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十四章 因縁の対決

 次の日から、デザイアの攻略が始まる。両親と涼恵達にも連絡し、デスティーノに集まった。

「どうする?私達も時間はあるけど」

「出来たらついてきてほしいですね。十分な戦力になりえますし」

 美佳が答えると、四人は「分かった」と頷いた。

「作戦会議と行こうか」

 優士が口を開く。蓮がジッと彼を見ていたため、悠が「どうしたの?お母さん」と尋ねた。

「ん?あぁ、確かうちの娘と付き合ってるんだったよなぁ、って思って」

 それを聞いた途端、優士と悠は顔を真っ赤にしてしまう。いつの間に知られていたのだろうか?

「蓮、大泣きしていいか?」

「落ち着け、お父さん。娘に恋人が出来るのはいいことだぞ」

「父さんは悲しいぞ……」

 愛良が目元を隠しながらうなだれる。親バカだなぁ……とほかの人達はそれを見ていた。

「まぁまぁ、悠ちゃんに恋人が出来たなんていいニュースじゃないか」

「お前、叶恵に恋人が出来たらどうするよ?」

「大泣きします」

「すず姉もかよ!」

 涼恵の即答に弟がツッコミを入れた。この人達、かなーりの親バカらしい。

「お前だって、娘に恋人出来たら泣くだろ」

「うっ……そうだけどよ……」

「兄さんなんてこの間子供が恋人連れてきたら撃沈してたじゃん」

「あれはすごかったなぁ……」

「何それ、見たかったんだが」

 何があったその間に。

 本当に気になったが、今はそれどころじゃない。

「それ、あとで聞かせてください。今から作戦会議しますので」

「あぁ、その話だったね」

 ようやく本題に入ることが出来ると悠が切り出す。

「涼恵さん、何か情報ってありますか?」

「現実の方でいいなら、真っ黒な部分がたくさんあるぞ。デザイアとやらにどう影響するかは分からないが」

「教えてくれませんか?」

「いいけど、情報料は高いよ?」

「……暁と悠のためなら」

 涼恵の言葉に美佳が真っすぐ見ると、フフッと笑う。

「冗談。迷いがないか試したかっただけ。

 そうだね……奴は酒癖が悪いらしい。それに、女癖も悪いみたいだ。よく議員になれたなとは思うが、まぁ表の面がよければ騙せるからな。それに、奴は裏である組織の残党と繋がっていたからな」

「……その、組織って?」

 春香が尋ねると、涼恵は答えた。

「何回も出していたから知っているだろう?モロツゥ。私の研究所が再建される前の、もともとの組織名だよ」

 その言葉を聞いた途端、双子は寒気がした。まるでそのことをはじめから知っていたような……。

「……大丈夫?」

 顔を覗き込んで来る涼恵にビクッと震える。それを見て彼女は蓮の方を見た。

「……多分、本能的に危険を察しているのかもね」

「そうだろうな。ボクの血を引いているわけだし、危機察知能力はかなり高いハズだ」

「仕方ないな。それほどに奴らは恐ろしい」

「えっと……どういう……」

 悠が冷や汗を流しながら尋ねると、「そうだな……」と記也が口を開いた。

「まず、一つ言っておかないといけないな。

 オレ達はもともと、人ならざる者の血も引いているんだ」

「……え?」

 蓮の実家には確かに異世界で生まれた守り神の血筋と書かれているし、その通りの力があるが……。

「あの神話は本当のことだよ。ボクはその守り神様の生まれ変わりなんだ。……自覚していると思うけど二人は、もともと一つの魂なんだ。その時生まれた子供の魂でね」

「……友里と真理のこと、気になっていたな。あの二人はその守り神だった時の子供なんだよ。だからお前達の姉で間違いない」

 両親の口から聞かされてしまっては、信じざるを得ない。

 友里姉と真理姉が、守り神の時の子供?自分達も、本当にもともとは一つの魂?

 そんなこと、あり得るのか?……異世界があるぐらいだ、あり得るのだろう。

「ボクも最初は忘れていたよ。だから二人が混乱するのも当たり前」

 蓮の言葉と同時に、「まぁ、この話は今度にしよう」と愛良が告げる。

「涼恵、続けてくれ」

「はいはい。

 何度も話に出したが、モロツゥは世界を滅ぼそうとしている組織だ。一度は阻止したが、奴らは諦めが悪いからな。私の「血療」、蓮の「癒しの力」……その二つを使って混乱を起こそうとしていたんだが、それが出来ないと分かったから悠ちゃんの言霊を狙ったんだろうな」

 そんな理由で……。

「本当に、滅ぼそうと……」

「昔は正常な組織だったんだ。でも、研究を続けているうちに人間はこの世にいない方がいいと思う奴が出てきてね。それから極秘で計画立てていたんだ」

 涼恵が目を伏せながら答えていく。

「あのさ、なんでそれ分かったの?」

 杏が尋ねる。焦りのあまりため口になっているが、涼恵は特に気にせず続けた・

「……前にも話したよね?デスゲームに巻き込まれたことがあるって。その理由が私のこの力を手に入れるためだったんだよ。いろいろあったんだけど……何とかそのことに気付いて止めることに成功したんだ。それが出来なかったら……って考えると恐ろしいよ」

「ボクも同じ理由だ。それが暁と悠に行ったっていうだけの話だな」

「みんなが味方でいてくれてよかった。そうじゃないと、二人は絶対に乗り越えられなかったからな」

 愛良の言葉に、信一が「当然っす!」と笑った。

「それじゃ、とっととぶっ飛ばそうぜ!」

「本当に調子いいな。でも、その通りだな」

 朝日も同じように笑う。

 蓮にしてみれば、それが輝いて見えた。かつての自分のように、信じて助けてくれる仲間達がいる。それがどれほどの幸福なのか、自分はよくわかる。

「……情報としてはこんな感じだ。もう少し調べてみるが、これ以上は消されていると思っていてほしい」

 涼恵の言葉に「なら、デザイアに入るか」と暁が告げる。

「気を付けていって来いよ」

 白田の言葉にうなずき、全員で県庁の前に向かう。

 そのまま、デザイアの中に入る。一瞬、誰かが見ていた気がしたがそれは涼恵と蓮しか気づかなかった。

「どうする?オレ達はジョーカー達の指示に従うが」

 ガーディアンの言葉に、「とりあえず、フェイクに聞いてみるのがいいかも」とジョーカーが答えた。

 十分ぐらいそれぞれで情報を集め、近くの安全地帯でそれを持ち寄る。

「……どうやら、鍵を五本奪わないといけないみたいだね」

「大丈夫か?一人は確実に強いぞ」

 イーリスがアルターで調べながらそう告げる。どうしようかと悩んでいると、

「車で大暴走しようか?」

 ……父親が恐ろしいことを言い出した。

 初期メンバーは双子が車で大暴走したことを思い出す。

「あ、いいね。やろうやろう」

「クラウン、盛り上がってるね」

「前、一回やったもんね」

 ヤバイこの家族大暴走するぞ。

 全員が冷や汗をかきながらどうなるか様子を見ていると、

「さすがにダメだよ、警戒度が上がるんじゃないか?」

 アトーンが渡し船を出す。それに胸を撫でおろした。

 だってこの人達、怖いんだもん。

 しかも本気でやりかねない。一度経験済みのディーアは特に。

「仕方ないな……地道に集めていくか」

「そうだね」

 いや仕方ないじゃないよ?正論だよ?

 なんて、さすがにそんな勇気はない……。

「あの、じゃあまず食堂から行ったらいいんじゃないでしょうか?」

 アルテミスの言葉に、「その方がよさそうだな」とメントが頷く。よかった、この二人がいてくれて。

 そうして、まずは食堂のところに向かうとある一か所に花瓶が置かれていることに気付く。

「あの、あそこに置いている花はなんですか?」

 エアが尋ねると、支配人は「お偉いさんが来られるんですよ」と答えた。恐らく、鍵を持っている一人だろう。

「奪うしかなさそうだよね……」

 イシュタルが呟くと、ジョーカーは頷く。

「そうじゃないとダメだと思う。でも、どうする?」

 こういうことに関しては大人組からあまり意見しないようだ。必要な時に言おうと思っているのだろう。

「そうね……一応、近付いてみましょう」

 エアが言うと、「じゃあ、誰にする?」とクラウンが尋ねる。

「私は絶対無理!話せない!」

「そう堂々と言うことじゃないわよ……」

 イーリスは絶対にダメだ、この調子だと失敗する。

 では、ほかの人になるのだが……。

「オレとジョーカーで行くか?」

「そこはハシスとジョーカーだろ」

 クラウンが首を傾げると、後ろからピースが声をかけてきた。

「おい、父さんマジで泣くぞ」

「おー、泣け泣け。娘が恋人と仲良くしているところ見て大泣きしろー」

「……………………」

「待って待ってクラウンが無言で泣き出したんだけど」

 母強し。

 こういう時、母親の方が受け入れるの早いんだなぁ……とそれを見ていた怪盗団は遠くを見ていた。

 そうしてハシスとジョーカーが近くの席に座り、相手が来るのを待つことにした。

「なんか緊張するな……」

「そうだね……」

 遠くで両親も見ているとなるとなおさら。

「……………………」

「おーい、ピースさん?ガーディアンが大泣きしていますが、これはどうしたら?」

「そっとしてていいよ。こいつは親バカだから」

 この人絶対に楽しんでいるな。

 この笑顔は明らかにからかっている。

「…………」

「……まぁ、クラウンには申し訳ないと思っているけど」

 その隣でいまだに泣いている息子に苦笑いを浮かべている。こいつもシスコンすぎるだろ。

 とまぁ、そんな二人は置いておくとして。少しすると、いかにも社長のような高価なスーツを着た男がその席にやってきた。

「話しかけてみよう」

「あぁ」

 座ってから少し待って、二人は彼に話しかける。

「あの、少しいいですか?」

「なんだい?君達は」

「その……鍵を貸していただきたいんですけど……」

 ジョーカーが告げると、「うーん……ただじゃ渡せないなぁ」と彼はうなる。

「君、美人さんだね。私の相手をしてもらおうかな?」

「相手、とは……」

「分かるだろう?」

 男がジョーカーの胸に触れようとした瞬間、氷の粒が飛んできた。ハシスだとすぐに気付く。

「他人の恋人に手を出さないでいただきたい」

「おや、この子の彼氏か」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる男に、ジョーカーは嫌悪感を抱く。

 ――それにしても。

 少し、違和感を覚える。普通のフェイクじゃないような……。

「ジョーカー、危ない!」

 ハシスがジョーカーを抱えて攻撃を避ける。

 ……え?

 今、何があった?

(動きが読めなかった……信じられない……)

 ジョーカーは危機管理能力が誰よりも高い。それなのに気付けなかったのだ。ハシスも、本当に間一髪のところで助け出せただけでもう一度出来るかは分からない。

「アトーン、手伝ってあげて」

「分かった」

 そこにピースから指示されたアトーンがやってくる。

「ジョーカー、左から攻撃が来る。すぐにハシスの方にも来るよ」

 アトーンが言うと同時に攻撃が飛んでくる。

 そう言えばこの人、未来を見ることが出来るんだった……。

 それならこの戦闘はアトーンの指示に従う形になるだろう。

「一気に叩き込むよ」

 どうやら短期戦の方がいいと判断したらしい、アトーンがそう告げる。

「イーリス、二人の攻撃力を強化させて」

「了解!」

 イーリスがジョーカーとハシスの攻撃力を上げると、そのままアルターを召喚した。

 アトーンの強力な技もあり、すぐに倒すことが出来たが。

「ちょっと気を付けた方がいいかもね……」

 そう言われ、二人は頷く。鍵を拾い、合流してそのことを話すと、

「そうだな……」

 クラウンも考え込んだ。さすがにあの戦闘を見ていると危険だと誰だって分かった。

「どうする?一回立て直すか?」

「そうだね、少し話し合いをした方がいいかも」

 ディーアが尋ねると、ジョーカーは頷いた。

 現実に戻り、デスティーノで話し合いをする。

「さすがにちょっと怖いな……」

 そう口を開いたのは暁。それに悠は同意する。

「そうだね。下手すると言霊が使えないかも」

 二人の協力技である不意打ちは、気付かれないからこそ発揮するのであってそうでなければ難しい。

「二人の言霊も使えないってなると厳しいわね……」

「でも、攻略はしていかないとだよ」

 美佳と杏が答える。もちろん、改心を諦めるわけではないがこちらが不利な状態だ。

「ぶっ飛ばせばいいんじゃねぇの?」

「お前は一回黙れ」

 信一の言葉に朝日が一蹴する。脳筋だけで進めるほど余裕があるとは思えない。

 皆で悩んでいると、

「……鍵を集めるんだよね?それに、鍵を持っているであろう人はもう見当ついているんだから、全部の部屋を探索する必要はないんじゃないかな?」

 涼恵がそう助言した。

「と言うと?」

「あとの一人がどこに出没するか分からないけど、ほかの人達は分かるよね。恐らく、最後の一人は私達が暴れていたら出てくるんじゃないかな?だから無理に回らず、三か所を重点的に回っていいと思う」

「なるほど……それがいいかもですね」

 今はそれぐらいしか出来ない。「ありがとうございます」とお礼を言うと、「ううん、これぐらいいいよ」と笑いかけてくれた。

 ある程度まとまり、解散する。

「何かあったら連絡して」

 両親と涼恵、記也も帰っていく。それを見送った後、二階に上がった。

「そろそろ寝ようぜ」

「そうだね……」

 死んでいると思われている以上、学校に行くわけではないが悠も準備をしないといけないため早く寝た方がいいのだ。

「……兄さん」

「どうしたの?」

「……本当に、勝てるかな?」

 悠が不安げに聞いてくる。暁は悠の隣で横になり、

「……勝つしかないんだよ。オレ達の正義を証明するには」

 そう答えながら、悠の頭を撫でた。

「……うん、そうだね」

「大丈夫、兄さんが守るから」

「……うん」

 悠は兄の胸にすり寄らせる。

 ――オレも、不安だけど。

 それでも、妹を安心させたかった。



 それからしばらく、攻略が続いた。

「兄さん、武器ってこれでいい?」

「うん、大丈夫」

 悠は昼間、出歩けない兄の代わりに岩野や片見のところに買い出しに出かける。

「本当に忙しそうね、怪盗さん」

「あ、あはは……」

「お兄さんはどう?元気?」

「はい、元気ですよ」

 片見にはそうやって少し話をし、

「おう、悠。兄貴は元気か?」

「えぇ、なんとかですけどね」

「落ち着いたらまた会いに来いって言っとけ」

「はい、言っておきます」

 岩野にはそう言われた。

 ……協力者達にはすでに怪盗と知られている。そのうえで通報しなかったのだから、本当に感謝しかない。

「お母さん達は武器とかいいの?」

 悠が尋ねると、四人は大丈夫だと笑った。

「ボクは武器を変えない方が火力出るし」

「オレも同じ理由だ」

「私達は仕事の都合上、いつでも駆け付けられるわけじゃないからね」

「そうそう」

 それならいいが、とデザイアの中に入る。

 そして、鍵を持っている奴を倒して集めていく。四本集め終わり、どうするか話していると不意にピースがため息をついた。

「さて……そろそろ出てきてもらおうか」

 そしてナイフを投げつけると、いかにも極道のような男が出てくる。

「ふぅん……さすがだな、成雲の元お嬢様?」

「あんたが最後の鍵所持者か。政治家が極道を使うとは聞いて呆れる」

 どうやらずっとついてきていたようだ。気配を感じなかったから気付かなかった。

「そこの白髪の嬢ちゃん、その鍵を返してくれねぇか?」

「……断ります」

「残念だ、女子供には手だししたくなかったんだがな。それに主人はお前に執着しているみたいだから傷はつけたくないが」

 その極道がナイフを取り出す。そして一瞬にしてジョーカーの背後に回り、首元にナイフを突きつけた。

「こいつを殺してほしくなければ、大人しく渡せ」

 そして、そう脅してきた。どうしようか考えていたが、

「……分かった」

 アトーンが鍵を地面に置いた。

「ちょ、涼恵さん!?」

 クラウンが焦ったように叫ぶが、彼女は「任せて」と目で答えた。

「素直に渡せばいいんだよ」

 その極道がジョーカーを離し、鍵に近付いた瞬間、

「素直に渡すわけないでしょ、っと!」

 回し蹴りで吹っ飛ばした。そういえばこの人、情報屋で極道も相手しているぐらいの女性だった。そういうのにたけていてもおかしくはない。

「チッ……」

「おいで、ジョーカー」

 ピースがすぐに駆け寄り、ジョーカーを保護する。

「本当に慣れていますね……」

「私の場合、情報屋をやるうえではこれぐらいできないといけなかったからね」

 アルテミスの言葉にアトーンは答える。ちなみにこれが基礎でもっと鍛えないといけないらしい。強いのも納得がいく。

「さて……やっちゃいましょうか」

 エアの言葉とともに、戦闘が始まる。

 苦戦しつつも、なんとか倒して鍵を手に入れる。

「よかった……これでオタカラのもとまで行けるね」

「そうだな」

 そのままあの場所まで向かい、鍵を使う。するとそこが開いてオタカラが見えた。

「あのモヤモヤがオタカラってやつか?」

「はい。ここまで来たらあとは予告状を出して盗むだけです」

「なるほど、盗まれるという認知を持たせないといけないってわけか」

 メントの質問にハシスが答えると、アトーンが考えるようにつぶやいた。

「理解が早くて助かります」

「だったら、一度戻ろうか。どうやって予告状を出すか考えよう」

 そう言って、怪盗達は一度現実に戻り、この日は休もうと解散する。

 夜、ロディが声をかけてきた。

「なぁ……」

「どうした?ロディ」

「……ワガハイ達って、一体何者なんだろうな」

 不安げな声に双子は優しくネコ達を撫でる。

「そんな不安になるな。正体がなんであれ、お前達はお前達だろ」

「そうそう。ロディもマリアンも私達の仲間だよ」

「……ありがとう」

 いつもそう言ってくれる二人に、ネコ達は安心感を抱きながら寄り掛かった。



 数日後、予告状をどうやって出すか話し合いをする。

「さすがに直接は難しいわね……」

 川幹が呟く。涼恵も「私でも難しいかな……警備が多すぎる」と答えた。

「抜け道を探そうにも、一か月はかかるな。だから別の方法を探した方がいいぞ」

「ふっふっふっ……実はもう準備は出来てる」

 朝日が笑いながら、パソコンを見せる。それを見て、全員ニヤリと笑った。

「いいな、これ」

「そうだろ?うまく出来たと思わない?」

「ハッキングは任せてくれ。全国放送にしてやろう」

 それぞれ話し、明日決行しようと決まる。

「それじゃ、今日は朝日ちゃんを連れていくね」

 涼恵がそう言うと、白田も「了解、ボコボコにしてやれ」と笑って送り出す。

 涼恵達と帰っている途中、朝日が話しかけてきた。

「なぁ、涼恵さん」

「どうしたの?」

「その……暁の冤罪って、どうして起こったんだ?」

 その質問に、涼恵は考え込む。そして、

「……大人はいい人ばかりじゃない。それは分かるよね?」

「うん……」

「ほとんど知っていると思うけど、ほかに付け加えるとしたら……そうだね。大人って、自分の確立された地位が脅かされるとなると、どんな手を使ってでも守りたいって思うんだよ。ほとんどの人はどんなに手を尽くしても見つかっちゃうけど、奴には隠せるだけの権力があった。私ですら、情報を得るのに苦労したぐらいにはね。暁君は、そんな奴のエゴに巻き込まれただけだ」

「そっか……」

「そんな大人は後を絶たない。……本当は私みたいな情報屋とか、君達みたいな義賊がいない世の中の方がいいけど、それが出来ないから生まれるんだ。被害者のほとんどは泣き寝入りするしかないから、義賊達に希望を求めてしまう」

 涼恵の悲しげな言葉に、朝日は少し考え込んでしまう。

 ――確かに、そんな大人がいなければ怪盗団は生まれなかった。

 そしてその怪盗団に、自分は救われた。

「仕方ないことなんだよ。人間は悪人の方が多い。そして表に出なければ、誰もそれを知ることは出来ない」

 そう言いながら、涼恵は朝日の頭を撫でた。



 次の日、テレビニュースがハッキングされる。

 それは、前中 貞義に対する予告状だった。安村はそれを見て舌打ちをした。

「……最近おかしいと思っていたが……生きていやがったか……」

 その表情はいつもの「探偵王子」のものではなかった。


 デザイアに入ると、今まで以上に強い怒気が感じ取れた。

「かなり雰囲気が変わったな……」

「こんなもんすよ」

 そんな会話をしながらオタカラのもとに向かおうとすると、後ろから足音が聞こえてきた。

「チッ……めんどくせぇな……」

 振り返ると、そこには安村の姿があった。あんなに堂々と予告状を出していたら、そりゃあバレるだろう。

 事情を察したのか、大人達は一歩引いてくれた。

「……シャマシュ」

「ジョーカー、せっかく見逃したのに……わざわざこんなところに来るなんてね」

 彼は本当に悲しげに呟く。

 ――あぁ、こいつ、やっぱりジョーカーが好きだったんだな……。

 そう判断するには十分すぎた。

「悪いけど、奴のところには行かせないよ」

 その言葉には、ある種の狂気も感じ取れた。

「ごめんね、でも兄さんの敵でもあるの。安村君に構ってる暇はない」

 ジョーカーはそう言って、ナイフを構える。

 そのまま、戦闘が始まった。ほかの人達も入ろうとするが、

「余計なことはしないで!」

 とジョーカーの一喝によってすくんでしまった。

 事実上の一対一になったわけで、二人の攻防が繰り広げられていた。

「本当に君は強い、ね!」

「だてにリーダーなんでやってないよ!」

「やっぱり君がリーダーだったか」

 言い合いながら刃同士がぶつかる音が響く。罵倒しないのは男女だからか、それとも……。

「おいで、プシュケ!」

 やがて、このままでは決着がつかないと悟ったジョーカーはアルターを召喚する。それに合わせるように安村もアルターを召喚した。

 ずっと続くと思っていた打ち合いも、安村の武器が飛ばされたことによって終わりを告げる。

「くっ……!」

「……なぁ、お前、ジョーカーが好きだったんだろ?」

 ディーアが尋ねると、安村はうつむいた。

「なぁ、一緒に改心させに行かないか?」

 クラウンの提案に彼は驚いたように顔を上げた。

「オレ達は戦力が欲しい。どんな事情があるか分からないが、やり返したいんだろ?」

「……本当に、お前おかしい」

 殺そうとした人間をまた仲間に引き入れようだなんて。

 ジョーカーもクラウンと同意見らしい。ほかの人達は納得していないようだが、二人の意見なら口出ししないようだ。

「……仕方ねぇな」

 ため息をつき、安村はジョーカーの差し出した手を取った。

 改めて、オタカラのところまで向かう。中に入ると、前中が怪しく笑っていた。

「ほう、来たか怪盗団」

 そして安村の方を向き、

「やはり役立たずだな、この愚息が」

 そう吐き捨てた。それに驚いて彼の方を見ると、自嘲した笑みを浮かべていた。

「フン、なんでこんな奴の血を引いてるんだろうな……」

「あの女のガキだろ?顔がそっくりだもんな」

「てめぇ、母さんがどんな思いで俺を……!」

 安村の額に、青筋が入った。ジョーカーはそんな彼の手を優しく握る。

「……ダメだよ、奴の挑発に乗っちゃ」

「……わりぃ」

 その優しい言葉に、安村はわずかに冷静になる。

 ジョーカーの手は不思議な力があった。頭に血がのぼっていても、その手を握ると落ち着いて判断が出来るのだ。

 安村はギロッと父親だというやつを睨みつける。

「……てめぇがなんで悠を狙ってるか分かんねぇけど、絶対渡さねぇよ」

 それは彼が、自分の意志で、初めて決めたことだった。

 戦闘が始まる。安村はジョーカーの背中を守っていた。

「ジョーカー、攻撃が来る!」

「了解!」

 その姿はまるで、信頼しあう仲間のようだった。

 前中はそんな二人の快進撃に耐えられるわけもなく。

「クソッ!」

「ジョーカー、母さん達も手伝うよ」

 ピースが手をかざすと、前中の動きが封じられる。その間にアトーンとメントが二人を強化させた。

「オレも協力する」

 クラウンとネコ達もジョーカー達の中に入る。そして、全員で仕掛けた。

「「百花繚乱」」

 ジョーカーが言霊を唱えると、ただでさえ高くなっていた攻撃力がさらに上がる。

「ダークネス」

 クラウンは闇呪文を唱える。ディーアとマリアンも風呪文で前中を蹂躙していた。

「安村、引導を渡してやれ」

 クラウンがライバルの目を見る。

 ――オレ達がここまでやったんだ。あとはお前がやってやれ。

 それに頷き、安村はアルターを召喚する。

 ――前とは違うアルターを。

「来い、フォルセティ!」

 それは、正義のアルターだった。彼の、真のアルター。

「あたれぇ!」

 その気迫に、前中は避けることが出来なかった。

「グッ……!」

 その正義の剣を食らった。しかし、前中は膝をつくことはなかった。

「まだ負けるわけにいかん……!」

「チッ、しぶてぇな」

 まぁ、だからこそここまで傲慢にまみれた男になったのだろうが。

 前中が地面に拳を叩きつける。すると地面が割れ、安村とジョーカーの二人が分断されてしまった。

「くっ……!」

「ジョーカー、今……っ!」

「イーリスは皆の方を見てて!多分エネミーが襲ってくる!」

 その言葉通り、クラウン達の方はエネミーが襲ってきた。

「チッ……!」

 必死に応戦しているのが分かる。ジョーカーと安村は顔を見合わせた。

「安村君、ここで決着をつけよう」

「あぁ」

 ジョーカーは仮面に触れる。

「おいで――アストライア!」

 彼女が召喚したのは、正義の女神。天秤を片手に持っており、それで正義をはかる者。

「守って、『祝福の翼』」

 その呪文と同時に、安村が光に包まれる。

 力が湧いてくるのが分かった。

「フン、愚息が。私に勝とうなど早いわ」

「それはどうだろうね?」

 ニヤリと、安村は笑う。

 彼は仮面を投げ捨てた。それにジョーカーは驚く。

「な、なんで……」

「ジョーカー、キミは手出ししないで」

「……分かった。回復とかはさせてもらうからね」

「あぁ、それでいい」

 安村はビームサーベルを持つ。ジョーカーは一歩下がり、いつでも回復出来るように準備する。

 親子の対決が始まった。

「どうした?あの女に助けてもらえばよかろう?」

「馬鹿言え、オレ一人で十分だっての。それにてめぇは一発殴らねぇと気がすまねぇ」

 その言い合いを聞きながら、ジョーカーは仮面に手をかける。

「おい、ジョーカー。手出しするなよ」

「……はいはい」

 しかしすぐに気付かれ、睨まれる。

 ちょくちょく『祝福の翼』を使い、サポートをしていると、

「オタカラ!」

 ディーアの声が聞こえてきた。それに前中は焦り出す。

「こっちはいいから、早く盗んで!」

 オタカラを盗んだら、崩れるのは分かっている。しかし、早く盗まないと前中に妨害されるだろう。

「ジョーカー、お前……」

「大丈夫、絶対に脱出するから。だから先に逃げてて」

「……その言葉、信じるよ。悠」

 クラウンがオタカラを持つと、予想通り崩れ始める。

「逃がさん!」

 前中が追いかけようとするが、ジョーカーと安村が前に立つ。

「アストライア!」

「フォルセティ!」

 そしてアルターを召喚して立ち向かった。

「お母さん、お願い」

「分かった」

 ピースも頷き、「行くよ!」と足音が遠ざかっていった。

「安村君、行こう!」

「あぁ!」

 二人も走り出すが、その途中で目の前が崩れてしまった。

「……っ、ジョーカー!」

「えっ……!?」

 安村がジョーカーを押し出す。


 現実に戻ってくると、悠と安村がいないことに気付く。

「え、二人は……?」

 杏が不安げに尋ねる。涼恵がキョロキョロと周囲を見て、

「……悠ちゃんはいるね」

 そう告げた。

 悠は木陰で目を閉じていた。「悠」と暁が声をかけると、小さく目を開ける。

「……兄さん?」

「あぁ。……安村は?」

 姿がどこにも見えない探偵の名前を出すと、悠がハッとなる。

「そうだ、安村君は!?」

「え、悠と一緒じゃないのか?」

 信一が驚いた反応をすると、いないと勘づいたらしい。

「その……私を逃がすために……」

 悠の顔が曇る。

「……無事であることを祈りましょう」

 美佳がそう言うが、無理があると分かっているだろう。

 心が晴れないまま、この日は解散した。

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