十三章 二人の正体
悠がクラウンと一緒に朝まで起きていると、白田と朝日、ロディとマリアンがデスティーノにやってきた。
「お前、起きていたのか?」
白田に聞かれ、悠は頷く。はぁ、とため息をこぼすが、事情が事情なだけに文句は言えなかった。
「それにしても……お前は何者だ?暁……ではないよな?」
彼はクラウンの方を見て目を丸くした。クラウン自身は特に気にせず「ただ悠のそばにいただけさ」と笑う。
ほかのメンバーも朝早くから来て、暁の無事を祈る。その時、デスティーノの扉が開いた。
「――兄さん!」
「悠、ただいま」
そこにいたのは、ボロボロになったが何とか元気そうな暁と川幹。悠は真っ先に駆け寄り、兄に抱き着く。
「うー……無事でよかったぁ……」
「痛い痛い、悠落ち着いて……」
ギュゥゥウ……と強く抱きしめる妹に暁は離れるよう背中を叩く。
「暁、無事でよかった」
後ろから女性の声が聞こえてくる。振り返ると、いつの間にいたのかジョーカーが立っていた。
「あなたは一体何者なの?彼の尋問室にもいたけど……」
川幹の質問に彼女は「ただの怪盗だ。もっとも、今は怪盗稼業をしていないがな」と答える。
「あの、私も聞きたいんだけど……」
悠が恐る恐る尋ねると、ジョーカーとクラウンはキョトンとする。どうしたのだろうか?
「……ほかの人達ならともかく、お前達は気付いてるかと思ってた」
「まぁまぁ。こんな格好していたら分からないだろう。特にお前の場合はな、蓮」
「それもそうか、愛良」
……蓮に愛良?それって、確か暁と悠の親の名前じゃ……。
二人が仮面を外すと、男性の方は暁によく似ていた。女性の方も悠に似ている。
「……父さん?それに、母さん、だよな?」
「そうだよ、久しぶり」
ひらひらとジョーカー……ではなく蓮が黒い手袋を振る。
「え、なんで……」
「そりゃ、初代怪盗団って言うのか?あれはオレ達だからな」
状況が読み込めずにいると、愛良がそう答えた。
「……ごめん、よくわからないんだけど……」
さすがの息子でも、愛良の言っていることが理解出来なかったらしい。それに蓮は「言ってるそのままだよ」と微笑んだ。
「リベリオンマスカレード……かつて世を騒がせた怪盗団がボク達だったってこと」
「しかも蓮は、そのリーダーだ。それこそ悪人の心を盗んだりしていたぞ」
目の前の二人が、かつての怪盗団……。納得したようなしないような……。
カランカランと、店の扉が開く音が聞こえてくる。そこには涼恵と記也。
「おー、生きていたな」
「よかったよ、この情報が無駄にならなくて」
二人は蓮と愛良の格好については特に触れない。もしかして……。
「二人は知っていたんですか?その……母さん達が怪盗だったって……」
「もちろん。これでも昔は若き天才情報屋と言われていたものでね」
涼恵が優しく微笑む。そして蓮を見て、
「蓮、ようやく見つけたぞ。暁君に冤罪を着せた犯人」
その言葉に、怪盗達は目を見開いた。
どうやら涼恵はずっと調べていたらしい。しかしかなりの有名人で、情報がなかなか得られなかったようだ。
「ある程度予測はついていたけどな……なかなか尻尾を掴ませてくれなかった」
「すず姉、すっげぇ怖い顔しながらパソコンに向き合っていたよな。子供がすっごい怖がってたじゃんか」
「うっさい、仕方ないだろ」
涼恵がため息をつく。両親大好きな風達が怖がるとは、相当怖い顔をしながら情報を探していたのだろう。
「……っと、その前に暁君を休ませた方がいいよね。とりあえず、君達のことを紹介した方がいいんじゃないか?」
「あぁ、まぁそうだな」
涼恵に言われ、蓮は怪しく笑う。
「改めて。幻想怪盗団「リベリオンマスカレード」の元リーダーの成雲 蓮だ。コードネームは「ジョーカー」という」
「同じく、リベリオンマスカレードの元メンバーの雨宮 愛良。リーダーにこき使われていたな」
「「こき使う」の間違いだろ。何度ボクがお前のしりぬぐいをしたと思っているんだ」
ため息をつく蓮は不意に白田の方を見た。
「お久しぶりですね、白田さん」
「……覚えていたのか」
「えぇ、あの時数少ない味方でいてくれましたから」
その言葉に、双子はすぐに思い至る。
自分達の母親……蓮は暁と同じく冤罪で東京に逃げるように出てきた。味方なんて、ほとんどいなかったに等しかった。
「……俺は何もできなかっただろ」
「仕方ないでしょう、あの時は政治家の他に父も関わっていたみたいですから。あの時変に動いていたら、それこそ家族ごと消されていましたよ」
目を伏せた白田に蓮は優しく微笑みかける。
それだけ、蓮の実家もその政治家も権力があった、ということだ。そしてそれが今、暁達の前に立ちふさがろうとしている。
「安心して、みんなは母さん達が守ってみせるよ」
「あぁ、父さん達もまだまだ現役だしな」
ニコッと笑う目の前の元怪盗と情報屋達が、とても頼もしく見えた。
夜、涼恵と記也は別荘に戻るついでに送っていくとデスティーノから出る。蓮と愛良はテーブル席に座り、「頑張ったね、二人とも」と微笑んだ。
「暁も、無事でよかったよ」
「うん。心配かけてごめん、母さん……」
「謝らなくていいよ」
「悠も元気そうで何よりだ」
「昨日は心配で眠れなかったけどね……」
「父さん達がいるから、今日は安心して眠ればいい」
家族の会話を、白田は優しく見守っている。
「こうたろう、幸せそうだな」
朝日にからかわれ、白田は「まぁ、そうだな……」と柄にもなく照れる。
「……初恋の奴が結婚して、子供まで生まれていたらうれしいだろ……」
小さな声で言ったのだが、朝日には聞こえてしまっていたらしい。ニヤニヤしながら白田をジッと見ている。
「へぇ、蓮さんのこと、好きだったんだ?」
「うっせーよ。昔のことだ」
本人に聞かれていたら面白かったのに、聞こえていないようだ。しかし旦那の方には聞こえているようで、彼もニコッと笑う。
不意に、蓮が暁の手を握ると、痛みが引いていく。もしかしてと母親を見ると、微笑んでいた。
「癒しの力を使ったの?」
「うん。こういう時に使うものだしね」
コーヒーを飲みながら、蓮は優しく告げた。そして悠に手作りのお守りを渡した。
「これ、あげるよ」
「これは?」
「言霊の力を制御するお守りだよ。頑張って作ったんだ」
アハハ……と笑う母の顔は、いつくしみに満ちていた。
「これ、持ってたらみんなと同じようにしゃべることが出来るよ」
「ありがとう、お母さん」
「ごめんね、遅くなっちゃって。どうしても長い期間をかけて作らないといけなかったからさ」
母曰く、自分の力を込めるためにどんなに早くても一年はかかるらしい。悠の場合、力が強すぎるために数年以上かかったようだ。
それを受け取ると、温かなものが流れ込んでくるようだった。
次の日の夕方、集まると涼恵が資料を渡してきた。
「これ、犯人の情報」
それを受け取り、内容を見る。
「前中 貞義……近いうちに総理大臣になるのではないかと期待されている議員だ。どうやらここの地方出身らしい」
涼恵の説明を受けながら読み進めていく。
「もともと、女性関係に問題のあった奴みたいだ。暁君の冤罪事件の時も、酔っぱらって知り合いの女性に絡んでいたかららしい。問題になっていなかったのは、周囲に圧をかけていたからだね。表沙汰になったら真っ黒だ」
そこまで言って、
「まぁ、ケンカを売るにはかなり危険な人物だけど。どうする?改心させる?」
ニコッと笑いかけた。どうやら試しているらしいと、すぐに分かる。
「……うん。私は、やりたい」
最初に口を開いたのは悠だった。
「兄さんに罪を着せたんだもん。私は絶対に、許せない」
「……そうか」
悠の真っすぐな目に、「そこまで覚悟があるなら、止めはしない」と言った。
「いざとなれば、私達も協力するさ」
「協力……?」
「アルター、だっけ?私と記也も怪盗団じゃないから分からないが、同じ力が使えるんだよ」
「え、そうなんですか?」
そのことに驚く。蓮と愛良なら分かるが、この二人も?
「もともと、先祖が異世界で生まれたもんでね。私達きょうだいはその血を濃く継いだらしい」
理屈は分からないけどな、とさすがの涼恵もため息をこぼす。
「まぁ、だから一応戦闘関係でも協力は出来る」
「ただ、オレ達の場合は後方支援が主だと思ってくれていた方がいいな」
そこまで言って、蓮の方を見た。
「それでいいよな?」
「あぁ。だけどその前にキーワードが必要だな」
「多分、県庁じゃないかしら」
川幹が呟く。美佳がゲンソウナビに入力すると反応があった。
「えっと、これで……?」
「あとはなんと思っているか、ですね」
涼恵が首を傾げていたため、暁が答える。それに「なるほど」と納得したようだ。
「つまり、その人が特定の場所を何と思っているのか……そこにオタカラとやらの核がある、というわけだな」
「読み込みが早くて助かります」
さすが天才、というところだろうか。
さて、では何と思っているのかということになるが。情報が少なくてどうしても思いつかない。
「なんて言っていたのか覚えていない?」
蓮に聞かれ、暁と悠は思い出していく。
あの日、自分達にあいつはなんて言っていた?
「お前達愚民は俺の操縦に任せておけばいいんだよ」
……操縦?
「……自家用飛行機?」
暁の呟きに、ゲンソウナビが反応した。どうやらあっているようだ。
「当たっていたね」
「これは……嫌な予感がするな。ちょっと前まで行ってから異世界に行った方がいい気がする」
両親の言葉にうなずき、怪盗達は県庁前まで向かう。
そこまでは蓮が送ってくれた。
「ここだよ」
「さすが、元地元民」
「昔と場所が変わってなかったからな。変わっていそうなものだったが」
両親のいつもの会話を聞きながら、デザイアの中に入る。
一見すると、どこも異常が起こっているようには見えなかった。ロディとマリアンが元の姿なので異世界であるのは確かだが……。
「見ろ!」
記也が別のところを見て、叫んだ。
なんと、宙に浮いていたのだ。確か銀行も浮いていたが、こちらは周辺の建造物まで壊れている。
「……正義を語っているくせに、民のことなんてガン無視じゃないか」
「落ち着け、蓮。奴もモロツゥの残党なんだ、悠ちゃんの力を利用しようとしていたぐらいだからな」
蓮が怒り気味に呟くと、涼恵がそれをなだめた。
モロツゥ……?と聞きなれない言葉に全員が首を傾げていると、
「昔、オレ達を狙っていた組織だ。涼恵達が壊滅させてくれはしたんだが、あまりにも大きい組織でな。残党が生き残っていたんだ」
「出来る限り潰してはきたんだが、それでもしぶといんだよ」
愛良と記也が答えた。
「その……聞いてもいいんですか?」
美佳が恐る恐る尋ねると、「あぁ、構わない」と愛良は頷いた。
モロツゥはもともと、森岡家の研究施設の名称だった。さかのぼれば江戸時代からあったらしい。それが名称を変え、モロツゥという名になった。
ある時、一部の人達が世界を滅ぼそうと企み始めたそうだ。森岡家の者にもそれは耳に入っていたが、その研究はことごとく失敗に終わったらしい。
……しかしある時のこと。とある夫婦に不思議な力を持つ男の子が生まれた。どうやら母方の巫女の家系の力らしい。それを見て、この力を利用しようとしたのだ。
そのあと、男女の双子、女の子と四人を産み、そのために計画を立てていった。名家の当主もその作戦に乗っかっており、そこの双子の男女も利用されることになった。
しかし、その作戦はうまくいかず。その子供達の手によって計画は破綻した……。
「そんなことがあったんだよ」
愛良が淡々と答える。全員がそんなことが……と唖然としている中、暁は「あれ?」と首を傾げる。
「父さん、それって……」
「察しがいいな、暁。その通りだよ、子供達っていうのは涼恵達のことだ」
涼恵達の兄弟構成は兄、双子の姉弟、妹だ。それに、四人は巫女の家系。もしかしてと思ったのだ。
「涼恵達自身も、未来を見る力があるらしい。特に涼恵は自身の血で傷を癒すことも出来るらしいな」
「そう、なの?」
「あぁ。しかも希望や絶望がたまりにたまるとその血で他人を蘇らせることが出来るようになるらしい。そうなると死んでもその力は宿ってしまったままだそうだ」
そんな、力が……。
「まぁ、涼恵や蓮を狙ったところで、返り討ちにするがな。だからお前達に目がいった」
「あぁ。すず姉も蓮さんも強いしな。だから子供達にターゲットが向くと気付いてた。実際、風も何度か狙われたし」
そういえば、一時期風が目覚めなかったことを思い出す。あれも、もしかしてその組織が仕組んだことだったのだろうか?
「……っと、今はゆっくり話しているわけにいかないな。とにかく中に入ろう」
父親の言葉にコクッと頷く。
「ふむ……無理やりこじ開けて構わない?」
「あぁ、構わないよ、涼恵」
「了解」
涼恵が細い棒を両手に持ち、鍵穴でカチャカチャといじる。すると開く音が聞こえてきた。
「よし、開いたぞ」
「ナチュラルにピッキングしましたね」
そういえばこの人、情報屋だった……。
いつも忘れてしまうが、この人情報を得るためなら何でもする人だった。美しい顔してえげつないことをしてしまえる人だった。
「とにかく入ろう、えっと……ジョーカーとクラウン、でよかったよね?」
「あ、うん」
母親に聞かれ、双子はコクッと頷いた。
「懐かしいね、ボクと父さんも同じコードネームだった。ネコちゃん達のネーミングかな?」
「よく分かったね」
「んー?……え、もしかしてまだ思い出していないの?」
悠の言葉に一度は納得したようだったが、蓮が目を丸くする。
「お母さん、ロディとマリアンの正体知ってるの?」
「うん、知ってるよ。というより助けたの、ボクだし」
「……っ!私達の正体分かるの!?」
マリアンが蓮の方に乗り出す。蓮はコクッと頷いて「君達は……」と何か言おうとしたが、
「……いや、今はやめておこう。自分達で思い出してこそ意味があるだろうし」
小さく笑って頭を撫でた。二人は頬を膨らませたが、恩人がそう言うということは何か理由があるのだろう。
デザイアの中に入ると、怪盗服になった。蓮と愛良、涼恵と記也も姿が変わっていた。
「おー……こうなるんだな……」
「戦えそうだな。私たち二人は初心者だから教えてくれると助かる」
「そういえば、四人はなんて呼べば……?」
ハシスが尋ねると、
「オレはピースで構わないよ」
「オレはガーディアンでいい」
蓮と愛良はそう言った。涼恵と記也は二人で考えて、
「じゃあ、私はアトーンでいい」
「オレはメントでいいや」
そう告げる。恐らくアトーンメントから取ったのだろう。ジョーカーとクラウンは子供達に譲るようだ。
コードネームも決まり、一度進んでみる。
「……危ないね、敵がいる」
アトーンが呟くと同時に、エネミーが現れた。
「アトーンさん、メントさん、アルターって出せます?」
「多分、これだろうなっていうのは」
ジョーカーが尋ねると、二人は仮面に触れる。
「おいで――アテナ!」
「来い――ポセイドン!」
そして、ギリシア神話の中に登場する神を召喚した。
どうやら二人とも、万能呪文が得意らしい。それからアトーンは回復関係、メントは能力上昇系が得意みたいだ。
二人が一掃すると、振り返って尋ねてきた。
「これでいいのかな?」
「強いですね……」
これは私達の出番がなさそう……とエアが呟く。それに「いやいや」とアトーンが笑う。
「怪盗活動については君達の方が先輩だからね、君達の指示に従うよ」
「そーそー。どれがオタカラとやらかもわからねぇしな」
そういえば、この二人は怪盗活動をしたことがないんだったと思い出す。戦闘慣れしていたものだから忘れてしまいそうだ。
さらに進んでいくと、何やら大きな扉が現れた。
「この先にオタカラがあるな」
「そうなんだ」
ディーアが告げると、アトーンが彼の方をジッと見た。「そ、そんなに見られると恥ずかしいぜ……」とディーアは頬を赤くした。
「アトーンさん、ダメですよ。ディーアは女性の視線に不慣れなんです」
「ジョーカー、変なことを言うな」
「そうなんだ?一応、私人妻なんだけど」
「マジで信じらんねぇ……」
この見た目で三十代なのだ、本当に信じられない……。バリッバリ動けているし。
「とりあえず、いったん戻りましょう。このままじゃどうしようも出来ないわ」
マリーがため息をつきながら告げる。
現実に戻り、デスティーノに帰る。
「おかえり」
白田が全員を出迎える。
「そういや、こいつ死んだことになってんだよな?出かけて大丈夫なのか?」
そう聞かれ、「あぁ、悠が言霊で見えないようにしてくれているので大丈夫ですよ」と暁は答える。
「そうなのか?俺には見えるんだが……」
「悠は細かいところまで言霊が使えますからね」
「ボクの自慢の娘」
蓮が悠の肩に手を置いてニコッと笑う。「本当に幸せそうだな」と白田は優しく笑った。
「本当に蓮さんが大好きなんだな」
「うっせ、朝日」
娘に言われ、白田は顔を赤くする。
何はともあれ、デザイアも分かったことなのでいったん解散する。
「……そういや、あんた達は?暁と悠の知り合いみたいだが……」
白田がカウンター席で雨宮親子を見ていた涼恵と記也に声をかける。五月のことと言い、気になったのだろう。
「あの子達を産まれた時から見ているんですよ。今は「協力者」って体ですけどね」
「協力者?」
「オレ達、情報屋なんですよ。だから暁の冤罪事件の真相を探ってて。……相手が相手だったから、たどり着くまでに時間がかかってしまいましたけどね」
情報屋……目の前の二人が……と白田は目を丸くする。どうしてもそうは見えない。ただ、二人を見守る大人といった雰囲気があった。
「あなたも分かるでしょう?あの子達が他人を殴ったり殺したりしないってこと」
「……あぁ、そうだな」
しかし、その見抜く目は本物だと白田は分かる。
だって、あの蓮の子供がそんなことをするわけがないから。
白田は蓮が冤罪を着せられた時、そんなことするわけがないと信じていた。しかし、高校生だった白田が情報なんて得られるわけもなく。何も出来ない自分の無力さを憎んだものだ。
「……あいつらは幸せ者だな、こんなに思ってくれている大人がいるなんて」
「そりゃあ、蓮の子供が暴力なんてするわけがないですから。ずっと見守ってきた私達が言うんですから間違いないですよ」
見守ってきた。その言葉が、かなり重く感じた。
「しかし、あの茶髪の情報屋達もアルター使いだったとはな」
ロディが呟くと、「私も驚いたわ……」とマリアンも答える。
「お前らは知ってたのか?」
「いや、さすがに知らなかったよ。特に涼恵さんと記也さんがアルター使いだったなんて」
「そうなのか?だとしたらお前ら、やっぱ持ってるな」
あんな強力なアルター使いなど、初めて見た。恐らく蓮と愛良はもっと強いだろう。
「……それにしても、覚えてるか?マリアン」
不意にロディが妹に尋ねた。マリアンは「……うっすらと思い出せそうかなってぐらいよ」と答える。
「どうしたの?」
「……お前達の母親が言っていただろ?助けたって」
「あぁ、そういえば……」
「……確かに、それはあってるんだ。ワガハイ達、何者かに助けられた。でも、それ以降が思い出せないんだよ」
ロディが苦々しく呟く。マリアンも「黒衣の、人……その人が、エネミーから逃がしてくれて……」と言葉を続ける。
「その前に、あと二人いたんだ。その人達も、ワガハイ達を逃がすためにエネミーと戦っていた」
「でも、顔も姿も、何も思い出せないの……大事なことだったハズなのに……」
暁と悠はそんな二人の頭を優しく撫でる。
「……大丈夫だよ、ゆっくり思い出せば」
「そうだぞ。慌ててもいいことなんてないからな」
「……そうだな」
双子の言葉にネコ達は頷いて膝の上に丸くなった。
白衣の女性が、監獄にやってくる。
「おやおや、守り神様じゃないか」
「うるさいよ、あの子達を苦しめて」
男がニヤニヤと笑っているが、白衣の女性はただ睨んでいるだけ。
「……私の手であんたを殺していいなら、すぐにでもやってやるのに」
「おー、怖い怖い。さすが、ユミフラデスを倒しただけある」
「あんたの方が厄介よ。本当にめんどくさい」
女性がため息をつく。しかし目の前の男はやはりニヤニヤといやらしい笑みを浮かべているだけ。
「……本当に、人の子供を囚人扱いするとは、ねぇ。あいつでもそんなことをしなかったよ」
「お前を殺そうとしていたのにか?」
「彼はそれなりの理由があったわ。私がそれに気付けなかっただけ。力も、暴走していただけだしね。でも、あんたは世界を滅ぼすという、ただそれだけのためにあの子達を利用しようとしている。私が許せるとでも?」
「フン、手出し出来ないのに何を言っているんだ」
椅子にふんぞり返った男に冷たい目を向ける。
「……本当に趣味が悪い」
「お前が守ろうとしている人間が望んだことだろう」
「あんたと話しても意味ないね。首を洗って待ってろ」
女性は男に背中を向け、歩き出す。
青い瞳が、冷たく光った。