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traitor

作者: h

遡ること数ヶ月前、桜が散る頃に俺の心も散っていた。これは就活に失敗し、人生に絶望していた俺に起こった夢のような話だ。

おれはゆうや。就活に失敗したいわゆる負け組だ。今までなんとなくの人生を過ごし、平凡な人生を過ごしてきた彼にとって就活に失敗したショックはあまりにもでかかった。今日も意味もなく外をふらつく。そんな時俺は気になるものを見つけた。

「なんだこれ、こんなものここにあったか?」

いつも通る道に怪しげなガチャガチャを見つける。

「人生逆転しませんか?一等は人生を逆転できる機会を差し上げます」と書いてある。普通の人間ならこんな怪しいガチャガチャは回さないだろう。しかし、ゆうやには余裕がなかった。考えるより先に手が動いてしまっていた。ゆうやは出てきた中身を取りだし確認する。中身は一等と書かれた紙だった。

「ふざけてるのか?こんな紙なんの役にも立たねえよ。」

と紙を破り捨てようとした瞬間、ゆうやの意識は遠のいていった。

気がつくと、何も無い殺風景な空間にゆうやは連れられていた。

「ここは、どこだ、、」

そして、首元に黒い首輪のような物が取り付けられていることに気が付いた。

「なんだこれ、、くっ、取れない、、、」

すると近くにいた元気そうな年寄りのおじいさんに話しかけられる。

「気がついたか?あんたもガチャを回して一等を出したんじゃないか?」

おじいさんは何故か俺の行動を言い当てる。

「はい、そうです。どうしてわかったんですか?」

と尋ねるとおじいさんはこう言う。

「ここに集められた数百人の人間は全員ガチャで一等を出した後、気を失い、気がつけばここにいるそうじゃ。」

そんな馬鹿なことがあるわけ。と思いたかったが、それを否定するようなことが目の前で起こった。

あの首元についている黒い首輪が爆発して目の前で人が死んだのだ。ゆうやは初めて人の死を目の当たりにし、動揺した。目の前で一体何が起こってるか訳が分からなかったのだ。

「ゲームはもう始まっておる。お主も早く立つのじゃ。」

おじいさんは何事も無かったようにゆうやに話しかけた。

「一体何が起こってるんだ!ゲームってなんだ!教えてくれ!」

ゆうやが尋ねると、

「殺人ゲームじゃよ、今は説明している時間はない、協力してくれ。」

ゆうやはなにもわからないまま立ち上がり、おじいさんに従った。

「ルールは制限時間内に三人のチームをつくることじゃ、ここへ来て、意識が戻ってから十五分以内にチームを作らないかん。さっき死んだ者はもう十五分経ってしまったのじゃろう。わしもあと二分しか残っとらん。こんな老いぼれとグループを組むものはいないからのう。」

ゆうやはそれを聞いてとてもおじいさんと離れてチームを組むことはできなかった。

「急いであと一人を探しましょう!」

ゆうやとおじいさんが仲間になってくれそうな人を探していると一人で同じように仲間を探している女性を見つけた。

近くまで行くと、ゆうやは度肝を抜かれた。なんと大学の頃に片思いをしていたしおりだったのだ。

「ゆうやくん?」

彼女もまた驚いた様子で俺に話しかける。

ゆうやは片思いの相手に出会った喜びを押し殺し、事情を説明した。

「しおりちゃん!もしよかったら俺たちとチームを組んで欲しいんだ。このおじいさんの残り時間がもう一分しかないんだ!」

しおりは嫌そうな顔一つせずに

「わかったわ、組みましょう!よろしくね。」と答えた。

しおりのおかげでゲームをクリアすることが出来た。

「こんな老いぼれと組んでくれてありがとう。わしの名前は源三じゃ。よろしく。」

「一体ここで何が起こってるんですか?」

「ここは恐らく架空世界。現実世界で謎のガチャガチャをまわし、一等を出したものがここに集まったと考えておる。お主が目覚める前にゲーム説明の映像があってのう。そこにはこれからいくつかの殺人ゲームをクリアし、勝ち残ったものが人生のやり直しが約束されると説明されておった。」

「こんな滅茶苦茶なゲームがまだ何回も!?」

ゆうやは気が遠くなりそうだった。今まで平穏に過ごしてきた彼にとって人間の死はあまりにも刺激的だったのだ。

「ほれ、そうこうしてるうちに次のゲームの説明が始まるようじゃ。」

目の前に映像が流れ始める。

画面の中では、不気味な仮面をつけ全身黒一色に身を包んだ男が淡々と話し始める。

「お集まりいただいた参加者の皆様。あなた方には今から生死をかけた二つのゲームに参加していただきます。まず最初に行っていただくゲームは宝探しです。先程組んでいただいた三人一チームで会場内に隠されている宝物十五個を探していただきます。制限時間一時間以内に宝物を見つけることが出来なかったチームは、その場で首についている爆弾が爆発する仕組みになっています。それではゲームを始めます。」

会場が一気に混乱状態に陥る。

ここにいる人達はみな、人生を逆転するチャンスを期待していたのにも関わらず、目が覚めると得体の知れない殺人ゲームに参加させられることになっていたのだから、混乱するのも無理はないだろう。

一人の男が大声をあげる。

「俺は大金がもらえると思ってあの変な男の話に乗ったんだ!それなのにゲームにクリアできなければ殺されるだと?こんなバカみたいなゲームやってられるか!こんなところ出てってやる!」

そう言って走り出した途端、男の首につけられていた爆弾が大きな音を立てて爆発した。

その場にいた参加者達が、逃げ出そうとした者は殺されてしまうのだと皆一斉に理解した。

「これは遊びじゃないぞ、みんな、慎重に行動するんじゃ。」

源三が言う。

「でも、どうしたらいいんですか?会場はこんなにも広いのにヒント一つすらないんですよ?」

しおりが不安げに尋ねる。

「わしらには二つの選択肢がある。一つ目はこのままじっとして何もしないでいること。二つ目は制限時間ギリギリまで探すこと。どちらを選ぶかはお主たち次第じゃ。」

「何もせずに殺されるなんて馬鹿らしすぎます。最後まで諦めないで、僕たち三人で協力して探しましょう。」

「私も賛成。まだ人生を諦めるのは早いと思うわ。」

しおりが言う。

「決まりじゃな。よし、わしらも頑張るとするかね。」

こうして、ゆうや達は再び動き出す。

「とりあえず、手分けして捜索をしませんか?」

「そうじゃな。」

「それなら、私は右を探すわ。」

「わかりました。左を探します。」

「それじゃ、わしは正面を探そう。」

それぞれが散り散りになり、行動を開始する。

しかし、いくら探しても三人は宝にたどり着くことが出来ずにいた。

他の参加者達も血眼になって宝を探している。

しかし、制限時間は刻々と迫っている。

「そろそろ制限時間が近いのじゃが、見つからんのう。」

「もう少し範囲を広げてみましょうか。」

三人が移動していると、大きな物音が聞こえてくる。

「この部屋からじゃな。」

「行ってみましょう。」

三人は部屋の中に入る。するとそこには、血まみれで倒れている複数人の参加者がいた。

彼らは既に息絶えているようだった。

二人の心臓がドクンドクンと脈打つ。

嫌なものを見てしまった。とゆうやは思った。

しおりは恐る恐る、倒れている男性の元へ向かう。

そして、その遺体の近くで何かを拾った。

しおりはそれを拾い上げ、二人に見せた。「これ、宝じゃないかしら?」

それはまさに三人が探し求めていたものだったのだ。

「残念じゃが、もうこの参加者らは助からんじゃろう。手柄を奪うようで気が引けるが、この宝はわしらが生き残るためにありがたく利用させてもらおう。」

「これで俺らは一つ目のゲームはクリアできるってことか。」

「そうね。」

三人は急いで、もと来た道を戻る。

「それにしても、この参加者達はどうしてこんなところで死んでいるのかしら。」

「おそらく、他のチームが見つけた宝を奪おうと狙っていたずる賢いチームが宝を見つけたチームに襲い掛かり殺し合いになってしまったんでしょう。」

「なるほど、」

「ということは、俺らも制限時間がくるまで、他のどのチームにも宝を持っているということを悟られてはいけないってことか。」

「そういうことじゃな。」三人は更に警戒しながら進む。

すると、またもや物音が聞こえる。

「宝があることを嗅ぎつけてやってきたやつらかもしれないな。」

三人は構える。

「そこにいるのは何者だ!?」

すると三人の前にゆっくりと人影が姿を現した。

「あら、バレちゃったのね。」

そう言って出てきたのは一人の女だった。

「あなた達、ずいぶんと運が良かったみたいね。安心して。私は宝を奪ったりはしないわ。」

女は笑みを浮かべながら話す。

「俺らの会話を聞いていたのか!?誰だか知らないが、他の参加者達に宝のことを言ったら、どうなるかわかってるだろうな!」

ゆうやが叫ぶ。

「大丈夫よ。あなた達のことは誰にも言わないわ。そのかわり私にあなたたちの力を貸してくれないかしら。」

そう話しかけてきたのは、「ゆか」という女性だった。

「私たちのチームの宝も一緒に探してくれないかしら?まぁ応じないなら、あなた達が宝を持っているって言いふらすだけなんだけどね。」

ゆうや達のチームには一緒に宝を探す以外に選択肢はなかった。

ここでゆうやは、ゆかの後ろに子供がいることに気づいた。

「君、名前は?」

ゆうやが子供に尋ねた。

「僕、れんっていうんだ!小学四年生!」

元気な声でれん君は返事をしてくれた。どうやらゆかとチームらしい。しかし、ここでゆうやは気付いた。チームは三人一組なはずだ。

「ゆかさん、チームのあと一人はどこにいるんですか?」

「ん?あぁ、あのバカ男のことね(笑)見なかった?このゲームが始まるとき逃げ出そうとして爆発した男を、あいつがチームメイトだったのよ。まぁ足手まといが減ったから

いいんだけどね(笑)」

ゆかは笑いながら答えた。

「人が死んでるのに、何が面白いの!!」

しおりが突然叫ぶ。

「私はここに勝ちに来たの!足手まといはただの邪魔者よ!」

ゆかも言い返す。

「まぁまぁ、お二人さん、今は言い争いをしている場合ではないぞ。早く宝を見つけなければ。」

源三がその場をなだめてくれたおかげで二人は少し冷静になったようだった。

 宝探しゲームの残り時間は十五分を切った。五人は汗をかきながら必死に宝を探していたがなかなか見つからない。すると突然、源三がしゃがみ込んでしまった。

「源三さん!大丈夫ですか!?」

ゆうやが心配する。

「大丈夫じゃよ、まだ宝を探さなければ、、」

源三はそう答えたが、疲れているのは明らかだった。もっと俺が頑張らないと。そうゆうやは思った。

 なぜ、ゆかとれん君のチームの宝を三人が必死に探しているのか。それはしおりがれん君になぜこのゲームに参加したのか聞いたのがきっかけだった。

「ねぇれん君、どうしてこんなゲームに参加しているの?嫌なら答えなくてもいいけど、」

「実はね、僕のお母さんが病気で寝たきりなんだ。手術すれば治るみたいだけど、うち貧乏だからそんなお金ないんだ。だからこのゲームで勝ち残って、お母さんとまた遊びたいんだ!」

れん君はそう明るく答えたが、どこか悲しい目をしているふうにゆうやには見えた。そして、その話を聞いた三人は一緒に宝を探しだすと心に決めたのだ。

 しかし、無情にも時間は過ぎていく。残り五分、五人は焦り始めていた。血眼になって探すが宝は見つからない。よそでは宝をみつけたチームとそうでないチームが争いあってるのが見える。何人かは奪い合いのせいか倒れている。

「私たちも宝を見つけたチームを襲えばいいんじゃない?」

ゆかが提案してきた。

「奪い合って死んだらもともこもないだろ!そもそそも僕たちには勝ち目がないじゃないか!」

ゆうやは宝を探しながら叫んだ。

 残り二分ーー、

みんな気が動転してきているのだろう。

「クソッ、クソッ、!見つからない、、」

ゆうやは叫びながら探す。

「お願い、出てきてよ、、」

しおりは今にも泣き出しそうになっている。このままではれん君を助けることができない。

れん君も小さな手で必死に宝を探している。だが、一向に宝は見つからない。

 残り一分ーー、

すると突然ゆかがゆうやに襲い掛かる、

「おい、何するんだ!離せよっ!」

ゆうやがふりほどいた。

「でも、このままだと私とれん君は死んじゃうのよ!」

ゆかが叫ぶ。そうだ俺が宝を持ったままだとれん君は死んでしまう。

「そんなことは分かってるよ!でも、、」

 残り三十秒ーー、

ゆうやはれん君に目を向ける。れん君の小さな手はもうボロボロになってしまっている。

「いいよ!みんなが僕のために一生懸命探してくれて嬉しかった!お母さんとは天国で遊べるかもしれないしね!」

れん君は笑顔で言ったが目がうるうるしているのが見て取れた。

 残り十秒ーー、

「ごめんっ、ごめんっ、、本当にごめん、、」

ゆうやは泣きながら謝った。れん君に宝をあげたい気持ちは山ほどあったが、自分もしおりと源三さんの命を背負っているのだ。

「私も力になれなくて、本当にごめんっ、、」

しおりも大粒の涙を流しながら言った。

 残り五秒ーー、

「ほれっ、」

源三がれん君に向かって何かを投げた。れん君はおもむろにキャッチした。

         「ーーーーゲーム終了です。ーーーー」

 周りで悲鳴と共に爆発音が聞こえた。宝を見つけることができなかった人たちの首の爆弾が爆発したのだ。しかし、目の前にいるゆかとれん君の首の爆弾が爆発することはなかった。

 れん君に源三が投げたもの、そうそれは宝だったのだ。

「なんで、、なんで、源三さんが宝をもっているんだ!」

ゆうやは頭が追いつかなかった。いや、ゆうやだけじゃない。源三以外の全員が唖然としていた。

「気付かんかったかの?わしがしゃがみ込んだ時、宝を見つけて拾い上げたんじゃよ。」

源三はいつもの調子で淡々と話した。

「どうして教えてくれなかったんですか!!私たちの努力は、、」

しおりは涙を流したまま訴えた。しかしその涙は安堵の涙に変わっていた。

「もし、わしが見つけたことを教えたら、周りのチームが奪いにきてしまうじゃろ?じゃからみんなには申し訳なかったが秘密にしておいたのじゃ。」

源三がそう言うとみんな納得した。宝を見つけていたことを隠していたのは源三の心遣いだったのだ。

「おじいちゃん!ありがとう!本当にありがとう!」

そう言ってれん君は源三に抱きついた。源三も笑顔でれん君を抱きかかえた。

「いいんじゃよ、こんな老いぼれでも役に立てて良かったわい。」

「足手まといのおじいさんかと思ってたけど、助けられたわね。まぁ、感謝するわ。」

ゆかも照れくさそうに言った。その光景をみてゆうやとしおりもなんだか笑顔になった。残酷なデスゲームの中のつかの間の心温まる瞬間だった。

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