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十六章 真の覚醒

 最深部は恐ろしいほど禍々しかった。

 今まで探索していた場所がマシだと思うほどに。

「……牢屋……?」

 そう呟いたのは誰だっただろうか。

 その近くに、ファントムゲートが見えた。

「ごめん、少し待ってて」

 ジョーカーとクラウンは皆に言って、中に入った。


「どうだ?」

 シャーロックが二人に問いかける。その顔はニヤニヤしていて、楽しんでいるように見える。

「……あの先に、答えがあるんだよな?」

 暁が尋ねると、「あぁ、そうだな」と彼は答える。

 双子が大人しくしている。何か考えているようだった。

「それじゃあ、私達は先に進むよ」

 それだけ言って、二人は出る。

 シャーロックが不気味に笑っているのは気付かなかった。


 戻ってくると、先に進む。

「本当に怖いね……」

 イシュタルが呟く。まるで地下牢を歩いているようだ。

 ふと周囲を見てみると、ジョーカーは気付いてしまった。

「……あれ?この人達……現実にいる人達じゃ……?」

 電車でよく見かけるために覚えている人、いつもいるコンビニの店員さん……閉じ込められているのは明らかに現実でもいる人達のフェイクだったのだ。

「……電車って、最深部に来ていたんだよね?」

 ネコ達に尋ねると、ディーアは「あぁ……そうだ」と頷く。

「つまりさ……この人達、自らの意志でここに入ったってことになるよ?」

 そう言われ、全員が目を見開く。

「だって、涼恵さん達やお母さん達のフェイクはどこにもいない……怠惰に堕ちていない人達はここにいない。……だから、そう言うことだよ」

「じゃあ、俺達のしたことって……」

 アレスが呆然とする。ジョーカーは付け加えた。

「……意味があったかって言われたら分からない。もしかしたら何かの力が働いているだけかもしれないし」

「でも……」

「……とにかく、進もう。ここで考えていても何も分からない」

 クラウンが告げ、その重い足を動かす。

 さらに先に進んでいく。さらに足が重くなっていくのが分かった。

 ――なんだろう、この不安……?

 ――分からない……。

 ――兄さんも感じる?

 ――うん……。

 それなら気のせいではないと分かる。

 この先に何かいるのに、そいつを倒さないといけないのに、怖くて動けない。

 そんな感覚。今まで、こんなことなかったのに。

「……もうすぐだ」

 ディーアの言葉に身構える。この奥に……何かがある。

「……行こう」

 クラウンが一歩踏み出すと、ゾワッと悪寒が走る。

 中心には、巨大な丸いものがたたずんでいる。どういうわけか、あれから恐ろしい雰囲気を感じ取った。

「……あれ、ちょっとヤバイよ……」

 心臓がバクバク言っている。今までにない危険信号……。

 やがて、それが動き出す。

「来るよ」

 ジョーカーの言葉とともに、それは攻撃をしてきた。間一髪避けるのだが、猛攻は止まらない。

「『停止』!」

 ジョーカーが言霊を使うが、ほんの少し動きが鈍くなった程度。

(……おかしい)

 蓮から、自分のこの力は神と同等の存在じゃない限り確実に効くのだと聞いている。クラウンが使ったなら分かるが、ジョーカーの言霊の力が効かないとなると……。

「クラウン、ダメ!こいつ、「神様と同等の力がある」!」

 ジョーカーのその言葉にクラウンはすぐ後ろにさがる。

「どういうこと?」

「お母さんから聞いたことあるでしょ?私の言霊の力は世界を滅ぼす力を持っているんだよ。それなのに奴にはほとんど効いてない」

「……なるほど。でもそうなるとどうやって倒すの?」

 二人で相談していると、それはビームを放ってきた。怪盗達は避けることが出来ず、その場に倒れ込んでしまった。


 暁と悠が目を覚ますと、ファントムゲートにいた。

「やはり、更生は難しかったか」

 シャーロックが怪しく笑う。そしてエルピスとスペースに指示を出した。

「こいつらは処刑だ」

「なっ……!」

 それに反論しようとするのだが、二人は従うしかないのだろう。どこからかギロチンが出てきた。同時に、押し出されるように地面に伏した。

「待ちなさい」

 しかし、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。振り返ると黒衣の女性――蓮がコツコツと歩いてきた。

「か、母さん、なんでここに……?」

「一応、知り合いに任せていた場所だからね」

 蓮がシャーロックの前に立つと、一発ぶん殴った。

「さて……うちの子供を囚人に仕立て上げて楽しかったかい?「偽神」」

「え……?」

 どういう意味だろうと母親を見る。蓮は我が子達を見て、

「いいの?このままここで殺されても。……あなた達の正義は、そんなもの?真実を見たくないの?」

 そう声をかける。同時に、心臓がドクンと跳ねる。

「……私達の正義は、こんなものじゃない」

「こんなところで、殺されてたまるか……!」

 二人がゆっくり立ち上がると、蓮と同じように怪盗服に変わった。

「まったく、出番が遅いな」

 さらに愛良がやってくる。これで親子がそろった。

 蓮はエルピスとスペースに声をかける。

「あなた達も、早く思い出しなさい。「テミス」」

 その名と同時に二人は頭を押さえてしゃがみ込んでしまった。

 テミス……?と暁と悠が首を傾げていると二人は「思い出した……」と呟いた。

「私達は……偽物に……!」

「おいで」

 蓮の言葉に二人は近付く。蓮はしゃがみ込み、

「さぁ、戻りなさい」

 二人の手を握ってそう言うと、彼女達は光に包まれる。

 それが引いていくと、そこには一人の少女が立っていた。

「ありがとう、我が母」

「助けるのが遅くなっちゃってごめんね、テミス」

 謝ると、少女は笑って「大丈夫ですよ、仕方ないことですし」と笑う。

 テミスと呼ばれた少女はシャーロックを睨んで、

「よくも私を分断しましたね」

「いいぞ、テミス。ぶっ放してやれ」

 愛良が楽しそうにしている。どうやら相当キレているようだ。

「こら、愛良。もう少し地獄を見せてから倒さないと」

 お母さん?殺意隠せていませんよ?

 笑顔でキレているのはさすが母親だった。

「これは分が悪いな。私も殺されたくないのでね」

 偽物のシャーロックが目の前から消えると、光の中からぐったりしているシャーロックが現れた。

「父上」

「主!」

 テミスと愛良がシャーロックに駆け寄る。どうやら本物らしい。

 シャーロックが起き上がると、「手間をかけさせて悪かったな、レンカ」と蓮に声をかける。

「いや、仕方ない。まさかここまでなってるとは思ってなかったしね」

「『ジョーカー』もありがとう」

「いえ、父上が無事ならよかったです」

 愛良が笑う。そういえばシャーロックが作ったとか言っていたか。

「お前が敬語とは珍しい」

「父親だからな、一応」

「フーン。まぁいい、とりあえず今は世界のことを考えないとな」

 蓮が腕を組む。

「そうだ、どうなってるの!?」

 悠が慌てだすと愛良が「落ち着け」となだめた。

「世界が侵食されていっている。だがまだ間に合うだろう」

「そうですね。それに、今の状態なら協力者も手伝うことが出来るでしょう」

 シャーロックとテミスが続ける。協力者、というのは涼恵と記也のことだろう。

「二人が最深部に行けなかったのは、二人が怪盗じゃなかったから。それに二人の魂はここに入ることを拒んでいるんだ。しかし、世界の危機となれば別なんだよ」

 蓮がさらに答えた。

「あの二人、それに守護者やきょうだい……彼女達は純粋すぎるがゆえに穢れてしまった最深部には来ることが出来ない」

「純粋……」

「あの二人の魂の母親もこの異世界で生まれてな。現実に行き、子供を産み落とした後にその母親は天に昇ったらしい。「贖罪の巫女」と呼ばれているのはそれゆえだ」

「まぁ、オレ達はそれより前にここで世界が滅びぬように守っていたからな。詳しいことはあちらの方がよく分かっているだろう」

 両親の言葉とともに、足元に二つの影が駆け寄ってきた。

「おや、ネコちゃん達。自分の役目は思い出したかい?」

「……あぁ。こいつらとともに、世界を救うこと」

「それが、私達の役目なのね」

 その答えに蓮は満足そうに頷いた。

「その通り。よくここまで連れてきたな」

「え、どういう……?」

 暁が首を傾げると、「こいつらはお前達トリックスターをここに連れてくることが役目だったんだよ」と愛良が答えた。

「はい。彼らはトリックスターとともに世界を救い出すために遣わせた者達です」

「テミス様、まだ役目は終わっていません」

「そうですね。もう少しゆっくりお話ししたかったのですが……」

 ロディとマリアンが暁と悠の足元に向かう。

「じゃあ、行こうか」

 蓮と愛良が二人の手を握る。

「「世界を救いに」」



 ハッと目覚めると、現実に戻っていた。近くには仲間達と両親がいる。

「暁君、悠ちゃん!」

 そこに涼恵と記也も合流した。

 周囲を見渡すと、世界がアザーワールドリィに侵食されているのが分かる。

「早くしないと」

 悠の言葉とともに、全員が怪盗服になる。

 空を見ると、そこにあの球体が浮いていた。今にも滅ぼすと言いたげだ。

「行こう」

 暁の号令に全員が頷く。

 涼恵と朝日は相手のことについて探ってくれるらしい。

「私が戦えるから、みんなは先に進んでて」

「いざとなれば、私が連れていくからな」

 その言葉に甘え、周囲を探索する。

 皆と別れて探索していると、涼恵のスマホに電話が来た。

「はい、もしもし」

『もしもし、涼恵さん。東京も酷いことになってる』

「そっちの空に球体は浮かんでます?」

『ううん。こっちは見えないね』

「分かりました。では、戦闘していいですよ。皆の安全を確保することが最優先ですからね」

『了解。皆、涼恵さんの許可も得たから戦うよ』

 電話を切ると、「今の人は……?」と朝日が首を傾げた。

「東京でも同じようになっているらしい。あっちは頼りがいのある人達に任せてるから大丈夫。私達はこっちに集中しよう」

「……うん」

 涼恵の言葉に朝日は不安げに頷いた。

 暁達がエネミーを倒しながら進んでいくと、声が聞こえてきた。

「今更抵抗したところで遅い。人間は怠惰を選んだのだ」

「そんなことない」

 悠が否定するが、「なぜそんなことが言える?」とあざ笑う。

「事実、こうして人間達は異常に気付けず、いつもの生活を送っているだろう?」

「それは……」

「ならば、私が何をしようが構わないはずだ」

「それはボクが許さない」

 今まで黙って聞いていた蓮が口をはさむ。

「お前も守り神であり、異世界の女王であるボクには逆らえないはずだ。人々に手を出すのはボクが許可しない」

「フン、だからお前が来たのか。

 ――なら、お前を殺すだけだ」

 その言葉と同時に、それは蓮を狙い始める。

「暁、悠!ボクが引き付けておくから攻撃して!」

 母親の声に二人はハッと戻ってきて仮面に触れる。

 蓮は器用に避けていた。愛良も、攻撃が蓮だけに集中させないように気をひきつけている。

「おいで、アストライア!」

「来い、エレボス!」

 二人がアルターを召喚し、呪文を唱える。しかし、効いている様子はない。

「暁君、悠ちゃん、そいつは頭じゃないと効かないみたいだよ」

 その時、二人の近くに涼恵が降り立つ。上にはアルターに乗った朝日の姿。

「蓮と愛良は引き付けてくれているか……でもちょっと厳しそうだな……」

「でもそれ以外は見つからないよ。呪文と拳銃でどうにかするしか……」

「マジでどうすんの!?」

 信一が頭を抱え、優士と美佳も考え込んでしまう。



 一方、東京では佑夜達が必死になって戦っていた。

「さすがに多い……!」

「涼恵さん達、大丈夫かな?」

「分からん。信じるしかない。……ボクはあっちを援護してくる」

「分かった。気を付けてね、兄さん」

 慎也がほかの人達の援護に向かう。佑夜と愛斗は目の前のエネミーを睨んでいた。

「……良希君達も戦っているとはいえ、ちょっと厳しいかもな……」

「佑夜が珍しいね、強いのに」

「強くても、これじゃさすがに多すぎるよ。皆がいるから何とかなってるだけだよ」

「そっか。……大丈夫、ボク達なら行けるよ」

「そうだね、「相棒」」

 二人で顔を見合わせ、小さく笑いあう。



 悠達の方は大惨事だった。一般の人々にさえ危害が及びそうになってしまっている。

(どうしたらいい……?どうしたら……)

「暁!」

 立ちすくんでいた暁に、蓮は叫ぶ。

「あの時の怒りを思い出せ!」

 その言葉とともに暁はドクン!と心臓が跳ねた。同時に、今まで以上に強い力が湧いてくるのを感じた。

『さぁ、今こそ我の力を解き放て。お前の母も使った、かの力を』

「――来い、サタナエル!」

 自分の声ではないような気がした。それほどに低く、そして強かった。

「おー、さすが蓮の子供だな」

 愛良が特に驚くでもなく呟く。

 サタナエルは、人間にとって最終手段のアルターだった。一説によればメシアときょうだいという話もある、悪魔の王。

「おいで、アストライア!」

 悠も召喚し、「『祝福の翼』」と唱え暁の能力をあげる。そのあと、悠は他のメンバーと合流して暁の方を気にしながら戦っていた。

「安心しろ、ユウ」

「そうよ、大丈夫だわ」

 ロディとマリアンに言われ、悠は「……うん」と小さく笑う。

 暁が駆け出し、大きくジャンプして拳銃を構える。

「行け、暁!」

 母親の号令に、彼は引き金を引く。同時に、サタナエルからも銃弾が放たれた。

「なっ――!」

 その神様とやらは避けようとしたが、反応が遅れ頭を貫かれる。

 同時に、異世界は侵略を止め世界が戻っていった。

「これ、は……」

「おめでとう、暁」

 蓮がへたり込んでいる息子に拍手を送る。そして優しく抱きしめた。

「あとは母さん達に任せて。暁の冤罪を晴らすだけだから」

 その言葉に、暁はコクッと頷いた。

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