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まゆてん ~魔王と勇者、双子の小学生に転生す~  作者: ななくさ ゆう
第3章 魔王と勇者の小学生生活
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第1話 魔王、家庭教師に就任する

 神谷家の子ども部屋で、俺は頭を抱え、顔を引きつらせていた。


「お前、マジか……」


 一方、勇美は不満顔を浮かべた。


「なんだ? 文句があるのか?」

「いや、文句というか……」




 ササゴと田中先生が学校から消えてから……つまり、俺たちが初登校をしてから2週間が経過した。

 しばらくは担任すら決まっておらず、授業も大半が自習だったのだが、一昨日新担任が赴任した。

 40代後半の温和な女性で、()(じま)(はる)先生という。

 もちろん田中先生のような問題教師ではない。

 教え方も上手く、児童からの評判も上々……まあ、田中先生のあとならどんな先生でも文句は出にくいだろうけど。


 木島先生の授業を受けていて俺は気づいた。

 いや、元々なんとなく思ってはいたのだが……


 俺は今日、帰宅後に勇美に言った。

 

「お前、授業の内容まーったく理解していないだろ」

「うるさいっ。貴様に何が分る!?」

「授業中に先生の話を一切聞かずに教科書にイタズラ書きをしていたのは分る」


 まだ就任間もないからか、木島先生も見逃してくれているようだが。


「……うぅ」


 どうやら図星らしい。

 まあ、わからんでもない。

 教科書の漢字にはふりがながふっていない。

 よって、ゼカルのくれた読解力だけでは読み解けない。


 この世界、かなり高度な教育システムが発達している。

 元の世界であれば、11歳児に三角形の面積の計算方法を教えはしないだろう。

 この世界の社会情勢や歴史についての知識が彼女にないのも当り前だし、理科にいたっては俺でも知らないことも多い。

 ゆえに、勇美……勇者シレーヌが授業についていけないのはある意味で仕方がない。


 仕方が無いのだが……

 俺は勇美の学力を調べた。

 とりあえず、判定しやすい簡単な計算問題を出したのだが……


「4+3は?」


 さすがにいくら何でも勇者殿をバカにしすぎかなとおもいつつ聞いたのだが。

 彼女は問題を聞くなり両手の指を折り始めた。

 そしてたっぷり5分は頭を悩ませ、答えた。


「7だ」

「……正解だ」

「ふむ。私だってこのくらいはできる!」


 いや、偉そうに言うけどな。


「8+6は?」


 俺が次の問題を言うと、彼女はまた指を折りだした。

 そして、両手の指を全て折ったところで固まる。


「ひ、卑怯なっ! 指の数が足りないではないかっ!!」


 この瞬間、俺は頭を抱えた。

 で、冒頭の会話である。


 ちなみに元の世界もこの世界も十進法を使っている。

 それこそ、指の数が同じだからだろう。

 この点、俺にとってはラッキーだった。

 その後も、俺は計算問題を出してみた。


 足し算は答えが1桁ならなんとか、引き算は1桁でも2回に1回は間違える。かけ算割り算に至っては説明しても意味すら理解しない。


 さらに言語。なんとこの娘、ひらがなが読めなくなっていた。

 もちろん、ゼカルは彼女の頭にもひらがなの知識を入れてくれたらしい。

 だが、異世界転生してからほんの数週間できれいさっぱり忘れてしまったようだ。


 次に社会科や理科。こちらはもっと壊滅的だ。

 もともとこの世界の歴史や地理がわからないのは当然だ。

 だがしかし、野菜や果実をどうやって作るのか知らないというのは一体どうしたことだろう。

 種を土にまくという知識すらないのだ!

 もちろん、肥料なんて聞いたこともないという。

 むろん、その程度は向こうの世界でも一般常識である。


「地図の読み方も方位磁石も知らんで、どうやって冒険していたんだ? 金の計算だって困っただろうに」

「ふんっ、そんなものは仲間に任せていた。私には頼りになる友がいたからな。それに金など教会に行けばいくらでももらえるだろう?」


 頭が痛くなってくる。

 たしかに適材適所で人材を使い分けるのは大切である。

 人族が彼女に押しつけた勇者という役目への報酬と考えれば、金など無制限に与えるというのも、まあ分る。 

 が、それと基礎教養を学ばなくていいかはまったく別問題である。


 俺は冷たく言った。


「今日から2時間。学校から帰ったら俺がお前の家庭教師をする」

「な、なんだと!? 私に魔王から学べというのか!? そんな屈辱を受け入れられるかっ」

「こんな簡単な足し算引き算が出来ないことを屈辱だと思えっ!!」


 思わず叫んだ俺。

 大声を出したからか、ひかりが「影陽おにいちゃん、どうしたの?」と言いながら子ども部屋に入ってきた。

 ノックくらいしろと教えてあげるべきかもしれないが、幼児だしそこは見逃すか。


 が、ふと思いついて俺はひかりに聞いてみた。


「ひかり、8+6がいくつかわかるか?」

「うーんと、15……じゃなくて14かな?」

「おお、正解だ。ひかり、えらいな」


 俺が褒めると、ひかりは得意げに笑う。


「うん。幼稚園でお勉強したもん」


 5歳で繰り上がりの足し算を習うとは、やはりこの世界の教育は高度だ。

 これまでの会話からひかりがこの程度の算数はできると思っていたのだが、あらためて驚くな。


 そして、俺は勇美をジト目で見ながらたずねた。


「で、どうする?」

「う、うぅぅ……勉強する」


 ま、5歳児に11歳……いや、16歳の娘が負ければ他に言葉はないだろうな。

 こうして、この日から俺は恐れ多くも勇者殿の家庭教師に就任したのだった。


 ちなみに、勇者殿が2桁同士の足し算をなんとかマスターできたのは、これからたっぷり50日後。すでに秋を過ぎて肌寒い季節に入ってからであった。

 

第3章開始です。この章は魔王と勇者の明るく楽しい小学校生活をお送りする予定です♪

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