悠のチョコ以外は欲しくなかったからな」

「そ、そう……」

 その言葉に頬を染めてしまった。


 デスティーノでは、暁ときはくが一緒に過ごしていた。

「先輩、これ、チョコです」

 きはくから受け取ると、暁は「ありがとう」と優しく笑った。

「あ、あの、先輩はチョコ、たくさんもらいました?」

「あー……昔からだから。それに怪盗団のメンバー以外からは受け取らなかったよ」

 そうなんだ……ときはくは少し落ち込む。正直、自分に自信があるわけではない。

 その様子に気付いた暁はきはくの頭を撫でた。

「オレが好きなのはきはくだけだよ。本命チョコは絶対にもらってないから」

「そう、ですか?」

「うん。悠にも言われるぐらいだよ、兄さんにはもったいないぐらいの彼女だよねって」

 フフッと笑う暁にきはくはやっぱりこの人が好きだと顔を真っ赤にした。



 三月、一年間を過ごしたこの地を離れることになった。

「一年間、ありがとうございました」

 ネコ達を抱えた暁と悠が白田に頭を下げると、「あぁ。たまには遊びに来いよ」と笑って送り出してくれた。

 二人で歩いていると、二人の目の前に車が止まった。

「よう!送っていくぜ?」

 そう、仲間達だった。二人はコクッと頷き、車に乗り込む。

「……なぁ、俺達さ。高校卒業したらそっち行こうって思ってんだ」

 信一が代表して二人に告げる。

「うん、来なよ。しばらくはうちで泊まっていけばいいし」

 暁が言うと悠もコクコクと頷いていた。

「うん!絶対に東京に来るから待ってて!」

 そこにあったのは、笑いがあふれる空間だった。



 一人の青年が目を覚ます。

「ここは……」

「お久しぶり」

 彼の目の前に現れたのは、白い女性。隣には暁に似た男性も立っている。

「ここは「祝福の祭壇」。ボクが生まれた場所なんだ」

「……異世界、か?」

「あなたに分かりやすく言うなら、そうだね」

「お前は悠のおかげで、あの後も死なずにすんだんだぞ」

 黒い男性が青年に告げる。それにキョトンと目を丸くしていた。

「でも、しばらくはあの子に知られたくないでしょう?だからここで過ごしたらいい」

「……そうだな。でもここはなんなんだ?」

「安心して、エネミーは襲ってこないよ。気が向いた時は現実に行けばいいし」

 そう言って、白い女性――蓮は彼に笑いかけた。

「おかえり、安村君――」



 実家に戻ってきた双子はおじ達や姉達に抱きしめられる。

「おかえり!二人が無事でよかったよ……!」

「分かった。分かったから離れて……」

「さすが、お前達の家族だな……」

 足元にいたロディとマリアンが冷や汗を流している。二匹を見て、「あ、この子達がサポートしてくれてたんだね」と義明が笑う。

「声、分かるの?」

「うん。一応、元祖怪盗団だし」

 ……これはもう少し、両親の知り合いにも話を聞いた方がよさそうだ。

 これからの生活を想像し、双子は笑う。

 真実の先にある未来を求めるために。

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