第三話 麗しい殿方には美しい女房が居るのは当たり前にございますよね!
「ふむ屋敷の中でも見せてやろうと思ったがこのままでは警戒してしまって逃げてしまうかもしれんな…仕方がない少し籠に戻しておくか」
羞恥の絶叫を上げて呆けていたらその様に言われて籠に戻されてしてしまいました
「んっ?だいぶ毛が抜けてるな…まぁ野良なら処理もしていないものか」
「ココンッ」(妖力の扱いが今は難しくなっておりまして!!毛が無駄に伸びてしまっているだけです!!普段はこんなになっておりません!!!)
どうもこちらで目覚めてから力の扱いがあやふやになっているのを感じます
何やら調子もおかしくサテン様のいらっしゃる方向も掴めないので向かいも出来ませんし…
山で迷子になったら動かず救護を待つのが鉄則なのです
「ふふ…お前は見た目の事を言われるのは本当に嫌なんだな…すまんすまん」
そう言って私の頭をぽんぽんとお触りしたと思えば机に向かってしまわれました…この様な所作でもなんとも芳しい…あぁこの御方の気品の片鱗でもサテン様にあれば私この様な場にいなかったのでしょうね…
(…あれ?今回に限りありがたいことだったのでは…?)
不幸中の幸いの幸いが思いの外フテンは気に入っていたのだった
カランカラン
二枚目様は机に置いてあった金属で出来た何やら小さな物を振り音をたてました
なるほどあれは鈴のようなものなのですね…はて?なぜに鈴を?
わからずに首をかしげてキョトンとしていれば扉を開けて誰か執務室に入ってきた
亜麻色の御髪に媚茶の瞳を持った凛としつつもあたりの強さは感じられない…華やかな色合いながら池の景色を邪魔せずに溶け込む蓮の花のような雰囲気の若い女子でお仕着せもハイカラでお可愛らしくなんともまぁめんこい子でしょうか
「失礼します…旦那様どうかなされましたか?」
だんなさま…?あぁ…そうですよね、この様な二枚目様にそれはそれはお可愛らしい奥様がいて当たり前ですよね…
さらば私の春よ…いえいえ何も始まってもいないことは百も承知、しかしながら芽吹く前に根腐れしたのは本当の事…あぁこれでお社様の無茶振りの合間にこの素晴らしき二輪の花を見て楽しめても匂いを嗅ぐ事も尻尾を絡め合う事を夢想することもはばかられる事となってしまいました…これは帰ったらコマやヨマの可愛い毛を繕って癒やされましょう…
「ああ…野良のフォックスを拾ったのだが毛がそれなりに抜けてしまってな、暴れない様なら風呂に入れてブラッシングもしておいておいてくれ」
「了解いたしました、旦那さまのお召し替えはご用意いたしましょうか?」
「いや、自分でできる、それよりもメアリーはこいつをキレイにしてやってくれ」
「かしこまりました、それでは失礼いたします」
奥様らしきその人に籠を持たれてドナドナとお風呂場に直行と相成りました
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風呂場に連れてこられて桶に水を張っている奥様らしき人は服を脱ぐ様子はないのですがいいのでしょうか?そのおきれいなお仕着せが汚れてしまいそうで気が気でならないのですが…
「…どうやら暴れる様子も無いですしお湯を使いますか…ですがこの毛並みと体格は本当に野良のフォックスなんでしょうか?どこか他のお屋敷で飼われていたとも考えれますが・・」
あぁ…またもや言われてしまいました…二枚目様は身長もかなりありますし奥様らしきこの人もかなり細身でありながら程よく実りはお持ちにいらっしゃいます…メリケンやオランダの方々は眉目秀麗だとお聞きしますがほんにお綺麗にございますからね…私の様な少々ぽっちゃりなのはお気になるのでしょう…
…お社様も小柄で細身ですがあの方の体系を指すならば童としても細すぎますしもっと食べるべきですね
「魔石の残量はそれなりにありますか…『点火』」
口語ではなく何やらしっかりと発音したと思ったらなんともおかしい事が目の前で起こってしまいました
なんと!!人が霊力を使ったではありませんか!!!
げにも恐ろしきメリケン人…よもや阿蘭陀医学における外法『人体解体』にて妖怪たちをも己が知識に修めたのでしょうか…?
「ココン?」(これは私も解体されるのでは?)
ガクガクブルブルと震えてしまいそうですがそれを察知されて猶予も無く処理されてしまうやも知れません…あぁサテン様…耐える力をお与えください…
主とも言えるお社様に神頼みをするも何も反応が無い
「コ…ン…」(あぁあ追放されたせいで繋がりを感じません!!!これはもしや私大大大窮地というものでは…?)
「うーん…少しだけ嫌そう…?しょうがない『穏やかに』」
またもや霊力を使われまして…しかも私に直接ですと!?
そんな物!!いくら私でも呪い返して差し上げます!!!
…・・・
「コヒューン…」(おかひぃですね…身も心もぽやーんって…害有るものなら返せるはずなのに…あぁ…心地よい…そこそこです)
哀れ技の見切りを誤ったサテン狐はお湯の暖かさとメイド印のご奉仕殺法にトロトロな様を晒す羽目になったのだった
―ー
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「…おくつろぎくださりメイド冥利につきますね…ごしごし」
「コふぅ…」(あぁお風呂から櫛通しまで見事なお手前…極楽にございます)
フルコースの〆となるブラッシングをメイドが普段控える部屋にいた
なお知識の贄にされるという勘違いは飼われるや一緒に住むなどという言葉を聞いて安心したためすでに警戒などしていない
「コン。・・・」(しかしまぁ…一体ここはどこなのでしょうか)
おそらくメリケンのはずだがどうも違う気もする
起きた時は二枚目様に圧倒され意識を巡らせられなかったが今はゆったりと寛げるため自分の考えにそれなりに集中できる
他の神様の存在や力も感じれないのに神霊が操作もしていないのに妖力が空気中に存在するのだ
(日本では考えられぬ事…ですが外国の神の多くはすでに天に居るはずですし存在を感じれないのはしょうがないことなのでしょうか…そんな中で自力のみで日本に帰らねばならないのでしょうか…不安でたまりません)
「よし…完了いたしました…完璧なモチモチ具合とサラサラを実現出来ておりますね…このフォックスさんの体躯もよい方向にまとまったと思います…フォックスさんフォックスさん…旦那様を癒やすために一緒に精一杯のご奉仕をいたしましょうね」
(ご奉仕?はっもしやこの方生粋のご奉仕者では?)
ご奉仕欲あふれるその顔に私は侍女の魂を見出しました
なるほどこの方は奥様ではなく侍女なのですね?されど旦那様にする様に誠心誠意お仕えする者なのですね?
「ココン!!」(サテン様のもとに帰る目処も立ちませぬ!!!ならばならばしばしお世話になる二枚目様にご奉仕いたしましょう!!)
あぁこの様なお方と交流を図れるとは…阿蘭陀菓子を知るために阿蘭陀の言葉を勉強しておいてよかったです
そのせいで旦那さまと言っていた亜麻色の乙女は奥様ではなく使用人の一人のはずが女房とされてしまいましたとさ
女房役は本来補佐官のような立ち位置の人の事ですが勘違い神様の元にいたフテン狐ですのでまぁ言葉選びはガバガバです
この国の公用語は帝国語(設定ほぼ無し)ですが阿蘭陀語を習っていたフテンならば問題ありません。それに言語理解は異世界転移者の特権ですからね、不思議なパワーでデフォルト搭載です
不思議パワーであってなろうスキルじゃないので同音異義語が多い日本語では伝わりにくい上にそれを読解する者がフテン狐であることで多少弊害が起きています
そのせいで亜麻色の髪のメイドは家長としての意味合いでミスターとかマスターなどに類する意味の言葉を喋ったはずが旦那さまと訳されてしまいポンコツな勘違いから使用人なのに奥様と勘違いされてしまいましたとさ