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十一章 予想出来た、想定外の展開

 奥木のことを不安に覚えながら、協力者達とだんだん親密になっていったり、アザーワールドリィに行ったりと結果が出るまで出来ることをやっていく。

 そんなある日の夜、悠がアザーワールドリィでエネミー達を倒していると不思議な扉があるのが見えた。

(なんだろ、あれ……)

 近付いてみると、それが開く。意を決して入ると、どこか懐かしい雰囲気を覚えた。

「……ここは……」

 どこだろうか……?

 歩き回っていると、古い村が見えてきた。

(なんだろ……?)

 人影があるが、エネミーではなさそうだ。なんだろうと思いながら近づく。

 なんと、それは教科書でしか見たことのない古代の人達だった。どういうことだろうか?

 遠くから見ていると、ひときわ目立つ白い髪の女性がいることに気付いた。

(……きれいな人……)

 なぜか、そんなふうに思った。異質な存在のハズなのに、その人から目を離すことが出来なかった。

 その人が悠の方を向く。その瞳は悠と同じ、青だった。

 ハッとなると、既にその場所は消えており、アザーワールドリィに戻ってきていた。

 首を傾げながら、悠は現実に戻る。デスティーノに帰ると、暁がバイトから帰ってきていた。

「おかえり、悠」

「ただいま、兄さん」

 温泉に入ってくるね、と準備していると暁が「何かあった?」と聞いてきた。

「……実は……」

 先ほどあったことを話すと、「そうなんだ」と目を丸くしていた。

「珍しいこともあるものだね……」

「うん……」

 それじゃ、また後で……と悠が温泉に行くと、窓際から風を感じた。振り返るとクラウンが座っている。

「やぁ」

「クラウン、そこ危険だからやめて……」

 ヒラヒラと手を振ってくるクラウンに暁は苦笑いを浮かべながら告げる。「お前は心配性だな」と笑いながら着地した。

「ネコ達は寝ているんだな」

「うん。まぁ、コーヒー淹れるよ」

 二人で下に降りて、暁がコーヒーを淹れる。

 コーヒーを置くと同時に悠が帰ってきた。

「あ、クラウン。来てたんだ」

「あぁ、こんばんは」

 悠は一度二階に上がり、戻ってきた。

 暁が悠の前にも置くと、クラウンの隣に座る。

「クラウン、今日はどうしたの?」

「お前達の様子を見に来たんだ」

 クラウンが二人の頭を撫でると、二人は頬を染めた。まるで父親に撫でられているみたいだ。

「悠は大丈夫か?この間言霊を暴走させてしまったが」

「うん、大丈夫だよ」

 苦笑いを浮かべながら、悠は答える。「それならよかったが」とクラウンは笑った。

「ジョーカーも心配していた。今度、顔を見せた時にでも安心させてやってくれ」

「そうするよ」

「ご馳走様、また来る」

 クラウンが立ち上がり、そのまま行ってしまった。相変わらず風のような人だと思いながら片付けた。



 そうして、記者会見の日。皆で集まってテレビを見ていた。

 悠はやはり、胸騒ぎが収まらなかった。むしろひどくなっている。

 そういう予感ほど、よく当たるものだ。奥木は会見中、急に苦しみだした。

「な、なんだ!?何が起こっている!?」

 優士が驚いた声を出す。

 画面越しの奥木は血を吐き、喉をひっかき始めた。そこで放送は中断される。

「…………」

 悠は信じられないと目を見開いていた。

 ――なぜなら、それは夢で見ていた光景だったから。

(なんで、なんでこんなことに……?)

 思い出すのは、倒れ込んだ奥木のフェイクとあの黒い影。

 ――本人のフェイクを殺したら、現実でも死ぬ。

 いつだったか、ジョーカーが言っていたことを思い出した。もしかして、あの人物は奥木を……?

「どういうことだよ!?いつも通りしただろ!?」

「ワガハイ達も分かんねぇよ!なんでこうなってるのか……!」

 信一がネコ達に詰め寄る。悠が「落ち着いて」となだめた。

「……今後のことを考える方が先だよ。奥木さんはなんかあったらすぐ連絡して」

「う、うん……」

「なんでお前はそんな冷静なんだよ!」

 信一に怒鳴られ、悠はビクッと震える。

「おい、信一。あまり冷静さを欠くな」

 暁が庇うように立つが、悠が「大丈夫……」と目を伏せながら告げた。

「こういう時こそ、どうなっていくか見ていかないといけないんだよ。それから行動しないといけないし……」

 泣きそうになるのをどうにかこらえる。

 あの時、止められていたらもしかしたら……。

 そんなことを思いながら。

 その夜、ジョーカーがやってきた。

「その……大丈夫か」

 ソファ席に座り、ジョーカーは尋ねてきた。

「……うん」

「大丈夫じゃないね。ほら、これあげる」

 沈み気味の悠にケーキを渡す。元気を出せ、ということだろう。

「……そうだな、お前達は罠にはめられた。それは分かるな?」

「……うん」

 真剣な表情のジョーカーに二人は頷く。「奴らはお前達の首を狙っている」とジョーカーは続けた。

「……危険な綱渡りだ。それでもするというならば、この危機を乗り越える方法を教えよう」

 その言葉に、双子は顔を見合わせた。

 危険な、綱渡り……。

 でも、これをしないと怪盗団の無実は証明されない。

「……分かった、教えてくれないか?」

 暁の言葉に、ジョーカーは「分かった」と優しく微笑んだ。



 日に日に怪盗団の悪評が広がっていき、みんなの士気も下がっていく。

 それを見ていた悠は不意に「あの」と口を開いた。

「怪盗団、やめていいよ……」

 その言葉に、全員顔を上げた。

「君は突然何を言っているんだ?」

「そのままだよ。……ここは私達が責任取るから」

「責任取るって……自首するのかよ?」

「そうじゃない。……オレ達は何もしていない。だから潔白を晴らすんだよ」

 暁と悠はジッと見ていた。……その瞳は本気だ。

 何をする気なのだろうか?

 怪盗達は何を考えているのか分からない双子に、恐怖を覚えた。

「だから、やめていい。危険な綱渡りをするから」

 危険な……。

 双子はそこまでして、潔白を晴らそうとしている。それなのに自分達は……。

「悠、一度アザーワールドリィに行こう」

「うん、作戦を練らないといけないし」

 二人だけで行こうとしている双子を、ネコ達が止めた。

「おい、待てよ」

「どうした?」

「私達も行くわ」

 その言葉に、二人は目を丸くした。

「……無理しなくてもいい。身を隠せる場所に……」

「そういうわけにいかないわ」

 美佳が双子をジッと見た。

「……あなた達、何をしようとしているの?」

「それは教えられない」

 これは、ジョーカーから聞いたことだ。

 ――生還トリックをすればいい。

 奥木を殺した奴は確実にお前達を殺しに来る。恐らく、どこに逃げても逃してはくれない。だから、異世界を使うんだ。

 そのためなら、オレとクラウンも協力しよう。お前達が死なないように、精いっぱいサポートしてやるさ。

 ……そう、言われた。

「……なんでだよ……」

 信一が拳を机にたたきつける。

「なんで教えてくれねぇんだよ!?」

「みんなを巻き込むわけにはいかないからだよ」

「それが逆に迷惑なんだよ!」

 信一の怒鳴りに双子は驚いた表情を浮かべたが、お構いなしに続ける。

「仲間なんだろ!?だったらもっと頼れよ!二人で解決しようとすんなよ!」

「そうだな、それは同意見だ」

 優士も頷く。ほかの仲間達も双子の方を見ていた。

「そうよ。あなた達だけの責任じゃないわ」

「それに、悠は止めていたのに私達が無理やり進めちゃったじゃん。暁だって、悠の話を聞いていたハズだし……」

 美佳と風花もそう答えた。それに双子はうつむく。

「二人で何でもやるな」

「私達も背負うから……だって、仲間なんでしょ?」

 ネコ達の言葉に悠は「……そう、だけど……」と呟いた。

「だったら、頼ってくれよ」

「そうだぞ!私だって出来ることはやる!」

「私も、お父様を殺した人がほかにいるなら知りたい。手伝わせてよ」

 暁は悠の方を見る。悠も悩んでいるようだ。

「……そう、だな……」

「……うん。ごめん……」

 何も相談せずに二人だけで解決しようとしていたこと。二人はそれに謝った。

「別に謝る必要ねぇよ」

「えぇ。何か分かったのなら教えて?」

 優しく言葉をかけ、二人を安心させる。そうさせてしまったのは自分達だ。

 二人は事情を説明し始める。聞き終えた時にはみんな、顔が青くなっていた。

「……は?あいつか……?」

「……うん。だって不自然だったもん」

「信じられないけど……」

 双子が確証もなく他人を疑うことなんてしない。だとしたら……。

「安村君が、私達をはめたの……?」

「うん、多分そうだと思う。……だって、あの時ロディとマリアンの声が聞こえているハズがないんだもん」

 二人の言葉は、本当だということになる。

「目を光らせてみるわ」

「そうしてくれ」

 美佳が告げると、暁はコクッと頷いた。


 その夜、ネコ達を撫でていると、

「なぁ……いつから気付いていたんだ?」

 ロディに聞かれた。二人はキョトンとして、

「……最初から、違和感はあったよ」

「でも、思い出したのはつい最近だ」

 ――クレープを食べに行くの?

 社会科見学に行ったあの日、クレープという言葉を発したのは……マリアンだけだった。

「正直、日常会話だから見逃すよな。悠には感謝しかない」

「私も一瞬、流しちゃったから……あの時気付いてたらよかったけど……」

 涼恵や佑夜がジュシェの時言っていたことは、きっとこれだったのだろう。

「本当に、あの時気付いてたらよかった……」

 悠の小さな震える声にマリアンはただ手を添えるしか出来なかった。



 テレビでは連日、怪盗団に対する批判が流れていて、ついには懸賞金までかけられることになった。

「…………」

 双子はそれを複雑そうに見ていた。

「どうしたんだ?お前ら」

 もちろん、事情を知らない白田は不思議そうな目を向ける。

 学校でも、学園祭が近いというのに怪盗団の悪評は後を絶たない。それでも活動をやめるわけにはいかなかった。

「今日のターゲットは……」

 暁と悠が確認しあう。最近は皆で集まっても二人で行くことも多くなっていたが。

「……私達も行く」

 杏が呟いた。

「もう少し休んでてもいいんだぞ」

「でも、ずっと二人で行ってるじゃん。これ以上二人に迷惑をかけるわけにいかないよ」

「気にしなくていいのに」

 実際、双子はアルターをたくさん使えるためまだ心が落ち着いていないのなら無理してついてこなくても構わない。

「だって、私達みんなで怪盗団だろ?だったら行きたい……」

 朝日が杏と同じようにそう言ってくる。双子は顔を見合わせて、

「……それなら、行こうか」

「でも、戦闘が難しそうなら車で休んでていいから」

 そう言って、久しぶりに怪盗団全員でアザーワールドリィに入った。

「来い!エレボス!」

「おいで!プシュケ!」

 双子は問題なくアルターを召喚できるのだが、ほかの人達は心が乱れているのか、なかなか召喚できなかった。

「……やっぱり、帰ろうか」

 二、三個依頼をこなして、ジョーカーが告げる。なんでと顔をあげると、

「あんまりこういうこと言いたくないけど、戦えないなら足手まといになるだけだよ。それなら安全なところで待機してくれた方が心配せずにすむよ」

 厳しいことを言っているようだが、それはジョーカーなりの気遣いであり事実でもあった。クラウンは、ここはリーダーが言うべきだと思ったのか口をはさんでこなかった。

「……明日、もう一回みんなの決定を聞くから。だから今日は戻って考えた方がいいと思う」

 その言葉に、全員何も言えなかった。


 解散し、双子はネコ達を洗う。その時は無言だったが、双子が温泉から戻ってきた時ネコ達が声をかけた。

「なぁ……」

「どうした?」

「ワガハイ達、怪盗を続けるぜ」

 その言葉に、「……そうか」とそれぞれネコ達を抱いてベッドに座る。

「私達、ずっと考えてたの。このままでいいのかって」

「でも、お前達を見てて迷っている暇はねぇって思ったんだよ」

「だって私達、あなた達の「相棒」だもの」

 だから、一緒に戦う。

 そう言ってくれたことに、二人は安堵する。彼らだけでも傍にいてくれるなら、安心できるのだ。

「よし、それなら今日は一緒に寝るか」

「いいね、そのまま寝ちゃおう」

「ちょ、狭いだろうが!?」

「潰れる潰れる!」

 双子がベッドに飛び込み、そのまま寝る体制になる。

「……ねぇ、ロディとマリアン」

「どうした?ユウ」

「……もしかして、二人はさ……」

 悠が何か言おうとしたが、

「……ううん、何でもない。ごめんね」

 ここで言うべきではないだろうと、のどの奥にしまった。「気になるじゃない」と言われるが、「いずれ言うよ」と笑ってそのまま目を閉じた。



 次の日の放課後、デスティーノに集まる。暁と悠は特に口を開かず、本やスマホを見ていた。

「……なぁ」

 信一が声を出すと、二人は顔を上げた。

「……あの後、考えたんだ」

「……あぁ」

「俺達、怪盗を続ける。だって俺達は奥木を殺してないだろ?」

「……どうやら、覚悟は決まったみたいだね」

 それならいい、と双子は微笑んだ。

「だったら、今度からちゃんとお前達の装備も準備してくるよ」

「それから、少し話し合いをしようか。次のターゲットは慎重に選んだ方がいいから」

 それに全員がコクッと頷いた。

「……安村君は多分、私達に接触しようとするんじゃないかな?」

「そこでどうにかして嵌めたいが……どうしようか……」

 あ、もう嵌めることは決定なんだ……と苦笑いを浮かべる。この双子、時々考えていることが恐ろしい。

「……そうね。いい考えがあるわ」

 美佳、お前までそっち側にならないでくれ。

 そう思ったが、何も言えなかった。なぜなら美佳は参謀役だから。

「暁、ちょっといいかしら?」

「なんだ?」

 美佳の言葉に、暁は仕方ないとため息をついた。



 学校内でもあまり目立たないように過ごしながら、学園祭の日になる。土日に開催されたため、優士もやってきた。

「おー……すごいな……」

 優士の言葉に杏が「そうでしょ」と胸を張る。ちなみに暁と杏のクラスはメイド喫茶をやっているらしい。悠と信一のクラスは休憩所になっているようだ。

 そのメイド喫茶に入ると、見知った顔があった。

「あれ?君達は……」

「安村?」

 そう、安村だ。メイド喫茶に用事……というわけではなさそうだ。話しかけられていたからだろう。

 いい口実が出来たとばかりに安村は彼らに近付く。

「やぁ、悠君に暁君」

「なんだ?」

 暁が悠を守るようにさりげなく立つ。気付いていないのか、「少し話さないかい?」と安村は提案してきた。

「……まぁ、いいが」

 その返答に彼はニコッと笑いながら「じゃあ、こっちに……」と手招きしようとすると、遠くで不穏な空気が漂っていた。

「ごめんなさい、少しあっちに行っていい?」

 口ではそう言いながら、足はそちらの方を歩き出している悠に慌ててついていく。

 そこに向かうとどうやら不良が女子生徒に絡んでいるようだった。最近はそういうことも多いよな……なんて思っていると悠が前に出た。

「なんだぁ?この気弱そうな奴」

 悠は女子生徒を守るように立ち、不良達を睨んでいる。「達」と言っているように、複数人いるのだ。

(ちょ、何考えてんだあのバカ!?)

 安村が一歩踏み出そうとした時、「……営業妨害」と悠が呟いた。

「はぁ?」

「営業妨害だって言っているの。お酒を飲んでいるのか威張りたいのか分からないけど、別のところでやってくれない?」

 そう言いながら、兄に目で合図を送る。暁はコクッと小さく頷き、女子生徒のもとにやってくる。

 その時だった、不良が悠を殴ったのは。

「こんのクソ野郎が!なめんじゃねぇぞ!」

 どうやらさっきの言葉に激情したらしい。悠は口の中を切ったのか、端から血が流れだす。

 しかし、彼女は「ふふっ」と笑った。

「この程度なんだ?」

「あ?」

「この程度の痛みなら、どうってことないね。兄さんの痛みに比べたらなんてことない」

 そう言いながら睨みつける。その威圧に恐怖心を覚えたのか、不良達が逃げて行こうとするのだが、

「あなた達ね、暴れてる不良ってやつは」

 宮野と上山がやってきた。宮野は悠が口から血を流しているのを見て驚く。

「ちょ、大丈夫!?」

 それに悠は一つコクッと頷くだけ。これぐらい、悠からしたらどうってことない。

 だって、これ以上に痛くて苦しくてつらい時があったのだから。

 そんなのに比べたら、この程度の怪我はかすったようなものだ。

 とりあえず、不良を教師達に任せて安村達とともに中庭に向かう。学園祭でみんな回っているのか、意外と人はいなかった。

「……それで?何か用か?」

 暁が尋ねると、安村は「そう警戒しないでよ」と人のよさそうな笑顔を浮かべる。

 これも、相手をだますためのものなのだろう。

 分かっていると、どうしても滑稽に見えてしまう。だが、それを悟られるわけにはいかない。

「僕は、君達が怪盗団だと思っている」

 案の定、安村はそう切り出した。

「何か証拠があるのか?」

 優士がギロッとにらみつける。確かに、探偵なら証拠があるだろう。

 そう言われるのが分かっていたのか、彼は「写真がある」とスマホを見せてきた。そこには確かに、異世界から戻ってきた怪盗団の姿が映されていた。

 これは確かに言い逃れ出来ない。ため息をつき、「……それで?通報でもするのか?」と暁が尋ねる。

「それでもいいけどね。僕は君達が奥木を殺したと思っていない」

「それはまた、どうして?」

 警戒しながらも、悠が口を開いた。「悔しいけど、今までの活動を見ていて突然人を殺すとは思えない」と安村。

「それに……見たんだ」

「見た?」

「うん、おそらく、奥木を殺した犯人を」

 なるほど、そう来たかと思ったが、ここは騙されたふりをしようと「そうなのか?」と驚く。視界の端では美佳が信一を肘で小突いていた。ボロが出ないためだろう、出来る参謀役で助かる。

「……誰かは分かるの?」

「いや、分からなかった。顔は見えなかったんだ……」

 ごめん、申し訳なさげに謝ってくる。まぁ、それはどうでもいい。

「……で?オレ達にどうしろと?」

 早く本題を出せ、と遠回しに言うと、

「簡単なことだ、怪盗から足を洗ってほしい」

 安村はそう、告げた。

「次のターゲットを指定するから、その人を改心させたらやめるんだ」

「……そうか」

 双子は顔を見合わせる。そして、

「アジトで話し合いしたいから、一度持ち帰っていいか?」

「別に構わないよ。ゆっくり考えて」

 そう言って安村はその場を去っていく。

「……はぁ」

 その背中が見えなくなったところで、悠が息を吐いた。

「本当にひやひやした……」

「そうだな……特に信一が何かへまするんじゃないかって思った……」

「なんで俺だけなんだよ!?」

 暁の言葉に信一がツッコむ。

「でも、実際そうね」

「信一は分かりやすい」

「うんうん。私も分かりやすい方だけど……」

「私も心配だ……」

「そうね……新参の私が言うのもなんだけど……」

 全員に言われ、信一はガックリする。

 とにかく、今は学園祭を楽しもうと回ることにした。


 学園祭が終わり、解散する。

「兄さん、私は優士君と一緒に帰るから」

「あぁ、分かった」

 悠がそう言って先に帰ってしまう。と言っても恐らく少し店に寄ったり食事をしたりしながら帰るのだろう。それなら慌てて帰らなくてもいいかと校舎内を回っていると、あきからチャットが来た。

『先輩、お時間があれば一緒に後夜祭を回ってみませんか?』

 それに少し考え、

『分かった、すぐそっちに行く』

 そう返信すると『ありがとうございます!中庭にいます!』と文面だけでも分かるほど浮かれていた。

 中庭に向かうと、あきが立っていた。

「先輩!」

「悪い、遅くなったな」

「いえ!私が連絡するのが遅かったので」

 そのまま、二人で後夜祭を回る。

「……私、妹がいたんです」

 その途中、あきが口を開いた。

「一緒に、新体操で世界を取ろうって約束していたんです。でも、交通事故で亡くしちゃって……」

「……そうだったんだな」

 それだったら、確かに精神的にも弱ってしまって結果どころではなかっただろう。

「……ですよ……」

 途中、ちゃんと聞き取れないところがあったが気にしなかった。



 そうしてデスティーノに戻る途中、悠と合流した。

「兄さん、今帰りだったんだ」

「悠も、もう少し優士と一緒にいてもよかったんだぞ」

「ううん、白田さんも心配しているだろうからね」

「相変わらずだったわよ……」

 マリアンが顔を出してため息をつくと、ロディも同じように顔を出して「想像つくぜ……」と答えた。

 デスティーノまで戻ると、朝日が店前に座っていた。

「おう、二人とも」

「あれ?帰ってなかったの?」

「暁と悠、待ってた」

 えへへ……とはにかむ朝日にほのぼのしながら店内に入る。

 そこには、渋い顔をした白田がいた。

「どうしたの?こうたろう」

「……これ、どういうことだ?」

 ズイッと前に出されたのは朝日に出した予告状。

「おい、お前捨ててなかったのか?」

 ロディが慌てた様子で朝日に尋ねる。朝日は「だ、だって、大切なものだったから……」と目を伏せてしまった。

「事情を聞かせてもらおうか?なんで犯罪者と会わせた?」

 白田がギロッと双子を睨みつける。二人はたじろいだが、ここは事情を説明しないと、と覚悟を決めた。

 三人で座り、白田と向き合う。

「確かに、朝日を外に出してくれたのは感謝している。だが、なんで危険な奴と合わせたんだ」

「それは……」

「思えば、怪盗の改心にはお前達が必ずそばにいた。誰が怪盗か知っているんだろ?」

「や、やめてよ!」

 白田の問い詰めるような言葉に、朝日が叫ぶ。

「私、二人に助けられたんだよ!」

「は?どういうことだよ?」

「怪盗はオレ達だ」

 白田がキョトンとしているところに、暁がそう打ち明けた。それに彼は暁と悠を交互に見ながら目を丸くしていた。

「こいつらが、怪盗?じゃあ俺は、怪盗とやらをずっと匿っていたのか?」

 そして、頭を抱えてしまった。今や怪盗は殺人犯と言われ、さらには最近の廃人化事件の首謀者とさえ言われてしまっているのだ。頭も抱えたくなるだろう。

「信じらんねぇ……」

「黙っててごめん……」

 思えば、白田には迷惑をかけてばかりだ。追い出されるかもしれない……と覚悟していると彼はため息をついた。

「俺も気付けなくて悪かったよ」

 そして、なぜか謝ってきた。

「あいつから預かってるっていうのに、何も知らんかったなんて顔向けできねぇな……」

「えっと……」

「まぁ、警察に突き出すなんてことはしねぇよ。でも、なんでこんなことになった?」

 これまでの行動上、人殺しは絶対にしないと分かっているのだろう。

 しかし、分からないと三人は首を横に振る。それを見て「そうか……」と白田は困ったような表情をした。

「まぁ、お前達の母親にも言わないでおくよ。……まぁ、あいつのことだからなんとなく気付いている気がするけどな」

 飯、準備してやるよと白田が立ち上がる。朝日は糸が切れたように机に突っ伏した。

「緊張した……」

「……ごめん」

 悠が朝日の頭を撫でる。自分達のせいで巻き込んでしまったのだ、本当に申し訳ない。

「……あいつは……蓮はな……」

 白田が何か話そうとしたが、

「……いや、何でもない。すまない」

 結局、口を閉ざしてしまった。

 そのあと、チャットでそのことを伝える。

『それは申し訳ないことしたわね……』

『そうだな……』

 全員が罪悪感を抱いている。それも仕方ないことだ、自分達は今までだましていたのだから。

 だからこそ、今回の計画は成功させないといけない。



 次の日、双子は朝日と話していた。

「これ、本当に異世界で使える?」

「あぁ、使えるはずだぞ。まぁ再生機能だけだけどな」

 自慢げに言う朝日に二人は「ありがとう」とお礼を言う。

 それにしても。

「これ、どうしたの?」

「裏サイトにあったんだ。無料だったんだよなー」

「裏サイトって……」

 涼恵と記也を思い出してしまう。あの二人、裏社会でも有名なアトーンメントとそのメンバーだから。

(いやいや、まさか……)

 彼女達は犯罪に使われないようにそれを自分で管理しているらしい。だから世に出ているのはあり得ない。

 そもそも、なんで裏サイトを見ているんだ……というツッコミは胸の奥にしまっておくことにする。

「さて……それじゃあ、作戦開始と行くか」

 朝日の言葉に、双子とネコ達は笑った。

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