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19.侯爵令嬢10

※登場人物の簡易説明を一番下に入れました。

 

 夜会でなにかの話題のとき、フェアクロフ公爵令息が話した。

「妹は良い友人を得ました。彼女が言うように、妹が社交界で公爵家を盛り立ててくれているから、自分は得意分野に集中することができます」

 フェアクロフ公爵令嬢が誇らしげに少しばかり顎を上げた。頬が上気していて、セシリアがその様子を微笑ましい気持ちでながめていると、第二王子殿下もそんな感じで、ふと目が合った。思わずセシリアは口元を緩め、後から「ふたりでアイコンタクトを取るなんて」と公爵令息に焼きもちを焼かれた。


 コフィ伯爵令嬢はときおり、ガードナー伯爵子息の愚痴をこぼす。

「とても良い方なんですけれど、ちょっぴり疲れることもありますの」

 騎士団で活躍する騎士の体力と令嬢のそれは比べ物にならないだろう。セシリアも及ばずながら、折に触れて加減について話す。


 ギルバートが最近、ガードナー伯爵子息に教わって乗馬を始めた。

「彼は筋が良い!」

 ギルバートの体調は日増しに良くなっている気がする。

「姉上はこれからはご自身のことを第一にお考え下さい」

 フェアクロフ公爵令息との婚約話が持ち上がったとき、ギルバートはそんなふうに言った。

 ギルバートは社交界デビューも果たし、次期宰相として父親を手伝い始めた。父が涙ぐんでいたという話をしてくれた執事の目元も濡れていた。


 母とも関係が改善したと思う。きっとそれはフェアクロフ公爵子息との婚約が大きな要因だろう。

 そのフェアクロフ公爵令息は「氷の」と冠されていたが、溶けてしまったようだ。その熱はセシリアにも伝わって来る。


 そして、アンジェラはといえば、状況から死亡したとみなされていた幼馴染兼婚約者がひょっこり戻って来、感涙とともに彼と婚姻した。

 婚約期間があったのかどうか、セシリアがその噂を聞いたときにはすでに結婚していたのだ。

 ただ、アンジェラの幼馴染は生活力がなかったのだそうだ。


 魔導書曰く『ちゃっちゃと伝説の薬草を見つけ出してくるようなミラクルガール』であったアンジェラはしかし、セシリアのように努力の上で身に付けた知識や経験などは持たない。だからか、幼馴染との結婚生活は長く続かなかったと聞く。


『なんでもそうよね。今やっていることは成功を収めないかもしれないかもしれないけれど、ムダではないわ。セシリアがそうだったようにね』

 セシリアは努力を続けてきた。それは令嬢としては珍しい事柄ばかりだった。けれど、それが花咲き、その花を愛でる者があらわれたのだ。


 セシリアの元婚約者だったイームズ侯爵子息ハロルドは目に余る振る舞いの数々を理由に廃嫡された。




 ずっと恐怖に苛まれていた。

 三年の時が巻き戻ったということは、また「あの時」を迎えるのではないか。ふたたび裏切られ、焼けつくような痛みを味わうのではないか。そして、自分が原因で家族にも不幸がもたらされるのではないか。

 そう考えると心臓が握りつぶされるような心地になる。


「わたくしは確かに、裏切られました。あの記憶はまだ生々しく、忘れられそうにはありません。あのふたりの姿を見るだけでも動悸息切れがしそうですわ。でも、」

 でも、だからと言って、この憎しみにずっと捉われ続けていたいわけではない。


「それが分かったのは、あなたのお陰なのです」

 魔導書に導かれ、ふたたび不幸が起きないように、家族を不幸にしないように、必死になって行動した。

「わたくしだけでは、きっと行動を変えられなかった」

 苦手なことから目を背け、忌避したままだっただろう。


「自分が持たなかった観点で物事をとらえ、とにかくやってみて、初めて分かることもあったのです」

 だから、今までなら出しゃばりではないかとしなかったであろう、公爵令息に薬草茶を出すということをした。

 そうしたら、最新の蒸留器アランビクについて教わった。


『って、ちょっと、結局は自分が興味を持っている話かーい!』

 タイミングよく白紙につづられる言葉の羅列に、セシリアは思わず顔をほころばせる。

 こういうのを「突っ込み」というのだそうだ。魔導書に教わったことだ。

 そう、会話をテンポよく進めることも、こういうやりとりから学んだのだ。なんなら、会話の中身よりもテンポよく楽しくそのときを過ごしたという印象だけが残ることもあるのだ。


 だから、今までなら嫌味を言われたらすごすごと退散して嫌な気持ちだけを抱えていたが、公爵令嬢に対してとっさに切り札を切ることができた。

 そうしたら、もしかして嫌がらせではなくて兄を好きなのではないかと思えた。自分も似たようなことをしていたからだ。そこから共感を持ち、親しい友を作ることができた。


『って、ちょっと、結局は自分の嗜好ブラコンかーい!』

 そんなふうに言われたって気にならない。だって、自分の話に共感を持って返答されれば、やはり嬉しいものなのだ。ということは、相手も少なからずそう思っているのだ。

 そのほか、情報収集のための社交の場へ積極的に出席したおかげで母との間柄も改善できた。


「みんなみんな、あなたが導いてくれたからですわ」

 そうして、元婚約者と友(魔導書曰くヒロイン)の裏切りを避けることができた。


『そうしたら、氷の次期公爵サマに溺愛されちゃったんだものねえ』

 まるでニヤニヤ笑うかのように、文字が躍っている。

 ちょっと照れるけれど、でも、魔導書の嬉し気な様子が伝わって来て、セシリア自身も楽しくなってきた。

「ええ、そうなのですわよ!」

 そして、自分も愛しているのだ。

『アラ、素敵ね! 胸を張ってそう言えるのって良いわよね!』





※登場人物

セシリア・カーライル:侯爵令嬢。

ギルバート・カーライル:セシリアの弟。

ハロルド・イームズ:セシリアの元婚約者。

アンジェラ・エアハート:子爵令嬢。ヒロイン。

ジェイラス・フェアクロフ:公爵子息。

アレクシア・フェアクロフ:公爵令嬢。第二王子の婚約者。

エドワード・エントウィッスル:第二王子。

ブレンダ・コフィ:伯爵令嬢。ガードナー伯爵令息の婚約者。

エリオット・ガードナー:伯爵子息。




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