プロローグ 始まりの終わり
先に言っておきます、日常に重きを置いているため、おそらく今までの作品の中で一番面白くないと思います。
しかし、さらに続編に繋がるための物語でもあるためご了承ください。
――助けて……トリックスター……。
その声と共に黒と白の髪を持つ女性はガバッと起きた。
「どうした?蓮……」
隣で寝ていた男性が女性の名前を呼んだ。蓮と呼ばれた女性は「シャーロックとテミスに呼ばれてる」と答える。
「ごめん、ちょっと子供達を見ていてくれる?」
そう言って、女性は服を着て外に出た。
スマホを持って赤いナビを入力する。すると周囲が歪んだ。
女性――蓮は黒いロングコートの姿になっていた。髪も黒色だけになっている。
――この姿も久しぶりだな……。
そう思いながら、渋谷の地下鉄の方へ向かう。
辿り着くと、そこからさらに地下へと降りていった。違和感を覚えながらやがて最深部まで来ると、本来なら開かない扉の前に立った。すると、そこが開く。遠慮なしに中へ入ると、そこは青い牢屋だった。
そして違和感は確信に変わる。
――変な力に浸食されてる……。
かつて己が倒した神とは違う、別の神の力を感じた。多分、人間の欲望が再び悪い神を生み出したのだろう。
蓮はシャーロックとテミスのところへ向かう。彼らはかなり強いエネミーと戦っていた。
「加勢します!」
蓮は二人の前に飛び出し、仮面に触れた。
「サタナエル!」
パキン、と音を立てて仮面から悪魔の王が現れる。
闇呪文を唱えると、目の前にいた敵――エネミーは消えていく。だが、次から次へとエネミーが現れ、キリがない。
最初は順調だったが、少しずつ体力と気力が失われていく。もう少しで切れるというところで蓮が気配を消すために壁を作り、三人は僅かな休息を得る。
「……どうします?ここは、もうすぐで完全に敵の手に落ちると思いますが」
蓮が息を切らしながらシャーロックに尋ねる。ここまでボロボロになった彼女はなかなか見ない。
「……トリックスターよ。しばらくの間、お前に任せる」
シャーロックは人々の僅かな光――希望から二匹のネコを作り出した。白ネコと、黒ネコの二匹を。
「私が引きつけます。その隙に我が母は逃げて」
テミスが言うと同時に、敵の前に飛び出した。エネミーがそちらに夢中になっている間、蓮は白ネコと黒ネコを抱き上げて走り出した。
地下鉄の出口までもう少し――そのところでエネミーにはばかれる。
「チッ……!ネコちゃん達、ここでじっとしてて」
蓮は二匹をがれきの隅に降ろすと、仮面に触れ「ミカエル」と今度は大天使を呼び出した。
攻撃を避けながら光呪文を放ち、エネミーを一掃する。周囲を見渡し、エネミーがいないことを確認した後、二匹の元に戻る。
「ごめんね、怖がらせたよね」
蓮の言葉に二匹は首を横に振る。
入口まで来て、蓮は車を取り出す。そして痛む身体を耐えて遠くまで向かった。
走らせて、走らせて、着いた場所は東京とは違う場所だった。そこはかつて蓮が住んでいた、いわば地元のところだった。
「いいか?この世界はお前達と「トリックスター」にかかっている」
蓮は言いながら車を止めた。
「トリック、スター?でも、あなたがそのハズじゃ……」
その程度の知識はシャーロックに入れてもらったようだ。蓮は首を横に振る。
「オレは、「昔」のトリックスターだ。もう、役目は終えている。……だから、お前達が新しいトリックスターを見つけるんだ。そして、人間が作った怠惰の神を……「統制神」を倒してくれ。もちろんオレも、出来る限りのことはする」
その統制神はこの場所の地下鉄の先に潜んでいるに違いない。なぜならかつて見に行った時より異様な空気が漂っているから。
「ワガハイ、達は……」
黒ネコが俯いた。蓮は優しく微笑む。
「大丈夫、お前達ならやれる」
その時、地下鉄の方からエネミーのうめき声が聞こえてきた。
「くそっ!時間がない、早く逃げろ!」
蓮がナイフを持って応戦する。二匹はその様子を見ていたが、
「何をしている!?逃げろ!早く!」
蓮が叫び、二匹は顔を見合わせた後、共にどこかへ行った。
蓮はそれを見送った後、車に乗ってエネミーをひきながら帰っていった。
家に戻ると、男性は蓮を呼んだ。
「大丈夫だったか?」
「……いや、もう手遅れだ。幻想世界は敵の手に落ちた」
「……そうか」
「愛良、あの子達の様子を見に行っていい?」
そう尋ねると、愛良と呼ばれた男性は「あぁ、二人共さっき寝たばかりだ」と言って部屋に連れて行った。
中に入ると、二人は寝ていた。疲れているのだろう。頬には僅かに涙の跡があった。
「……ボク達は、この子達に残酷な運命を背負わせなきゃいけない」
蓮は悲しげに呟いた。可愛い我が子なのだ、自分と同じ運命を背負わせるのはやはり心が苦しいのだろう。
しかし、運命とは残酷で。歴史は繰り返すというもので。この二人も蓮や愛良と同じ運命に巻き込まれてしまったのだ。
「……オレ達が、手助けしてやればいい。オレもお前も、こいつらの協力者だろうからな」
「……そうだね」
蓮は二人の頭を撫でた後、部屋に戻り鍵のかけた箱を開いた。
そこに入っていたのは二つの同じ形の仮面だった。
「まさか、これを使う日が来るとはね……」
それを片方持ち、なぞる。蓮の瞳からは一筋の光が流れた。