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【 泡沫の蒼い蝶 】  作者: 灯閖 頼
8/12

≪ ❷…ウルフホワイト ≫





それからの旅は、とても出会いと実りの良いものだったのをよく覚えてる。

その一つ目は子等と旅を始めて直ぐの事だった。


相も変わらず食糧や物資を手に入れる為に私は逐一、色々な町や国、人里に訪れる。

彼と出会ったのはまだ夏にも関わらず雪の降っている気候の寒い地域だった…

森も一面白の世界で、金色に光る瞳をした大きな狼が身体を血塗れにしてこちらを見ていた。



「……大丈夫。攻撃はしない」

『…………』


警戒している子等に優しく囁く。

その声が狼にも聴こえたのか、狼は高台から見下ろしていた身体の腰を下ろし伏せるように座った。

警戒を解いたのかな、と思った瞬間


『貴様、魔女か?』


綺麗な細く美しい声がした。


「え?」

『聴こえないのか?蝶とは話をしていたようだが』

「あ、はい…聴こえます!」

『では質問に答えろ』

「ま、魔女です」

『何しに来た』

「街を探しに…?」

『何故疑問だ』

「私は色々な経験を積む為に旅をしている魔女なので…特に目的はなかったんです。街へは食糧調達にあればいいかなと思ったくらいでした」

『そうか』

「?」


狼は納得した途端会話を終えた。

こちらからも色々聞きたい事があったけど、それをさせないような…

この狼からは神々しい何かを感じた。



『魔女よ』

「はい」

『貴様治癒は得意か?』

「ええ。心得ています」

『ならば、』


そう言った瞬間身体を起こし、高台から軽やかにこちらに降りてくる狼。

周りが白い世界にも関わらず狼の姿ははっきりと分かるくらいに輝いて見えた。

身体が血塗れが故に捉えやすい、という事もあるがそれでもただただその動く姿は美しかった。

音も立てずに私の目の前に歩み寄り血が多い所を見せるようにまた腰を下ろす…



『体にある銃弾を取ってほしい』

「え?!」


狼の美しい姿に見惚れていたが、次の言葉で私は直ぐに我に返る。


「返り血ではなく、怪我をしていたんですか?!」

『そうだ』

「それを早く言って下さい!!!直ぐに治します!!」

『………』


狼は私の大きな声に耳をピンと立てて、目をぱちくりと見開いていた。

驚いたんだろうけど、こちらの方が事の重大さに驚いている

銃弾と聞いた瞬間に血の気が引く、

悪ければ身体の何処かを切断…取れなければ死に至らしめる可能性だってある事だ。


「痛くはないのですか?」

『うむ。気付いているだろうが、此処の主だ。この身体では痛みは感じぬ』

「それは喜ぶべき事なのか疑問ですが……放置していたら身体が朽ちていたかもしれないんですよ?」

『此処ももう直朽ちる。そうなればこの身体が朽ちるのも運命だろう』

「此処が朽ちる?」


子等の手伝いを借りながら治療をしながら狼の言葉に疑問を持つ、


『此処に眠る生気を全て取られたのだ。故に此処はもう直に朽ちる』

「どうしてそんな事に?」

『此処を治めている王国を知っているか?』

「詳しくは…知らないです」

狼銀聖ろうぎんせい王国というのだが。それが最近になって、王が変わった……前王とは白狼はくろうとの昔からの契約と忠誠があったが…それも今になって破られた』

「どうして…」

『人とはそういうモノだ』

「え?」

『国で契約と忠誠をした所で、その人間が代を重ねればそれも薄れる』

「そう、ですか…」

『それ故にこうなる事も運命と思えばいい』

「何だか、それは悲しいですね…」

『貴様はそう思うか』

「ええ。貴方はずっと信じてきた筈だから」

『………!』


また、狼は耳をピンと立てる。

輝く金色の瞳が私を捉えて離さない。


「あ、あの…私、何か変な事言っちゃってます?」


悪い事をしているのではないかと、気になってしまう…


『貴様は誰からも愛される者か何かか?』

「え?」


言葉の意味が理解出来ず、つい聞き返してしまった。


『貴様は昔に想うモノを蘇らせるような言葉を言う』

「だって、信じていた相手に酷い事されたら悲しいじゃないですか」

『ふむ』

「妖精だって主だって動物、人間…感情が分かれば皆そう思うのは当たり前です」

『悲しいのか』

「私にはそう見えました」

『そうか…』


そう呟いて、狼は王国があるであろう方向を見ていた。

その横顔は何処か悲しそうにも見えて…

寂しさを感じた。

きっと一人で守り抜いて、王国と良い関係を築いてきたのだろう。



「よし、応急処置はこれで完了です。あとは安静にすれば完治します」

『すまんな。助かった』

「あの…」

『なんだ』

「こんな事聞いて良いのか分かりませんが……朽ちると分かっていた、のに。どうして私に処置を頼んだんですか?」

『ふむ……』

「本当は朽ちたくなかったですか?」

『どうなのだろうか』


狼は傷口を見て、そう小さな声で呟いた。

その言葉に胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しく、悲しくなった。


『どうした』

「貴方が、悲しそうで」

『そう見えるか』

「はい…」


私は失礼とか、そんな事を考えるよりも勝手に……

身体が動き狼を抱き締めていた。

少しでも心が救われたらいい、ただただそう想いながら白い大きな身体を抱き締めた。



『貴様はこの雪の世界には温か過ぎるな』


その声はとても優しかった。


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