20 好き
「――っと、こんな感じです」
「これはまた、凄いものを教えてもらったね」
「ふふ、そうでしょう! さっき教えたこれの応用を使えば、生活が結構便利になるかと思います。これを使って国を発展させてくだ――……あ」
……やばいですわ。隣にいるジェラルドからの視線の圧が、これまでにないくらい怖いです。
つ、つい、つい! ちょっと勢い余ってしまっただけで、国を発展させてって言ったのも他意はありませんし!
「……ミズキ?」
「ふ、深い意味はありませんわ!」
すっと低められた声に、私はびくっと肩を揺らしながら答えた。と、隣からの圧が……!!
「……口調が変わっているよ。動揺しすぎじゃない? これだとすぐボロが出てしまうよ」
「うっ」
仕方がないです、しばらく貴族の世界からは離れているんですもの!
そうして私が誰に聞かせるでもなく言い訳をしていると、ジェラルドは顔を手で覆い、深く深くため息をついた。
「元々バレているんだろうなとは思っていたよ。君達、王子殿下ってよく言い間違えそうになっているからね、分かりやすかったよ。ちなみに、その情報はどこで?」
彼は、私の顔を覗き込みながらそう問うた。……嘘をついていないか、表情を見るためでしょうか……?
「ええと……前世で。さっき話した物語を通して知っていま、した……」
「最初から知っていたんだね。ということは、君の転生者の友人も?」
「……あと、ノアもです」
私は自らそう告げた。最初のジェラルドの『君達』という発言でノアの方はバレていたと見たからだ。
「分かった。まあ、こうしてバレたのはタイミング的には良かったのかな……。バレてしまったからには協力して欲しいことがあるからね」
それはもう完璧に整った笑みを浮かべたジェラルドに、私は少し引いてしまった。面倒ですね……何をやらされるのでしょうか……ああ、そうだ。
「王子だと露見したのは、ジェド達のせいでもあるかと!」
こればかりは力説させてもらいますとも! 絶対に、私だけのせいではありません!
「まず、高貴なオーラが漏れすぎなんですよ! 姿勢や所作は適当に、服は適度に汚して、髪は艶を消してもっとボサボサにしないと。元々知っていなくても、私が初めて会ったとき、少なくとも下級貴族には見えました」
そう言うと、私はパチンと指を鳴らす。
「例えばこんな感じで、このくらい髪を乱して――」
私は風魔法を使って、ジェラルドの髪をいい具合にボサボサにしてみた――って、あ。……王子だと知った上でこの不敬は、斬首……!
「わああ、ごめんなさい! 仮にも王子殿下ですものね、もっと気を遣うべきでした。あ、名前も呼ばない方がいいですか?」
慌てていた私は、幸か不幸かさらっと『仮にも王子殿下』と一番失礼なことを言っていたことに気づかなかった。……だって、この人全然王子らしくないんだもの……!!
そして、急いで手と魔法を駆使して髪を綺麗にセットしようとするけれど……なんだか逆に悪化している気がしますわ! なんで!? 前世では女の子にだけだけれどよくしていたのに!
あわあわと目を回していると、突然ジェラルドが私の頬をむにっと摘んできた。
「いひゃいです!」
「セレは私が王子だからと態度を変えるの?」
私は即答で、はい! と言いたいところだったが、ジェラルドが求めている返事とは違う気がするので、胸の内に押さえ込んでおく。
「い、いえ! 出来ることならこのままがいいです」
でも、これも本心だ。不敬罪――斬首にならないのなら、彼とはこのまま友人でいたいと思う。
「ふふ、良かったよ。それに、好きな子に触られて嫌がる男はいないからね」
「良かったです……え?」
――え?
ま、待ってくださいまし。いえ、きっと幻聴ですわ。なんでそう聞こえたのかはわかりませんけれど。
「気のせいじゃないよ?」
でも、彼は私の考えを読んだかのように、私の頬に手を添えて言うのだ。
「え? なななななんでっ、こ、んなっ……」
一気に顔にぶわっと熱が集まるのが分かった。
こ、これは違いますわ! そう、おそらくこの人は恋をしたことがないのです。それで色々と間違えてるという、物語でよく見るあれでしょう。きっと!
「そ、そうだ、勘違いです、おそらくそれは! 友愛と恋を間違えていませんか?」
ほら、あのよくあるやつですよ? でないと、恋愛耐性ゼロの私が死にます。
私が期待を込めて、彼を見、ると……
「違わないよ。こういうこともしたいと思っているもの」
これは違うって言えないくらい、熱のこもった瞳で囁かれて。なに、これ……!
私が驚きで目を瞠っている間にも、ジェラルドは何かをしていて。目の前で起きたことがスローモーションに感じられた。
「――っ!? 今……何、して」
ジェラルドが自身の唇に人差し指を当てて、それを私にも同じ指で、って……――っ!?
「は、初めての、っかんせつキスですのに!?」
思わず淑女らしさも忘れてそう叫ぶと、腕を背中に回されて、ジェラルドの腕の中に緩く閉じ込められる。
「へえ? セレの前世では、こういう行為を間接キスって言うんだ?」
良いことを聞いたな、と彼は悪戯が成功したような笑みで私の耳元に囁いた。
……し、心臓に悪いですわ! 乙女ゲームのモブにこんなセクシーな声を付けたのは誰です!?
「アピールも頑張るから、これからもよろしくね?」
王子様らしくキラキラに微笑んで手を差し出すジェラルド。私は、情報量の多さのあまり目眩がした。
ああ、なんでこんなことになったのでしょうか。
脱走生活はなんだか前途多難になりそうです。
第一章完結です!ありがとうございます!
一章はジェラルドとの関わりを多めに書いてみました。二章では、ソフィーちゃんと他の誰かの関わりを多くする予定です。
お読み頂きありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




