表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まゆてん ~魔王と勇者、双子の小学生に転生す~  作者: ななくさ ゆう
第3章 魔王と勇者の小学生生活
26/41

第3話 勇者と魔王、テレビゲームをする

 俺は目の前のモンスターに炎の玉を投げつけた。

 よし! モンスターは倒せた。

 次は崖に向かってダッシュ! そしてジャンプした!


 向こうの崖までなんとか……

 くっ、ジャンプしたのが早すぎたか!?

 と、とどかない!!

 まずい、足下はどこまでも続く奈落への空間。

 このままでは……

 だが、ひとたびジャンプしてからでは姿勢制御もままならない。


「くそおぉぉぉ!」


 俺の叫び声もむなしく、俺が()()()()()()()()()()は奈落の底へと転落したのだった。




 目の前のテレビ画面にはむなしくこう書かれていた。


『GAME OVER』


 俺はコントローラーを床に置いて頭を抱えてしまった。


「ううう、またか……」


 ここはそらの家の子ども部屋。

 勇美やひかりと一緒に遊びに来て、最新ゲームをプレー中。


 以下、順番にそら、ひかり、そして勇美の言葉である。


「影陽くん、事故の後テレビゲーム下手になったよねぇ」

「影陽お兄ちゃんへたー」

「ふっ、1面すらクリアーできないとはな。勉強はできても実戦がなっとらん」


 散々な言われようである。

 何しろ、俺がプレーする前にひかりはあっさり5面まで、勇美にいたってはラストステージ直前の7面まで攻略してしまったのだ。

 ちなみに、そらは何度もラスボスを倒しているらしい。


「テレビゲームは実戦じゃないだろ! 未だに割り算もできない勇美に馬鹿にされたくない!」


 叫んだ俺に、勇美が冷たい目で言った。


「ふん、勉強ができればそれでいいなど、お前は丸木か」

「うっ!」


 くっそぉ!

 ものすごく悔しい。

 が、たしかに『ゲームなんて上手くても勉強ができなければ~』なんて、情けないにもほどがある開き直りだった。


「そらくん、もう1回だ! もう1回挑戦させてくれ!!」

「それはかまわないけど」


 俺は再びコントローラーを握って、冒険の旅をスタートした。


……そして、1時間後。


「……なんでだ……なんでこうなる……」


 俺のキャラクターはすでに穴に16回落ち、モンスターに23回殺された。

 ちなみに、まだ1面をクリアーできたことはない。


 ひかりが「ぷぅ」っとほっぺたを膨らませて言った。


「さっきから影陽おにいちゃんばっかりゲームやってずるーい」


 勇美とそらもうなずく。


「たしかにその通りだな。物資を独占し他者に譲らないとはさすが魔王、横暴なことだ」

「気持ちは分るけど、もう1時間だしね。せっかくひかりちゃんにも新しいゲーム機で遊んでもらおうと思ったのに……」


 うううぅ。

 正論過ぎて、返す言葉もない。


「ごめん」


 俺は言って、コントローラーをそらに渡した。


「あ、僕はいいよ。このゲームはすでにたっぷり楽しんだし。ひかりちゃんがやりなよ」

「うん。そらお兄ちゃんありがとう!」


 ちなみに、このあとひかりはあっさり8面までたどり着き、勇美にいたってはラスボスを倒したことを付記しておく。


……さすがに情けなすぎる……




 俺たちがひたすらゲームに夢中になっていると、そらの母親の声がした。


「影陽くん、勇美ちゃん、ひかりちゃん。そろそろ17時よ。お家に帰らないと」


 あ、もうそんな時間か。

 たしかに子どもは……とくに幼稚園児は帰宅すべき時間だな。


『はーい』


 俺たちは答えて、玄関へ。


 そらとその母親が見送ってくれる。


「じゃあね、影陽くん、勇美ちゃん、それにひかりちゃんも。また遊びに来てね」

「気をつけて帰るのよ」


 俺たちは各々「はい」と頷きつつ、玄関の扉を開けた。

 冷気が玄関の中へと吹き込んだ。


「やっぱり寒いわねぇ。3人とも風邪をひかないようにね」


 すでに12月。もうすぐ冬休みだ。

 天気予報によれば本日の最高気温は3℃とのこと。


 勇美がひかりに言う。


「ひかり、ちゃんとコートのチャックをあげて。マフラーもつけろ」

「うん」


 転生してから3ヶ月。

 勇者殿は意外なほどちゃんとお姉ちゃんをしていた。

 正義感が暴走しているだけの娘かとおもったか、小さな子の面倒をみるのは上手い。

 ひかりだけでなく、ひかりの幼稚園のお友達の面倒もちゃんとできる。

 この点、俺よりも優秀だと感じていた。


 半月ほど前、俺がそう指摘すると、勇美は「当然だ」と言った。


「妹や弟の世話なら慣れているからな」

「家族はいないと言っていなかったか?」

「私は元々孤児院の出だ。血はつながっていないが妹も弟もたくさんいた」


 なるほど。


「それに、冒険に出てからも私を慕ってくれる妹分がいたからな」

「そうなのか」

「ああ。エレオナールという少女だ。私の旅に無理やりついてきた……ひかりほど小さくはなかったがな。天才的な回復魔法の使い手だった」


 ひかりも俺よりも勇美に懐いているし、彼女は幼児に慕われるようだ。


「俺は小さな子とどう付き合ったら良いのかわからん」

「ふっ、魔王は子育てが苦手か」

「まあそうだな。その点は勇美の方がずっと上手いと思うぞ」


 実際、転生前の俺には子供もいなければ、妹も弟もいなかった。

 どうにも子どもというのをどう扱ったらいいのかわからないのだ。

 覇王将軍セカレスの1人息子にも、結局最後まで懐かれなかった。


「しかし、その少女が何歳だったかは知らんが、冒険の旅に子どもを連れていくのは大変だったのでは?」

「エレオナールの回復魔法にはずいぶん助けられた。だが……」


 勇美の顔が曇る。


「どうした?」

「いや、なんでもない。忘れてくれ。こんなこと、話すつもりじゃなかった」


 ふむ、何かあったようだが、無理やり聞き出すことでもないか。

 この時、俺はそう判断した。

 だがあとになって思えば……




 そんな半月前の会話を思い出しながら、家路へとむかう俺。

 ううぅ。本当に寒いな。

 

 と。


 おれの頬に冷たいものが落ちてくる。

 雨か?


 と思ったが、すぐに違うと気づいた。

 白くて冷たいふわふわした物体だ。

 ひらひらと頭上から降ってきた。


「なんだ、これは?」


 試しに手の平で受け取ってみるが、白い物体はあっさりと溶けて水になってしまった。

 勇美がポツリと言う。


「雪か」


 ひかりもはしゃいで言った。


「そーだね。つもるかなぁ。ひかり、雪だるまつくりたーい」


 これが雪というものか。

 魔王城付近では雪など降らない。

 夏は涼しく冬は暖かい、そんな場所だった。

 日本のようにはっきりとした四季が無かったとすらいえる。


 俺はひかりに聞かれないように勇美に言った。


「よく、雪だと分ったな」

「いや、そりゃあ分るだろ。向こうの世界でも何度も見たし」

「え、そうなのか?」

「ああ、ひかりははしゃいでいるが、雪が積もると色々やっかいだぞ。馬車は動かなくなるし、下手に冒険を続けると凍傷になったり、最悪凍死するからな」


 どうやら、勇者にとって雪はなじみ深いモノだったらしい。

 たしかに人族の大陸には雪がふる場所があると聞いた。

 もちろん、日本の東京でも雪は降る。


「なんにしても、早めに帰った方がいいだろうな。ひかりを凍傷にするわけにもいかん」

「そうだな」


 俺は勇美にうなずいて、家路を急いだのだった。




 この日。

 雪は夜中までふり続けた。


 そして翌朝の日曜日。

 窓の外は真っ白に染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ