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6 お出かけ

「今日は何処に行くのですか?」


私は隣を見上げて、並んで歩いているジェラルドに聞く。

ちなみに手は解放してもらえた。シンプルに危ないというのもあるが、何より周りのお嬢さん方の視線が刺さって痛かったので。顔が良いのも大変なんですね。


「特に決まっていないよ。適当に歩いて良さげなところに行くだけ」

「なるほど」

「疲れたら言ってね? 運んであげるから」

「謹んでお断り申し上げます」


私が即答すれば、ジェラルドは遠慮しなくていいのにといつもの思考の読めない――腹黒そうな微笑みを浮かべた。

もし抱えられるようなことがあれば、それがたとえ米俵のような持ち方でも、お嬢さん方の鋭い視線の針が刺さるに違いない。いよいよ抹殺されるのではないだろうか。流石にまだ命は惜しい。





それから数分後。私はいま、非常に困っていた。


「ミーシャ、あの店はどうでしょう。服やアクセサリーが売っているようです」

「セレ、この先の広場でイベントを開催しているらしいよ。どうかな? セレが気になるのなら是非行こうか」


……2つの選択肢を出されても。

楽しませようとしてくれるのは嬉しいけれど、それぞれ違う提案をしないでいただきたい。



そう思いながら、私は頭を悩ませる。

……うーん、服は豪華なものでなければ買いたいわね。侯爵家からは寝巻きや上下合わせて5着しか持ってきていないため、ちょうどローテーションもキツくなってきていたところだ。


私は一つ頷き、彼らに提案をする。


「では、服を買ってからイベントに行くのはどうでしょうか」


ということで、私は2つの選択肢を取るという無難な選択をした。彼らはそれに同意したので、早速アルフレッドが言っていた店に入る。


店の中は、形式は前世の服屋とそれほど変わりなかった。男女両方の服があるため、王子達も私が服を選ぶ間の暇潰しは出来そうだ。もっとも、平民街の店で買いはしないだろうが。



……それから10分後。私はいま、再び困っていた――否、困らされていた。それはそうだ、誰だって好きで困っているわけではない。

閑話休題。現在、私は何故か着せ替え人形と化していた。入店後服を見て回り始めると、何故か王子達が後ろをついてきたのがきっかけだ。何この王子達と思ってしまった私は悪くない筈。


……淑女を着せ替え人形にし、あまつさえ本人を置いてけぼりの状態で、殿方が服を選ぶだなんて。そんなでは将来のお相手が見つからなくなりますわよ、と言いたいところだけれど……仮にも王子だもの。きっと淑女を放っておく殿方でも、淑女は殿方を放っておかないのでしょうね。


私は可愛らしく美しい女性たちの姿を想像して、何となく羨ましさを覚えながらその言葉をぐっと飲み込んだ。


……そして、「こういう服が似合うよ」だとか「これを着てくれないか」などとよく分からないことを言い争い始めて今に至るのだが――


「あの、ジェド達は服を見なくていいのですか?」


私はずっと気になっていたことを尋ねた。

そう。この王子達、入店してから今のこの瞬間まで男性ものを見ていないのだ。


……いや、平民の店で王子達が買い物をしないのは普通なのだけれど。それでも、他にすることもある筈でしょう? 私の服を見るのを優先してくれているのだとしても、民の様子をとか、平民の店はこんな感じなのかとか。

私が気づいていないだけかもしれないが、見ていた限りそのような様子は一切見られないのだ。何も私の服を見ることでしか暇が潰せないわけではないでしょうに。


「うん? 私はセレの服を見れればいいかな。それよりも、これを贈らせてくれないかい?」


そんな私の思いをよそに、ジェラルドは不思議そうに微笑むと、煌びやかな大人っぽいワンピースを持ってきた。いや、ワンピースというより貴族が着るドレスに近い。ディープブルーが基調となっていて、胸元やウエストなどにシルバーブロンドの刺繍がされている。

私は選んでくれたことにお礼を言いながらも、うーんと悩んだ。綺麗は綺麗なのだけれど……


「いや、兄上。ミーシャはそのようなものを好みませんよ」


そこでアルフレッドが、ジェラルドと私の間を遮るように立って言った。アルフレッドは私の気持ちを読み取る天才なのかもしれないと思いながら、私はこくりと頷く。

ええ、その通りです。私は前世の影響か、あまり派手すぎるものを好みませんからね。


「ミーシャ、これはどうでしょう?」


そして、そんなアルフレッドが私に見せてきたのは、ジェラルドと同じディープブルーのワンピースだ。ただこちらの方がシンプルで、小さなスレートグレイの造花がつけられているところも異なっている。丈は長くて、どちらかといえば大人顔よりの私にも合いそうだと思った。それに、前世でも似たようなものをよく着ていたからかどこか懐かしく感じる。


私は懐かしさに目を細めながら、アルフレッドに微笑んで言った。


「……アル、ありがとうございます。ジェドもわざわざ服選びを手伝ってくれてとても嬉しかったです。ですが、服はこちらのものにしますね。……ジェドのものは……私には綺麗すぎて、ちょっと似合わなさそうですので」


嘘である。大人顔よりで背も170弱あり、さらに今世ではそれなりに美人である私には、ジェラルドが選んでくれた服はかなり似合う筈だ。……ただ、私は豪華なものが苦手なだけで。


「……そう。残念だけれど、今度は送らせてね」


そう言ったジェラルドの表情が一瞬陰ったように見えたが、すぐにいつもの思考の読めない表情に戻ってしまい、よく分からなくなった。

反対にアルフレッドはとてもご機嫌な様子だ。自分のセンスが良いことに、そこまで嬉しさを感じるものなのだろうか。

私は不思議に思ったけれど、喜んでいるようなので何よりだと気にしないことにした。


そしてそのとき、店員の元気な声が響いた。


「お買い上げありがとうございます!」


え? と声の方を振り返ると、ちゃっかりジェラルドが支払いを済ませていた。私は申し訳なさと、少しのむっとした気持ちでいっぱいになる。

ちょっと、何をしているのだか! シンプルなデザインだとはいえ、すごく高かった筈だわ! 私の服の代金を王子がもつだなんて、こんな恐ろしいことはないし……何より、民の税金で何処の誰とも分からない変な平民女に高額な服を与えるだなんて、何をやっているのだろうか、あの方は。


「ジェド、いくらでしたか?」


私が内心を隠し、微笑んで聞くと、ジェラルドは何でもないと言いたげな表情で答える。


「セレは気にしなくていいよ」


その返答に、私は眉がぐっと寄るのを感じた。


「では、一応確認しますが……それは自分で働いて手にしたお金ですか? それとも、ご両親のお金ですか?」

読んで頂きありがとうございます!


次の投稿からは、話の長さの問題で3日連続投稿にする予定です!

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